営業のハウツー本から音楽の広め方について学んだ ——アノヒトの読書遍歴:三浦隆一さん(後編)
2014年にメジャーデビューを果たした3人組ロックバンド「空想委員会」のボーカル、三浦隆一さん。これまで、『リング』『らせん』でおなじみの鈴木光司さんや、音楽プロデューサーの加茂啓太郎さんの作品に影響を受けてきたといいます。今回はそんな三浦さんに、前回に引き続き、日頃の読書の生活についてお伺いしました。
——三浦さんは、音楽活動をするうえでどんな種類の本を参考にしますか?
「ビジネス本、それもハウツー本ですね。結構好んで読みます。最近では、少しビジネス本と違いますが、KinKi Kidsの堂本光一さんの『エンターテイナーの条件』という本を買いまして。雑誌の連載をまとめたものを本にしたやつらしいんですけど。堂本さんが座長を務めるミュージカル『SHOCK』がどうやって作られているかなどが載っています。堂本さんはとてもストイックな方で、あんなに人気もあって売れている方がそのストイックさでやっているっていうのがとにかく衝撃でしたね。同じ音楽の世界で勝とうとするなら僕らはもっとやんなきゃだめだな、とそういった刺激はいっぱい受けましたね。この本からは、どうやってそういったマインドになれるかといったようなハウツーを学びました」
——ビジネス本なんですね。では数多くのビジネス本を読むなかで、特に影響された作品があればぜひご紹介ください。
「ジャック・ワースという方の本で『売り込まなくても売れる!–説得いらずの高確率セールス』という本があります。かつて僕はバンドをやりながら自分の音楽がどうやったら売れるのかって日々葛藤していた時期があって。その時に考えていたのは、会社の営業の方が自社の製品を売り込むのと僕らが音楽を聴いてもらうためにする行為は一緒だなって思ったんです。その時にこういう営業の本をたくさん読んだんですけれども、その中の一冊がこの作品です」
——具体的にはどんな内容の本なんでしょうか。
「営業職に就いている方向けのハウツー本です。私はもともと日本経済新聞社に勤めていて、つまりサラリーマン時代が私にはありまして。その時は、簡単にいえば、ピンポーンってお宅を訪問して新聞いかがですかという営業をやっていたのですが、そこからヒントをもらいました。営業して新聞を売っていくことと歌を広める作業は一緒だなと思ったんです。なので当時はこういう類の本をいっぱい読みました。読み終わってからは自分の音楽を誰に対して広めればいいかというターゲットがはっきりしました。それが一番大きかったです。今までは闇雲に演奏してそれを聞いてもらって。でも実はそれが間違っていて。いい曲とか音楽に出会いたいなって思っている人のところに自分から行って売り込まないと広まらないっていうのをこの本を読んで知りましたね」
——営業のハウツー本で音楽の広め方を学んだということでしょうか。
「そうですね。あとは、カーマイン・ガロという方の『スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン』という本では、MCのやり方ついて参考にさせていただきました。僕はライブでMCも担当しているんですけど、MCが苦手すぎて。実はライブで演奏がいかに良くても、MCが良くないとCDが売れないというところがあるんです……。それで、自分のMCを鍛えるためにこの本を買って読んでみたんです。結果、かなり参考になったと思います」
——具体的にどういった部分を参考にしましたか?
「この本では、ジョブズが新製品を発表した時に実際にしたプレゼンについてかなり分析をしているんですけど、たとえば『MacBook Air』の発表時。ジョブズは茶封筒の中からパソコンを取り出して『こんなに薄いんだぜ!』っていうプレゼンをしたんですよね。見ている側としては、それはすごいと思うわけです。それを受けて僕もMCで意識したことがあって。空想委員会がインディーズを卒業してメジャーにいくという発表をした時、お客さんに対して最初わざと暗めの雰囲気を出しておいて。そのあとにメジャーにいきますっていう話をしたら、1回落ちた感情が一気にわーっと上がって。過去あんなに大きい拍手は聞いたことないっていうくらいあたたかい拍手をもらいました。その光景は今でも鮮明に目に焼き付いています」
——三浦隆一さん、ありがとうございました!
<プロフィール>
三浦隆一 みうらりゅういち/青森県出身。ミュージシャン。3人組バンド「空想委員会」のボーカル、ギターを担当。2010年1月に現メンバーが加入し、音楽活動を本格的に開始。2011年12月にファーストミニアルバム『恋愛下手の作り方』でインディーズデビュー。2014年6月にファーストフルアルバム『種の起源』で念願のメジャーデビューを果たす。現在はライブ活動を中心に音楽活動を精力的に行っている。今年4月には、サードシングル「ビジョン/二重螺旋構造」を発売。「ビジョン」は、テレビアニメ「遊☆戯☆王ARC-V」のエンディングテーマに、「二重螺旋構造」は、映画『燐寸少女 マッチショウジョ』の主題歌に抜擢されるなど、今注目のバンドとして注目を浴びている。
■関連記事
新曲「二重螺旋構造」は、鈴木光司さんの作品をヒントにした ——アノヒトの読書遍歴:三浦隆一さん(前編)
作家・片岡義男さんの小説のタイトルの付け方のセンスに影響を受けた ——アノヒトの読書遍歴:鴻巣友季子さん(後編)
外国文学は小学生から読んでいたが、最も影響を受けたのは安部公房の『箱男』 ——アノヒトの読書遍歴:鴻巣友季子さん(前編)
- ガジェット通信編集部への情報提供はこちら
- 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。