『千日の瑠璃』16日目——私は日曜日だ。(丸山健二小説連載)

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私は日曜日だ。

大方は僥倖の予感だけで終ってしまう、何の変哲もない、静穏な空気を漂わせるだけの日曜日だ。それでも私は、やけ気味に炸裂する運動会の花火や、結婚式場の前に咲いた晴れ着や、ドライブの前にぴかぴかに磨きこまれた乗用車と共に、思うさま活躍する機会などほとんどなく、ただのほほんと暮らしているばかりの人々を浮き立たせている。

世一の父親は同僚が釣ったワカサギを肴に朝っぱらからきこしめし、世一の母親は実家の村へ向う路線バスに揺られて日常から抜け出しつつあり、そして世一の姉はというと、はるか遠方の、もはや友人とはいえぬ知人に電話を掛け、未だに変らない身の上を自噺的に嘆くことで、憂さを晴らしている。かれらは皆、ゆるやかで自由な時の経過のうちに身を任せ、掛け替えのないものとして私を受けとめてくれている。

しかし、世一だけは違う。私のことなどまるで眼中にない彼は、今し方この世に生まれ落ちた者のように、さもなければ千年も生きつづけている者のように、時空をないがしろにして、ひたすら籠の烏に没頭している。そのオオルリは囚われの身でありながら、世一にも匹敵する無碍の境地に達しているように思えてならない。私は両者の心を覗きこもうとする。だが、影と闇とが入り混じる底無しの淵に引きずりこまれそうになって慌てて飛び出し、光の世界へと大急ぎで逃げ帰る。
(10・16・日)

丸山健二×ガジェット通信

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