1500人のがん患者と向き合った医師が語る 「死ぬ時に後悔しないために、20代がやっておくべきこと」

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7年間で3000人強。たくさんのがん患者とその家族が訪れる人気の対話室がある。病理学者の樋野興夫氏が開いた「がん哲学外来」だ。外来といっても臨床医による診察はなく、1時間にわたって無料でがん患者やその家族と会話をし、心のケアをする。話の内容は、担当医には言いづらい人間関係の悩みそして不安、精神的苦痛を打ち明ける人も多いという。

日々、多くのがん患者と向き合っている樋野氏に、「死ぬ時に後悔しないために、20代のうちにやっておくべきこと」を聞いた。f:id:k_kushida:20151214173757j:plain

樋野興夫氏 順天堂大学医学部教授がん哲学外来理事長

プロフィール

1954年、島根県生まれ。医学博士。順天堂大学医学部、病理・腫瘍学教授。一般社団法人がん哲学外来理事長。米国アインシュタイン医科大学肝臓研究センター、米国フォクスチェースがんセンター、癌研究会・癌研究所実験病理部部長を経て現職。2008年、「がん哲学外来」を開設。肝がん、腎がんの研究での功績が認められ日本癌学会奨励賞、高松宮妃癌研究基金学術賞などを受賞

自分の役割を知ると、人は幸せになれる

人には必ず“役割”があるんです。後悔しない生き方をするためには、まずこのことを知っておかねばなりません。こういう話をすると、「自分にも役割があるのだろうか」と、疑問に思う若い人が多いのですが、どんな人にも必ず役割はあります。病気で寝ている人にも役割があるし、幼くして亡くなってしまう人にも役割はある。

生後2時間で赤ん坊を亡くしたご夫婦がいらっしゃいました。その方々と10年後に会う機会がありましてね。そのときそのご夫婦は「あの子が生まれてきたから、今の私たちがあるんです。あの子の分も楽しく素敵な人生を送りたいと思っています」と私に話してくれました。どんなに短い人生でも生きている限りは一人ひとりに役割があるんですね。大事なことは、それに気づけるかどうかです。

「どんな人にも役割がある」ということが理解できると、人は幸せになれます。世の中で一番大切なものは何かと聞かれた時、多くの人は「自分の命」と答えるでしょう。でも、そう考えると、死がネガティブ(命の敵)なものになってしまい、死におびえて生きることになる。ですから、「自分の命より大切なものがある」と思ったほうが、幸せな人生を送れるんです。その「自分の命より大切なもの」というのが、「役割」なんです。

「この人は素晴らしい」と思った人が勧めた本は、必ず読むこと

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では、自分の役割はどうやったら見つかるのでしょうか。それは、「出会い」によって知ることができます。いい先生、いい友達、いい本。この3人の師が生きる上で大切なことを教えてくれます。もし、いい先生に出会えなくても、いい友達と出会うことはできます。もし、いい友達とも出会えなかったとしても、いい本と出会うことはできます。本は一人でも読めます。つまり、誰でもいい師と出会えるということです。

何歳になってもいい本との出会いは遅くはありません。しかし、できれば25歳までに「人生を決定づけるような本」と出会うといい。夜を徹して読み込んでしまうような本と出会ったことがありますか? まだそんな本と出会えていないのなら、あなたが尊敬している人が勧める本を読んでみるといいでしょう。特に、実際に会って「この人は素晴らしい」と感じた人が勧めたものは、ぜひ読んでみることです。

私も浪人時代に出会った先生から勧められて、政治学者の南原繁の本を読みました。その先生は南原繁が東大総長だった時に直に教わった経験があって、私に南原繁の話を毎日聞かせてくれました。大変興味を持った私は、南原繁の全集10巻を買いに行き、夜を徹して読みました。その本のなかに「私の先生は新渡戸稲造、内村鑑三」だと書いてあった。そこで新渡戸稲造、内村鑑三の本も読むようになった。読書はこんな風に筋道を立てて読むといい。私はそのおかげで、いろんな人に振り回されない、一本、筋の通った意見を持てるようになりました。

人に何かを伝えるには、「○○しかない」と言い切ることが大事です。「かもしれない」や「だと思う」では、人の心を打つ話はできません。人の話を聞くときに、その人が「○○しかない」と言い切ってくれるかどうか。そこを意識して聞いてみるといいでしょう。本物は話すときに必ず言い切るものですよ。

先ほど、いい先生と出会うことが大事だと言いましたが、本物を探すには、「常に意識しておくこと」が大事なんですね。そして「行動する」こと。若い人は外に出ない人が多いけれども、家に閉じこもっていてはだめ。一歩外に出る勇気がないと、いい先生とは出会えません。何も遠くに行く必要はありませんよ。お金がかかったり、遠くまで行かないと手に入れられないようなものは、本物ではありません。本当にいい物はすぐ近くにある。そしてお金もかからない。誰でも手に入れられるものなんです。

役割は変わっていく。20代、30代は言われたことをがむしゃらにやる時期

いい先生と出会って、いい話を聞いても、なかなかいい方向に変われない人もいる。それは“自分の器”を自分自身でいっぱいにしてしまっているからです。

どんな人でも器を持って生まれてきます。若いうちは、その器に水が入っても穴が開かないよう頑丈にしていく時期。それなのに、自分で水を入れてしまう人がいる。せっかくいい師が水を入れてくれようとしているのに、もったいないことですね。だから、みんな器は空っぽにしたほうがいい。人生とは、空っぽの器に水を入れることなんです。なのに自分から水を入れてしまうから、出会いが空しくなる。生きることがつまらなくなる。

私は、いろんな悩みを持った人と会いますが、そういう人は自分で水を入れてしまっていることが多いですね。器が空っぽだったら、どんなにむなしくても誰かが水を入れてくれます。そうすると心が満たされてくる。自然と悩みがなくなるんです。

やりたいことがわからない人が多いと聞きます。そういう人は、何でもいいから今できることを一生懸命やること。特に20代30代は人から言われたことをがむしゃらにやるといい。「今の仕事が自分に合っていない」なんて考えてはだめ。与えられた仕事が自分の役割だと思って、必死に取り組んでみる。そうすれば、40代で自分のやりたいこと、やるべきことが見えてきます。そしたら好きなことをすればいい。やるべきことは日々の仕事を頑張ることで浮き彫りになってくるんです。様々な経験をすることで、ぬれたタオルが絞られるように、無駄なものが落ちていくんですよ。

あとは、「何でも人に譲ること」です。譲るだけ譲ればやることがなくなります。そうすると役割が与えられるんですね。人と比較したり人と競争しているときには、本当の役割は与えられないんです。自分のことばかり考えていても、本当の役割は見えてこない。

誰でも将来は不安になります。でも、先のことは考えないこと。そして過去も考えない。今日のことだけを考える。会社で干されたり、窓際になったりして悩む人もいるけれど、給料もらってひまなんて最高じゃない。私なんか、給料もらって干されたら一番いいなあと思いますよ。人と比べて出世街道なんかを思い浮かべるからむなしくなるんです。人生に期待してはだめ。「人生から期待されている」と思わなくっちゃ。

どんな人にも生きている以上は、悩みはあります。私も仕事で嫌なこともあるし、悩みも次々と出てきます。でも、悩みっていうのは、悪いものじゃない。悩みがあれば、忍耐が生まれます。忍耐からは品性が生まれます。品性が出ると、本当の希望が与えられるんですよ。

<本紹介>

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「明日この世を去るとしても、今日の花に水をあげなさい」樋野興夫著

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がん患者とその家族に生きる希望を与えた「がん哲学外来」創始者からのメッセージ。「暇げで脇の甘い人に人は心を開く」「何かを受け入れれば、何かが与えられる」「にっきをつけることで一日一日を丁寧に生きられるようになる」など、生きるヒントが満載の一冊。幻冬舎刊

取材・文/高嶋ちほ子 写真/酒井一郎

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