改正公選法成立「駅・商業施設に投票所」今夏の参院選から

改正公選法成立「駅・商業施設に投票所」今夏の参院選から

改正公選法で駅やショッピングセンターでも投票できることに

 選挙の投票所といえば小中学校や公民館・集会所などが「定番」ですが、今回の公職選挙法の改正により、駅やショッピングセンターなどに「共通投票所」を設置し、そこでの投票を実施することが可能になります。
電車での移動にあわせて駅構内で投票したり、買い物のついでに投票ができれば、有権者にとってはたいへん便利でしょう。

国政選挙としては、この夏の参議院選挙から改正公選法が適用されます。
しかし、実際に「共通投票所」を設置するかどうかは各自治体の判断に委ねられています。

期日前投票も最大2時間までの拡大が可能に

 なお、最近、有権者の利用が伸びている「期日前投票」も、現行法では投票時間が午前8時半から午後8時までに限られていますが、改正公選法によれば、各自治体の判断によって前後それぞれ最大2時間までの拡大が可能になります。
朝6時半から夜10時まで「期日前投票」ができれば、通勤時間帯を利用しての投票が格段に便利になるでしょう。
さらに、投票所への子どもの同伴は、これまで乳幼児しか認められていませんでしたが、18歳未満まで同伴が認められるようになります。

改正公選法により投票率アップにつながるかは微妙

 このように、改正公選法は、有権者がより投票しやすいよう環境を整えることでの投票率アップだけでなく、未成年者に対する「主権者教育」の効果についても狙っているようです。

しかし、「共通投票所」の制度が活用されて投票率のアップにつながるかどうかは、今のところ「未知数」と言わざるを得ません。
「共通投票所」を設置するには二重投票などの不正やミスを監視するための「専用回線」を用意する必要があります。
そのため、コスト面などの問題から「共通投票所」を設置することに慎重な態度を見せている自治体も多いと言われているからです。

小選挙区制の実施以降、低下傾向の投票率

 投票率の低下傾向に本気で歯止めをかけようとするなら、政治への関心や有権者の投票意欲をもっともっと高める必要があるでしょう。

そもそも「投票率の低下傾向」が顕著になったのは平成8年以降のことです。
この年の衆議院選挙から実施された「小選挙区制(1つの選挙区から1人しか当選しない選挙制度)」にこそ「有権者の選挙離れ」の原因があるとする意見もあります。

すなわち、小選挙区制のもとでは、いわゆる「組織票」がなければ選挙での当選が困難である一方で、「死票」(落選候補者への投票)が中選挙区制より多く発生するため、有権者が「自分たちの一票は、もはや価値がない」と感じる結果となり、投票意欲を失う原因につながったとする分析です。

 小選挙区制を前提とする限り、政権与党をはじめ各政党は「組織票固め」に走らざるを得ません。
そして政権与党は(口が裂けても言えないでしょうが)、正直なところ投票率が飛躍的にアップすることを望んでいません。
いわゆる「浮動票」が動くことは「組織票」にとっての「脅威」となるからです。

民主主義の「建前」としては投票率の向上が望ましいわけですが、政権を手放したくないという「本音」からは、有権者の「無関心」の方がむしろ「ありがたい」のです。

投票率改善への本気度が見えない今回の改正公選法

 そんなわけで、国政の基盤を支える大切な選挙制度の問題であるにも関わらず、「投票所を身近にする環境作り」を「するか」「しないか」を最終的に各自治体の判断に委ねる形をとったのが、今回の改正公選法の大きな特徴です。

国としては「制度設計」をしたからそれでおしまい、あとの判断は各自治体に委ねるという無責任な構図です。
その意味で、今回の公選法の改正は、投票率の低下傾向に「本気で」歯止めをかける意図はないという厳しい見方もあるところです。

(藤本 尚道/弁護士)

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