OKAMOTO’Sのアドレス帳 Vol.10 吉澤嘉代子×ハマ・オカモト
OKAMOTO’Sのメンバーが友人はもちろん、憧れのアーティストなどをゲストに迎える対談企画第10弾は、ハマ・オカモトが注目するシンガーソングライターの吉澤嘉代子が登場。バックグラウンドから曲との向き合い方を語ってくれた。そしてこの場を借りて吉澤がハマにお願いしたいこととは?
――ふたりが初めて会ったのはいつごろなんですか?
ハマ「吉澤さんに初めてお会いしたのは、僕がMCを担当しているBSの音楽番組(「FULL CHORUS〜音楽は、フルコーラス〜」)にゲストに来ていただいたときですね」
吉澤「去年の10月くらいだったかな?(実際は9月29日オンエア)」
——ハマくんはそれ以前に吉澤さんの楽曲を聴いてたんですか?
ハマ「聴いていました。2015年は女性シンガーソングライターにスポットが当たることが多かったので、いろいろな女性シンガーソングライターの音源をチェックするようにしていました。その流れで音楽好きの先輩と話していたときに吉澤さんのお名前が出て。インタビューを読んだことはありましたが、音源は聴いたことがなかったので気になっていたんです。先輩の勧め方も『カメレオン的な音楽性だから聴いてみて』というかなり興味が惹かれる言い方で」
——“カメレオン的”って吉澤さんの音楽性を思うと言い得て妙ですね。
ハマ「そうですよね。それでYouTubeでMVを観たんです。最初に観たのは『ケケケ』のMVで。別の日にスペシャ(スペースシャワーTV)で全く違うタイプの曲のMVが流れていたので『カメレオン的ってこういうことか!』と思って。そこから過去の作品も聴いていきました」
吉澤「ありがたいです」
ハマ「これは番組でお会いしたときにも話しましたが、歌詞の妙だったり、どこまでが本人の作曲で、どのようにアレンジしているのかなど、細かいことがいろいろと気になって」
——吉澤さんとしては“カメレオン的”と称されるのはどうですか?
吉澤「曲を作るときに自分の等身大ではなくて、架空の主人公を設定した物語を描くのが私の芸風だと思ってるんですね。曲の主人公は、中学生の女の子だったり、化け猫だったり、ストリッパーだったり、無駄毛とかさまざまななんですけど(笑)、曲に合わせてサウンドも多彩になるのは必然かなと思ってます」
ハマ「アーティストとして完成された世界観を持ってるなと思います。僕らもロック・オペラをコンセプトにしたストーリー性のあるアルバム(『OPERA』)を作ったあとだったので、そういう意味でも余計に興味が湧きましたし。吉澤さんの楽曲はウォールオブサウンド的な曲があったり、モータウンビートの曲があったり、多彩なアレンジも印象的ですが、歌とサウンドが無理やりくっついた感じがしないんです。なので曲の内容も曲のタイトルも映える」
吉澤「ありがとうございます。いつもタイトルから曲を作っていくんです。そこから歌の内容を考えて、歌詞を書いて、メロディつけて、コードを付けるんですけど、そのイメージは全部言葉から始まっていて。たとえばいじめをテーマにした曲だったら、悪口のグルーヴというところから『ファンクなサウンドはどうですかね?』ってアレンジャーさんと相談したりして」
ハマ「吉澤さんは歌詞の世界観だけにとどまらない言葉遊びをしていますよね。アレンジにまで影響を及ぼす言葉遊び感があって。それがすごくおもしろいと思います」
——吉澤さんの歌詞はオノマトペ(擬声語)を多用してるのも特徴的ですね。
吉澤「そうですね。『オノマトペ』というミニアルバムを作りたいくらいです(笑)。子どものころは言葉で何かを人に伝えるのが苦手だったんですね。自分の気持ちを言葉にすると泣いちゃうような子だったんです。その分、余計に言葉に対する執着心があって。コミュニケーションをうまくとれない自分から逃げる術として小説や詩の世界に入りこんでいったんです。言葉から逃げて、言葉に行き着くみたいな」
ハマ「歌に対する興味はどうだったんですか?」
吉澤「小さいころから歌うことが大好きで、将来は歌手になりたいと思ってました。でも、テープレコーダーで自分の声を録って聴いたときに『なんて子どもの声だろう!』って落ち込んだんです」
——子どもながらに子どもである自分に落ち込むという(笑)。
吉澤「幼稚園のころなんであたりまえなんですけどね(笑)」
ハマ「ものすごく子どもですよね(笑)」
吉澤「でも、自分は大人だと思ってたんですよ」
ハマ「それで『こんな声じゃダメだ!』と思ったんだ」
吉澤「そうなんですよ。あと、私の父が井上陽水さんのものまねをずっとしていて。歌う人が近くにいた影響もあると思いますね」
ハマ「お父さんが陽水さんのものまねをずっとやってるんですか?(笑)」
吉澤「30年以上やってますね」
ハマ「セミプロじゃないですか(笑)」
吉澤「カツラとサングラスを常備してます(笑)」
ハマ「本気だ(笑)」
吉澤「陽水さんがテレビに出てると『俺のほうが似てる』とか言うんですよ。病的ですよね(笑)」
ハマ「なんですか、そのパラレルワールド的な発言は(笑)」
吉澤「小さいころからそんな父と一緒に親戚の前で余興みたいなことをしていたから、ショーに対する興味も自然と生まれたのかもしれないですね」
ハマ「レコーディングやライヴのメンバーも吉澤さんの要望で決まることが多いんですか?」
吉澤「そうですね。最初はミュージシャンの方を全然知らなかったんですけど、作品を重ねるうちに『この人と一緒にやりたい!』という欲がどんどん出てきて」
ハマ「この前のツアーもドラムが神谷(洵平)くんで、ベースがShigeさんで、キーボードが伊澤(一葉)さんだったりして」
——ハマくんと近しい関係性のミュージシャンが多い。
ハマ「近しいし、それも必然的に思えるんです。僕は女性アーティストの作品に参加しているミュージシャンのクレジットを読むのが好きで。椎名林檎さんをはじめ、カースケさん(河村知康)が様々な女性アーティストの作品に参加しているので、『カースケさんって何人いるんだろう?』と学生時代に思っていたくらいで(笑)」
——吉澤さんの作品やライヴには錚々たる凄腕の男性ミュージシャンが数多く参加してますよね。
吉澤「そうですね。デビューしたばかりのころはどうしたらいいかわからなかったんですけど。だんだんみなさんとコミュニケーションをとれるようになってきて、自分の意見を伝えられるようになってきました。神谷さんのホームパーティーに誘ってもらったり、みんなでご飯を食べたりして距離が近くなっていったんですよね。この前のツアーに関しては、伊澤さんが私の考えをすごく尊重してくださって。自分のなかでまた新しい感覚が芽生えた実感がありましたね」
——吉澤さんはご自身で作詞作曲しますけど、贅沢にレコーディングしている感じが歌謡曲の構造と通じる部分もあるのかなと思います。
吉澤「そうかもしれないですね。私はいわゆるシンガーソングライターの方に影響を受けたことがなくて。特に歌詞の面で」
ハマ「専業の作詞家さんの影響のほうが強いんですよね?」
吉澤「そうですね。松本隆さんの歌詞に一番憧れていて。松本さんの歌詞は、少ない言葉数でひとつの世界が凝縮されているなと思うんですよね」
ハマ「初めてお会いしたときもその話を少しさせてもらって。松本隆チルドレン感を感じるという話をしたら、ドンズバで好きということがわかって。僕も母が原田真二さんのファンで、松本隆さんが作詞している初期の楽曲を小さいころにクルマのなかでよく聴いていたんです」
吉澤「私も同じです」
ハマ「お母さんが原田さんのファンなんですか?」
吉澤「そうなんですよ」
ハマ「お互いの親の世代的にも通じる部分が多いんでしょうね。松本さんの歌詞は、子どもだから言葉の意味はすべて理解できなかったけど――大人でも意味がわからない造語もあるし(笑)。でも、描かれている景色を感じることができたんです。そこで想像する余地というものがこの歌詞にはあるということも感じることができた。僕らの世代は、もちろん松本隆さんのスタイルを超えることはできないと思うんですけど、その歌詞の空気感や温度を受け継ごうとしている人がいるというのは、とても素敵なことだと思っていて。吉澤さんのニューアルバム(『東京絶景』)の楽曲もタイトルからパンチが効いてる曲が多いですよね。『ガリ』や『ジャイアン』だったり(笑)」
吉澤「聴いてくれたんですね。ありがとうございます」
ハマ「いい意味での気持ち悪さというか、中毒性がある。『ガリ』というタイトルだけがひとり歩きするとコミカルになりすぎるきらいがあるけど、そうさせない音楽的な魅力があるので」
——「ジャイアン」も内容は切実なラヴソングだし。
ハマ「そうですよね。あと、ラーメンをテーマにしたラヴソングもよかった」
吉澤「『ひゅー』という曲ですね」
ハマ「あの表現はすごいなと思った」
吉澤「ハマさんと初めてお会いしたときも歌詞のことをすごく汲み取って話してくださって。私の曲って『かわいい曲だね』で終わってしまうこともあるんですけど、ハマさんは『ここのフレーズが怖いですよね』とか『ここが気持ち悪いですよね』とか、私がこういうふうに受け取ってほしいというところを全部汲み取ってくださってるんですよね。それってすごく労力がかかることじゃないですか」
ハマ「労力かかるかな?(笑)」
吉澤「だから、音楽的な体力がすごくある方なんだなと思ったんですなかなかそういう方とはお会いできないので、すごくうれしかったです」
ハマ「こういう女性アーティストがいることは、音楽が好きな者としてシンプルにうれしいなと思います。なんでも“説明の説明”をする世の中じゃないですか。歌詞にしても『こういうことがあって、あのときあんなこと言われたから傷ついて、メールも来ないし悲しい』というような。『そんなことは歌詞で言われなくてもわかるよ』っていう(笑)」
吉澤「ふふふふふ」
ハマ「それはそれでいいのかもしれないですが、音楽を聴いてリスナーが想像できるものがいいと思うと、どうしても懐古的になってしまう。でも、吉澤さんのようにまさに贅沢に、想像力を豊かにしてくれる音楽を作っているアーティストがいることがうれしいし、素敵だなと思います」
吉澤「ありがとうございます。光栄です」
ハマ「あと、しゃくりあげるように歌う歌唱法もすごいなと思います。あれをナチュラルにやってるのがいいなと。そもそも個人的には必殺技的な歌唱法は苦手なんですが、吉澤さんは全然嫌味じゃない」
吉澤「ホントにいろんなポイントを聴いてくれてるんですね……すごい」
ハマ「きちんと聴いてますから!(笑)」
吉澤「あれはヒーカップ唱法と呼ばれる歌唱法なんですよね。エルビス・プレスリーで有名ですけど、私は雪村いづみさんの歌唱法が大好きで。いろいろ調べたらそれがヒーカップ唱法と呼ばれていることがわかって」
——ふたりは同級生でもありますけど、吉澤さんはハマくんやOKAMOTO’Sというバンドに対してどういう印象がありましたか?
吉澤「19歳のときに閃光ライオットにエントリーしている同世代の人たちのことを調べたら、ズットズレテルズに行き着いて。『同世代にこんな音楽をやってる人たちがいるんだ!』って驚きました」
ハマ「僕らも閃光ライオットをきっかけに東京以外にどんなバンドがいるかを知りました。色々なバンドの音を聴いて『この人たちには勝てる!』と思ったんですけど(笑)」
吉澤「あはははは。ズットズレテルズは刺激的でしたね。OKAMOTO’Sのライヴはまだ観たことがないので、ぜひ今度お邪魔したいです」
ハマ「ぜひ」
吉澤「私から質問があるんですけど、“OKAMOTO’Sさん”と呼んだらいいのか、“OKAMOTO’S”と呼び捨てにしていいのかという(笑)」
ハマ「それはいい質問ですよ(笑)。うちのバンドに関しては、バンド名に“さん”を付けるのはおかしいという結論です。あれはメディアの影響なのか、どこから派生したのかよくわからないですが、いつの間にか定着していますね。こういうことを言う時点でバンドマンがめんどくさいと思われても嫌なので、ふんわり捉えてほしいですけど(笑)」
吉澤「難しいですよね、この問題(笑)」
ハマ「もちろんソロシンガーの方は、平井堅さん、吉澤嘉代子さんという様に“さん”を付けますが、そこで『じゃあムッシュかまやつはどうなの?』という話になったことがあって」
吉澤「あははははは」
ハマ「KenKenがムッシュと仲がいいので聞いたんです。そしたら『え、ムッシュだよ。“さん”はいらないよ。だってムッシュだよ!?』と言っていて(笑)。あと、フラカン(フラワーカンパニーズ)のミスター小西も“ミスター”が付いてるのでミスター小西と呼んでます。どうでもいい話ですが、そういう特殊例があるということで」
吉澤「なるほど、勉強になりました(笑)。一度、ラッキー池田さんとお仕事させていただいたことがあって。そのときにご本人に『“ラッキー”って呼んでもらっていいから』って何度か言われたんですけど、悩みすぎてとうとうお名前を呼べなくなってしまって。だって、“ラッキー”って呼んだらなんか犬みたいじゃないですか(笑)」
ハマ「犬みたいってすごいな(笑)。でも、この問題についてはどこかで話したかったのでよかったです」
——ちなみに吉澤さんはバンドを組みたいと思ったことはないんですか?
吉澤「ずっとバンドをやりたいと思ってます」
ハマ「やりたいと思ってるんですね」
吉澤「いつも楽屋が寂しいので……。だからバンドが羨ましいなって」
ハマ「なるほどね。でも、ジャッキー吉川とブルーコメッツみたいに、吉澤嘉代子と◯◯というバンドを組んでみてもおもしろいんじゃないですか? 音楽性やビジュアルを考えても、そういう編成が一番しっくりくる気がする。少し昭和の臭いもあって」
吉澤「ああ、なるほど。考えてみようかな(笑)。高校生のころはバンドをやっていたんですよ。女の子の友だちと」
ハマ「それはコピーバンドですか?」
吉澤「いえ、オリジナルでした。楽しかったですね。でも、私が突っ走っちゃって『もっとこうしたい!』というリクエストを出しすぎて『いや、それはちょっと弾けない』って言われたりして」
ハマ「じゃあ、吉澤さんの作品で何かあればいつでも僕を呼んでください」
――おおっ、いいですね。
吉澤「ぜひぜひ。ご一緒したいです。私としては、ハマさんにここまで歌詞を汲み取っていただいてすごくうれしかったので、ぜひ作詞もたくさんやってほしいですね。むしろ作詞家になってほしいです」
ハマ「そうきましたか(笑)。今まで2回だけ作詞に挑戦したことがあるんですが、自分が歌詞を書くとリスナーとしての自分がおもしろいと思える内容にならないんです。それこそさっき話した“説明の説明”という内容になってしまいがちで。それだったら演奏に専念したり、ラジオでしゃべったりするほうが自分でおもしろいと思えるんです」
吉澤「そうか。でも、ハマさんならきっといい歌詞が書けると思います」
ハマ「ありがとうございます。作詞家になってほしいとは想像もしてなかった対談の終わり方だな(笑)」
撮影 倭田宏樹/photo Hiroki Wada(TRON)
文 三宅正一/text Shoichi Miyake(Q2)
編集 桑原亮子/edit Ryoko Kuwahara
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吉澤嘉代子
1990年、埼玉県川口市生まれ。鋳物工場街育ち。父の影響で井上陽水を聴いて育ち、16歳から作詞作曲を始める。2010年ヤマハ主催のコンテストに出場し、グランプリとオーディエンス賞をダブル受賞。2013年インディーズ・ミニアルバム『魔女図鑑』を発売。2014年ミニアルバム「変身少女」でメジャーデビュー、これまでに、2ndミニアルバム「幻倶楽部」、1st アルバム『箒星図鑑』、3rdミニアルバム『秘密公園』を発売。2016年2月17日に2nd AL『東京絶景』を発売し、4月には全国7都市をまわる「絶景ツアー”夢をみているのよ”」を開催、東名阪は初のホールツアーとなる。
OKAMOTO’S
オカモトショウ(Vo)、オカモトコウキ(G)、ハマ・オカモト(B)、オカモトレイジ(Dr)。2010年5月にアルバム 『10′S』、11月に『オカモトズに夢中』、2011年9月に『欲望』を発売。2013年1月に4thアルバム『OKAMOTO’S』を発売し、7月に は両A面シングル“JOY JOY JOY/告白”を、11月6日にニューシングル“SEXY BODY”をリリース。2014年1月15日に岸田繁(くるり)を迎えた5th アルバム『Let It V』を、8月27日にはRIP SLYME、奥田民生、黒猫チェルシー、東京スカパラダイスオーケストラ、ROY(THE BAWDIES)らとコラボを果たした5.5 thアルバム『VXV』を発売。2015年9月30日、6th『OPERA』をリリース。「OKAMOTO’S TOUR 2015-2016“LIVE WITH YOU”」のツアーファイナルではZEPP DIVER CITY TOKYOをソールドアウトさせ、大成功をおさめた。
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