48時間でカンヌを掴んだ佃尚能監督が語る「仕事外で培うクリエイティブ」とは
河瀬直美監督が短編部門・学生部門の審査員を務め、深田晃司監督の『淵に立つ』が「ある視点部門」で審査員賞を受賞したことで話題になった今年の第69回カンヌ国際映画祭。華々しいコンペ部門の傍ら、非コンペ部門でも注目すべき日本作品が上映されていた。佃尚能監督の短編映画『鼻歌』だ。制作期間はたったの48時間、メインスタッフ3人という超小規模・短期間で作られた作品ながら、カンヌで賞賛を呼んだ『鼻歌』の制作秘話と、佃監督の「クリエイティブ」に臨む姿勢を聞いた。
佃監督は、大河ドラマ「真田丸」のオープニングや「ゲゲゲの女房」の演出などを手がける現役の映像ディレクター。忙しいテレビマンが余暇の合間を縫って短編映画制作に乗り出したきっかけは、昨年東京で初開催された「48時間映画祭」(The 48Hour Film Project)との出会いだったという。2001年から世界130ヶ国で開催されているこの映画祭は、お題が出てから48時間以内に映画を制作して競い合う過酷なコンペティション。そこで佃監督が制作した『鼻歌』はグランプリ、最優秀監督賞など6冠を受賞し、東京初代表作品として3月にアトランタで開催された世界大会(Filmapalooza2016)に駒を進めた。そのまま順調に勝ち抜けば「48時間映画祭」のカンヌ上映枠を得られるはずだったが、惜しくも入選ならず。しかし「選ばれた作品に納得がいかなかった」佃監督は、独自にカンヌ国際映画祭にエントリーし、見事「48時間」という枠を超えて公式上映作品に選出された。
◇ 「48時間映画祭」(The 48Hour Film Project)とは?
普段から映像を生業にするテレビマンが何故、短編映画を制作したのか?そこには、仕事外だからこその「クリエイティブ」への思いがあったと言う。「よく、好きなことを仕事にできて羨ましいと言われますが、仕事である以上必ずしも好きなものを作っているわけではありません。オーダーに応じた物づくりを続けていると、だんだんと独創性や本当に作りたいものは何か?を見失いがちになります」そして、プロだからこそ視野が狭まる部分もあると言う。「同じ業界、同じ職種の人間が四六時中身を寄せ合っていると無意識のうちに思考が似てきたり、狭い論理の中に閉じこもっていってしまったりします。プロ、アマチュア、学生が同じ土俵で映像を作り、見せ合う48時間映画祭は、日頃当たり前とされている理屈を飛び越えた作品があったり、突拍子もない発想があったりしていい刺激になります。物づくりってもっと自由でいいんだ、ってことを思い出させてくれる場でした」
カンヌでも学生部門や短編コンペ・長編作品を見て回り、気づかされたことも多かったそうだ。「学生の頃は単館系の映画を良く見に行ったりしてましたが、最近はついつい仕事柄気になる商業作品ばかりになっていて、久々に作家性の強いカンヌ作品にどっぷり浸ることで、自分の中でいつの間にか凝り固まっていた感覚が解きほぐされたといいますか――。同時に、様々な国の作品を見ることで日本の<独自性>を再発見することができたり、収穫は多かったです」
「仕事外で培ったクリエイティブを仕事に活かす」のが佃流だそうだ。クリエイティブを仕事にできる人は数少ない。日々の仕事の大半はルーチン作業だ。だからこそ「仕事外をクリエイティブに」と佃監督は言う。「クリエイティビティって誰にでもあるものだと思うんです。仕事と生活の往復の中で、それが使われることなく錆びていってしまっているだけで。マラソンとかウォーキングとかと同じ感覚で、クリエイティブなことにも気軽に挑戦してみると視界が開けて、発想も広がると思います。日本人ってほら左脳ばっかり使いがちだから、右脳も使わないともったいない(笑)」。5月末に開催された第2回「48時間映画祭」東京大会には佃監督の薦めで、映像制作未経験な人々も参加し「まさか、自分たちに映画を作れるとは思わなかった!」と充実感を得ていたという。機材やソフトも手軽に手に入るようになった時代、もしかすると、プロの発想とは違った「仕事外映画」が日本のエンタメの起爆剤になるかもしれない。
「48時間映画祭2016」で制作された全作品は6/11(土)牛込箪笥区民ホールで上映。佃監督は、6/3(金)18時から表参道ヒルズで行われる「ショートショートフィルムフェスティバル」のフォーラムにゲスト登壇するとのこと。興味のある方は足を運んでみてはいかがだろうか?⇒ 詳細はこちら
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(執筆者: 荏谷美幸(Sommelier de enta)) ※あなたもガジェット通信で文章を執筆してみませんか
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