親の離婚…子どもの側からはどんな風に見えてる?~マガジンハウス担当者の今推し本『りこんのこども』

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こんにちは、マガジンハウスです。今回、おすすめしたい一冊は、このコラムでは珍しく鼻の奥がツーンとするノンフィクションです。親の離婚について、子供たちの目線で描かれた6つのストーリーを書いたのは、自らもシングルマザーとして二人の子を持つ紫原明子さん。起業家の家入一真さんと18歳で結婚、そして31歳で離婚、現在はエッセイストとして活躍中でもある紫原さんに、直接お話を伺うことができました~。

―――紫原さん、初めまして! 『りこんのこども』、とても楽しく、時折ドキッと、ちょっとうるっとしながら読ませていただきました。月並みですが、この本を書かれた経緯は?

紫原 「私自身がシングルマザーなので、自分の子どもも含め、離婚してる家の子どもってどういうこと考えてるのか知りたかったというのがきっかけですね」

―――紫原さんは、ご自分の離婚についてお子さんと話をされることはあるんですか?

紫原 「離婚後1年ぐらいは、お互い触れなかったんですが、なんとなく子どものほうから『ママはシングルになったんだし』とか言うようになってきて…」

―――アンタッチャブルだった話題の、糸口というか。

紫原 「そうです。で、こっちも温度見ながら小出しにしていって。『新しいパパでも探すか!』なんてふざけて言うと、ハハッって笑うような感じに、探り探りですがなっていきました」

―――あんまりズバズバ言うのもあれだし、あんまりずっと触れてはいけない話になってもねえ。

紫原 「触れなくても平気そうだからそのままでいいわけでもないと思うんです、子どもは。触れても触れなくてもいいぐらいにならないと。なんとなく見ないふりをしてるだけで、いつか蓋は開けないと」

―――この本は、各章でいろんなカミングアウトがありますよね。実は本当のお父さんじゃないんだよとか、実はあなたのパパに新しい子供ができるんだよとか、もっときついのは、実はママはガンなんだよとか…。親が子どもにカミングアウトする描写、難しくなかったですか?

紫原 「カミングアウトする時の表現は、極力、各家庭の温度感を表したいと思っていました。私が離婚を告げた時は、子どもたちの中でしっくりくるまで4年ぐらい別居期間もあったので、『ママ、離婚しようと思うんだよね』って、まあ慎重には言ったんですが、決めてからすぐ伝えたんですよ。例えばお母さんがガンになったユウキ君のおうちは、彼とお母さんの二人暮らしで割と対等な関係性だった。特にお母さんは、母としての自分も、個としての自分も大切にされている、かっこいい方だったので、その辺の温度感はインタビューや、その際に受けた印象の通りに表現しました」

―――なんか読んでてこちらも緊張するんですよね。この本は、ある程度フェイクの部分はあると思うんですけど、ほとんどは取材通りで?

紫原 「はい。フランクだとか他人行儀だとか、そういった関係性を表現する際の日常のひとコマ的なフィクションは入れましたが、子どもの発言、特に印象的なセリフはそのまま使いたいと思って。例えばこのマオちゃんみたいに、お父さんと新しい奥さんとの間に生まれる赤ちゃんには会いたくないって言ってる子がいるなら、そこから会いたいなって気持ちにまでなってくれたほうが、お話としてはまとまりがあるんですけど…」

―――ですよね。

紫原 「でも、それは絶対言わせないぞと。絶対のルールとして、事実はそのままにしようと」

―――その子の気持ちみたいのは補足しなかったんですね。

紫原 「そうです。そこを私のほうで深読みもしないようにしようと思って」

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「最初はぎこちなく『何話そっかな…』って悩んでた子たちも、だんだん乗ってくるといきいき話してくれるようになりました」と紫原さん。

―――だからなのか、面白かったのが、シングルファーザーの父子のおうちの章で、ナオト君は別れたお母さんが再婚したと聞いたときの感情が、寂しくならなくてよかった、ほっとした、ぐらいなんですよね。あんまり感傷的じゃない。

紫原 「ええ。あと、この章に関しては取材中に気づかされたことがあって、男同士だとお父さんが父親じゃなくて‟男”なんだと。お父さんに彼女がいることは、お母さんに彼氏がいることよりも受け入れやすいのかなって感じました。母と女の両立は難しいけど、父と男の両立は意外に簡単なのかもと」

―――紫原さん、息子さんいらっしゃいましたよね。いまおいくつですか?

紫原 「息子が中3で、娘が小5です」

―――では、例えば「彼氏ができた」っていう時がきたら、息子に言うほうが気を遣いますか?

紫原 「ですね(笑)。それに私はまだ家の中に<家庭>と<恋愛>を両立させる方法がわからなくて。だから本気で再婚を考えて家族になるんだったら子どもたちに紹介してもいいと思うけど、彼氏の段階で恋愛だけだったら家庭には持ち込まず、別軸で両立させたほうがいいんじゃないかと思ってます」

―――…えと、ご予定は?

紫原 「や、したいんですよ!(笑)。でもなかなか出会いがなくて」

―――離婚して働きだすとモテるっていう人もいますよね。

紫原 「世間知らず社会知らずの主婦だから遊んでやろうみたいな人が、働きだした直後はいっぱいいたんですけど(笑)。4年も経つと、下手にいろんなことがわかってきたせいかダメですね」

―――ということは、離婚するとモテるっていうのは、直後限定の話なんですか。

紫原 「悲しいかな私には実感ないですね。子どもがいると、ご飯作ったり洗濯したり、日常が結構忙しくて。それを機械のようにこなす自分と、恋愛をドラマティックにこなす自分の両立はなかなか難しいなって思います。でも、しないといけないという義務感はあるんですよ」

―――そうなんですか(笑)。なぜ?

紫原 「じゃないと老後が退屈ですから…(笑)。老後でも恋愛はしたいと思うんです、50、60になっても。だって子育ても終わっちゃって、きっと暇じゃないですか老後って。だから、老後でも恋愛できるように、今から練習しとかないといけないなって」

―――練習のための相手(笑)。

紫原 「いないんですよね、探さないと」

―――え、でもまだ30代ですよね。

紫原 「34です」

―――全然いますよ! そんなこと言ったら怒る人いっぱいいますよ(笑)。紫原さんは相当若くして結婚されましたよね。そこらへんお子さんに突っ込まれたりはしないんですか?「勢いだったんじゃないの?」とか「大恋愛の末なの?」とか。

紫原 「(笑)そこも、想像する暇がないみたい。子どもって自分の暮らしで忙しくて、親が恋愛していた時代に思いを馳せる時間がないというか」

―――思いたくない、ではないんですかね。

紫原 「もし離婚してなかったら気になったのかもしれないですけど…。今回話を聞いて思ったんですけど、子どもって結局、事実を受け入れるしかないんですよね。自分では生活できないから。そこを、‟仕方ない”以上の話を聞き出すっていうのが、結構難しいハードルだったんですけど」

―――あんまり感傷的にしすぎず、よかったです。あざとく泣かせにこなくて。

紫原 「ええ。あんまりお涙頂戴にはしたくなかった」

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島が好きでよく旅行に行く紫原さん。「都会で暮らしていると、時折、極端に‟自然!”なところに行きたくなるんです」(写真・中島慶子)

―――ただ事実だけでもドラマチックになっちゃう話ですよね。

紫原 「そうなんですよね。既にドラマにしてもおかしくない人生だったりするから、それをいかにドラマにしないように書くかが大変でした。淡々と、日常だよ、本当の話だよって」

―――この子たちにとっては日常で、継続中なんですもんね。

紫原 「でもね、さっきも話に出た、お父さんの赤ちゃんに会いたくないっていうマオちゃんには後日談があって。先日お母さんからメールが来て、『今、お父さんのうちにお泊りに行ってます』って。受け入れて、赤ちゃんに会いに行ったそうなんです」

―――事実がやっぱりドラマ! あの、この子たちが‟りこんのこども”じゃなくなる時期っていうのはいつごろだと思いますか? 年齢とか、通過儀礼的な何かを経てとか…。

紫原 「う~ん…」

―――そういうのって来るんでしょうか?

紫原 「来ないと思います。一生、‟りこんのこども”で、それが強みになる。自分の生い立ちに語るものがあって、それがアイデンティティになることもあるし。アイデンティティにならなくても、自分を構成する要素のひとつとしてはいつまでも残ると思うし。‟りこんのこども”であること自体は別にいいとか悪いとかじゃなくて無色透明みたいな要素であると思うんです。やっぱり子ども時代が自分を構成しますから」

―――ですよね。

紫原 「だから、例えば親が再婚したとしても、一時期‟りこんのこども”だったことが、その後の彼らを作り上げてるんだと思います」

―――彼らが大人になっても、親になっても。

紫原 「はい、親になっても、それは残っていて、強みになるはず」

―――それぞれの家庭に、離婚の瞬間のくだりがあるじゃないですか。お父さんが去っていったとか。これも、子どもの口から聞いたんですよね。

紫原 「そうですね」

―――辛くなかったですか?

紫原 「ほんとに辛かったです…。でも、子どもはもっと辛かっただろうなって」

―――でもちゃんと話してくれたんですね。

紫原 「話してくれました。彼らはもう‟仕方ないこと”と受け止めてて。そういうことって誰もが遅かれ早かれ経験するし、どこで経験するかってことだとは思うんですけど、辛いですよね」

―――なんかね、ほんとにネタにしてくれるといいですよね。

紫原 「ほんとそう思いました。『なんかさぁ、じゃあねってあの時パパ出てっちゃったけどさ~』って笑いながらお父さんのこと責められるといいなって」

―――紫原さんのとこはそういうふうにネタにできてますか?

紫原 「うちはまあ(笑)。派手に選挙出たりとかしてたし、お友達もみんな、お父さんがどんな人なのかを知っているから、『まあ、あのパパだからね』で通じるというか(笑)」

―――芸能人みたいなもんですね。

紫原 「で、子どもたちにも早くから、『強みに変えなさい』とは言ってるんです。特殊なおうちで生まれてるんだから、それはラッキーなことだよって。うち、お互いに本を出してるんですね、私生活があけすけの。父親のほうも離婚までの話を出版してるし、私も本を書いたし。そしたら娘が、『じゃあ私も将来、薄い本にしてコミケで売る』とか言い出して」

―――薄い本…。あれ、娘さん歴女という噂でしたけど(笑)。

紫原 「それが、最近、腐女子にもなってきてて(笑)」

―――歴女で腐女子。それは仲良くなりたい!(笑)

紫原 「新選組の駐屯所跡とか行ってますよ。カップリングとか私はわからないんですけど、でも幸福度はすごく高そうです」

―――いつか家入家の薄い本、読みたいです。今日はどうもありがとうございました!

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今週の推し本

『りこんのこども』 紫原明子 著
ページ数:168頁
ISBN:9784838728411
定価:1,404円 (税込)
発売:2016.08.25
ジャンル:ノンフィクション

[http://magazineworld.jp/books/paper/2841/]

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