「演劇がロボット工学を発展させる」 大阪発の学際研究
大阪梅田駅の北に広がる開発区域「うめきた」に、2013年春、新たな知的価値を生み出す複合施設「ナレッジキャピタル」を中核とする「グランフロント大阪」が誕生する。これをひと足先に実感できるイベント「ナレッジキャピタルトライアル2011」が2011年8月26日から8月28日にかけて実施され、ニコニコ生放送でも著名人やアーティストの出演部分が中継された。8月27日に行われた大阪大学の石黒浩教授と劇作家でもある平田オリザ教授によるトークショー「アンドロイドと共に生きる」では、ロボットに芝居をさせる「ロボット演劇」という最先端研究が語られた。
「ロボットの作り方というのを、僕らロボット研究者はすごく勘違いしていたところがあるんですよね。物を見る機能とか、人の発言に反応する機能といった基本的な機能さえ作れば、ロボットは人間らしくなると思っていたんですけど、ちっとも人間らしくならない」
と石黒教授は語る。人間の動きは状況によって大きく異なるため、基本的な機能だけでは再現が難しい。そこで、石黒教授が注目したのは演劇。1つのシナリオの中で人間らしく動くロボットを作り、そのシナリオの積み重ねによって、トータルな意味で人間らしいロボットを作ろうという方針を打ち出した。
■世界に羽ばたくロボット演劇
そうして研究を始めたところに、大阪大学へ赴任して来たのが平田教授。
「アンドロイド(人型ロボット)やロボットが家庭に入ってきたとき、気持ち悪かったり、怖かったら困るので、人間らしく見せるのがポイントになるんです。私たちが人間を人間らしく感じる要素は限られていて、例えば”無駄な動き”なんかにある」
平田教授によれば、例えば言葉を話すときにしても、内容とは直接関係のない「あー」とか「えー」といった音が入り、これが全く無いと冷たい印象を受けるという。以前からも、こうした音をランダムで入れるという取り組みはなされていた。しかし、学者だけのプロジェクトだと平均値しか出てこない言語学的な統計に重きを置いてしまいがちで、実際にプログラムしてみても状況に応じた使い分けができず、機械的に聞こえてしまう問題があったという。
平田教授は、「私たち劇作家は、2500年も書き続けてきた蓄積があるので、多分まだ30~50年は芸術家の方が学者さんより良いデータを提供できる」と、「ロボット演劇」プログラムの意義を語る。言葉だけでなく、動きの部分でも人間は無駄な動きを多くしており、そうした「ノイズ」が人間らしさには欠かせない。そのため、言葉や動きを見つめ続けてきた演劇人の視点がロボット工学の「限界」を超えるための鍵になり得るというのだ。実際に平田教授の演劇から、音声と動作のタイミングなど多くの人間らしさのルールが抽出されている。
ロボット演劇は、今年オーストリア・ドイツ・イタリア・フランスとヨーロッパを回り、それ以降も海外で大きなイベントが控えているという。平田教授は、2013年に完成するナレッジキャピタルでも、定期的に公演して「大阪のキラーコンテンツに育てたい」と抱負を語った。
■ロボット研究から人間の原理を探る
石黒教授は、
「言葉にできること、ルールにできることは、大抵コンピュータにもできます。でも、それで人間らしい対話かというと、多分そうじゃない。ただ、例えば人間の生活を10分ごとに区切ったとき、それをロボットで再現できるかというと、9割以上再現できるんです。本当の人間の複雑さって、どこにあるんですかとも思うんですね。人間、平均とったら結構つまらないですよ」
と言い、平田教授も、自ら言葉をパターン化してコミュニケーションをとっているという自閉症の大学教授の話を例に、
「コンピュータはパターン化して覚えることは得意なんですよ。だったら、全部をパターン化すれば良い。演劇にはあらゆるパターンがあるから、これを何本も作って蓄積できれば、ほとんどの人間のコミュニケーションはできるようになるんじゃないか」
と語る。これを受けて、石黒教授は「イチロー選手は生まれたときから野球が好きだったか」と例を挙げ、パターンを繰り返すことで「感情」が乗ってくるようなプログラムを作れれば、より人間らしくできると述べた。
もちろん、全てをパターン化しても「限界」があるかもしれない。しかし、2人は口を揃えて、「だったら、そこまで行ってみたい」と語る。石黒教授は言う。
「ロボットを作ることがゴールじゃないんですよね。人間的な原理を知りたい。その原理が正しいかどうかをロボットで再現して確認するということなんです。確認すれば、もっと深く知りたくなるということで、興味はやっぱり人間にあるんだと思うんです」
◇関連サイト
・[ニコニコ生放送]「ロボットから考える人間らしさ」部分から視聴 – 会員登録が必要
http://live.nicovideo.jp/watch/lv60740559?po=news&ref=news#1:09:15
(野吟りん)
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ウェブサイト: http://news.nicovideo.jp/
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