【公開直前レビュー】「一体俺が何をした」という父親が全てを狂わせる…… 三浦友和の演技が圧巻な『葛城事件』

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舞台版では附属池田小事件を題材にした『葛城事件』。赤堀雅秋監督によると、映画版では土浦連続殺傷事件や秋葉原通り魔事件なども参考にしたといいます
本作での見どころは、若葉竜也が演じる次男・葛城稔が徐々に人生の歯車を狂わせていくところでもあるし、舞台版では稔を演じた新井浩文が今度は仕事が合わず追いつめられていく長男・葛城保に起用されていることに注目するのもいいでしょう。また、母親・葛城伸子を演じる南果歩が、精神の均衡を崩していくところを見てもいいし、事件を起こした稔と婚約する星野順子を演じる田中麗奈の狂気じみた信念に殉じる姿に驚嘆するのもいいでしょう。
しかし、そんな彼らの好演が霞むくらい、三浦友和扮する父親・葛城清の存在が大きく立ちはだかっているのです。この映画は、彼の物語といっても過言ではなく、また彼と同じ団塊世代の“男”とは何か、彼らの“幸せ”が周囲にどのような影響を及ぼしたのか、そんなことが詳らかにされています。

少し話が逸れますが、皆さんはレストランで客が店員にクレームを言う場面に出くわしたことはないでしょうか。筆者の感覚では、長時間に渡って店員を拘束して説教するのは50代以上の男性が多いように思います。『葛城事件』でも行きつけの中華料理屋に行って店員に味について清が激しく怒るシーンがあり、『YouTube』で公開もされています。

『葛城事件』本編映像第二弾 – YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=ZczqIqkEhIE [リンク]

このシーンこそ、マイホームを得て一国一城の主になり、幸せな家族を作ったと信じてやまない団塊の世代の“男”の縮図が現れているように、筆者には思われます。何事も自分の思い通りにならないと気がすまず、そこから外れた価値観は認められない、そんな彼らの姿は何も葛城清ひとりの問題ではないのではないでしょうか。そこを活写したところに、脚本も手がけた赤堀監督の凄みがあり、三浦友和も圧巻の演技力でそれに応えています。

もう一つ、印象的だったのが、事件を起こす前の稔が引きこもりになっていることを父親に文句を言われて「ただで店(金物屋)を継いだだけのあの人だけには言われたくないんですけど」と母親にぶつけるシーンです。高度成長が終わり、自分で自分の道を見つけざるを得なくなった団塊ジュニア以降の世代は、決められたレールはありません。順風満帆に家や車が買えた世代とは違う、といった彼の主張は、多くの同世代が直面していることでもあります。ただ、父親には直接言えずに、理解を示そうとする母親に言うという“ヘタレ”なところが、この上もなくリアルな人間描写だと言えるのではないでしょうか。

いずれにしても、「一体俺が何をした」という清の一挙手一投足が、家族の全員を狂わせていく様子を執拗に描写していくところは、核家族のキツさも同時に表わしていて、大なり小なり観る側にも身に覚えがあるというシーンがあるはず。見ていて気持ちがよくなる作品では決してありませんが、「家族とは何か」ということを考えるには格好の題材ということもできそうです。

『葛城事件』

三浦友和 南果歩 新井浩文 若葉竜也/田中麗奈 

監督・脚本:赤堀雅秋(「その夜の侍」)
製作:「葛城事件」製作委員会(ファントム・フィルム テレビマンユニオン コムレイド)
制作プロダクション:テレビマンユニオン
配給・宣伝:ファントム・フィルム PG12

映画『葛城事件』公式サイト
http://katsuragi-jiken.com/ [リンク]

(C)2016「葛城事件」製作委員会

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ふじいりょう

乙女男子。2004年よりブログ『Parsleyの「添え物は添え物らしく」』を運営し、社会・カルチャー・ネット情報など幅広いテーマを縦横無尽に執筆する傍ら、ライターとしても様々なメディアで活動中。好物はホットケーキと女性ファッション誌。

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