『しくじり先生』制作陣が語る「過去のしくじりを“愛される話”にする方法」

 特別番組として放送されるや否や、瞬く間に視聴者の心をつかみ、深夜帯から半年足らずでゴールデン進出を果たしたテレビ朝日系の人気バラエティー番組『しくじり先生 俺みたいになるな!!』(毎週月曜よる8:00〜8:54放送)。「人生を最大にしくじった人から『しくじりの回避法』を学ぼう!」をコンセプトに、「しくじり先生」が番組オリジナルの教科書を開きながら、授業を行う番組だ。

 堀江貴文や浅田舞など、この番組をきっかけに意外な素顔が明らかとなり、ブレークを果たした出演者は数知れない。そして、同番組に欠かせないのが、しくじり先生が扇情的に話しながら見せるオリジナルの教科書だ。「ここまで話して大丈夫なのか」という内容が満載で、観終わったあとは「話せる技量がスゴイ!」と出演者に対する好感度がしっかりと上がる。

 人生最大のしくじりをカラッと笑って話し、それをバネにするにはどうすればよいのか。同番組の企画演出を手がける北野貴章さんと、プロデューサーの金井大介さんに話を聞いた。

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企画演出・北野貴章さん(写真左)、プロデューサー・金井大介さん(写真右)

「しくじり先生 俺みたいになるな!!」の“俺”は、企画者自身のことだった!

——「しくじり先生」が生まれたきっかけを教えてください。

北野:深夜番組のADをやっていた頃、しくじってばかりいました。連絡しない、寝坊する、遅刻する、言うことを聞かないと、よく怒られていたんです。誤解のないように言わせてもらうと、わざとそうしているわけではなくて、結果的にそうなってしまっただけです。そのせいで、1回はディレクターをやったのに、ADに降格させられた時期がありました。「お前みたいなやつは降格だっ!」と怒られたんですよ。それで「もう嫌だ。なんで、こんなに怒られなくちゃいけないんだ」と思っていたのですけど、そんな風に常々思っていると、また余計にしくじるじゃないですか。それで「しくじり先生 俺みたいになるな!!」というタイトルで、「俺みたいにならないように」と後輩に伝える番組をつくったらおもしろいんじゃないかなと思って、特番の社内企画コンペに応募したのがきっかけです。

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——ということは、「この俺みたいになるな!!」の“俺”は…。

北野:俺です。タイトルロゴも、深夜3時くらいに隣の席のAPさんの筆を借りて企画書に書いた文字をそのまま使っています。そのあと、デザイナーさんにも考えてもらったのですが、それがめちゃくちゃスタイリッシュで、少しイメージと違ったので「このままでいいか」と企画書の文字を起用しました。

——金井さんは北野さんとはゴールデンからタッグを組んでいるんですよね。最初はどんな印象でした?

金井:シンデレラボーイですよ。

北野:そうですか?

金井:ADの頃って、「絶対に俺だってできる」と誰もが感じていると思うんですよね。それをたった6年というスピードでここまで来れるというのはすごいなと思いますよ。 

番組名をひた隠しにしてオファーを続けた特番時代

——これは、「いくな」と思った回はありますか。

北野:特番の1回目をやったときから、「いくな」とは思いました。当時は、教科書の1ページをつくるのに、みんなで考えて1日がかりでした。いまやっている俳句も、当初はフォーマットが決まっていなかったので、「最後のまとめをどうしよう」とみなでいろいろ考えました。もともとMCのいない番組をつくってみたいという思いが強かったんですね。最近、タレントさんの名前が頭にくる番組名が多いじゃないですか。MCのパワーに頼る番組ではなくて、番組自体がおもしろいんだぞと胸をはれる番組をつくりたかったんです。最近のテレビ業界の傾向として、「このキャスティングじゃ数字取れないだろ」って、よく言われるので。

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金井:キャスティングのよしあしで企画を判断される傾向は確かにあるかもしれません。ゴールデンの番組名を並べていただくと気づくかもしれませんが、そういうつくりかたをされているバラエティー番組は少なくないと思います。

北野:なので、そうじゃない、視聴者のみなさんに番組を観てもらって、「番組自体がおもしろいじゃん」と思ってもらえるものを純粋につくりたかった。そうやって一生懸命につくってみたら、見終わったときに自分でもおもしろいと感じて、周りからも好評だったので、いけるんじゃないかと思いました。

——キャスティングはどうしているんですか。

金井:スタッフが出してきた先生案の中から選別して、候補者にコンタクトを取るのですが、実際にオンエアまでたどりつける方は、10人中1人いるかいないかです。

——そのときは「こういう風にいきます」という企画を細かく出しているんですか?

金井:いや、出しません。

北野:いまは、(「しくじり先生」はしくじりについて披露する番組だと)バレているのでそうもいかないんですけど、特番や深夜でやっていた頃は、番組自体が知られていないじゃないですか。なのに、「しくじり先生 俺みたいになるな!!」とタイトルを言ってしまったら、もう、どこも隠せない。「しくじり先生なんですけどぉ〜」と言ってもバレるし、「俺みたいになるなって番組ですぅ〜」と言っても難しい。だから、はじめの頃はタイトルも内容も一切告げずに、「学校のように授業をする番組なんです」、「自分の経歴について、少しばかり話していただきたいのですが」とオブラートに包むだけ包んで先方の事務所に電話して、「1回会って話をさせてください」とお願いしていました。

 そうして本人と会って、話が盛り上がってきたところで、しくじりについておもむろに持ち出します。例えば織田信成さんだったらバンクーバーオリンピックでのアクシデントを引き合いに、「靴紐が切れたことがありましたけど、あれはどうだったんですか」と話を聞いていきます。一応、企画書には「しくじり先生 俺みたいになるな!!」とタイトルを入れているので、「過去にしくじった話をしてもらって、みんなで笑う番組なんです」と、そこで初めて詳細についてお話します。過去にそれでブチ切れられた方はいません。会うまでは大変なんですが、会いさえすればなんとかなります。

金井:交渉するときに「いや、私はしくじってないですから」、「今更、言うことでもないですし」と言われて門前払いされるケースは多々ありますし、入り口でほぼ7割は削られていますが、出演さえしていただければ、誰もが心変わりしていただけます。打ち合わせと称して、タレントさん、マネージャーさん、うちのディレクター、放送作家で3時間のミーティングを少なくとも3回はやるのですが、そこで、言える話と言えない話を精査していって、こういう表現ならできる、できないという話を積み重ねていくと、出演した方は大体みなさん「出てよかった」と言ってくれます。

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欠席裁判はNG、愛されるしくじり話は「すべて自分のせい」

——「愛されるしくじり披露法」について、ポイントを教えてください。

北野:まず大前提として、自分がしくじった話をしたほうがいいと思うんですよね。そのほうが絶対に愛されますし、周囲も笑いながら話を聞いてくれます。たとえば飲み屋で自慢話ばかりしている上司は嫌じゃないですか。過去の武勇伝みたいな話を聞かされても、「なんだ、コイツ」と思うだけです。それが「酔っ払って寝て起きたら、横に知らないオジサンが寝てた」みたいな話だったら、すごくおもしろいじゃないですか。「超美人のモデルと寝た」といった話より、そういった話のほうが断然聞きたくなります。あと、「この人いいなぁ」と思うしくじり先生たちは、ちゃんと反省しています。「こうしたらよいよね」という、自ら導き出した解決法まで披露できたらベストです。要するに自分のしくじりをしっかりと認めて、自己分析できているかどうかが肝心。僕らは打ち合わせでそこを手伝っています。誰もが何かしらしくじったことがあるからその場に来ているわけですが、何故しくじったのかが分かっていない人もいれば、「あれはもう忘れたいんだ」とあえて遠巻きにしたままの人もいます。そういった、誰もが潜在的に持っている「しくじりに蓋をしたい気持ち」をあえてほじくり返して、「ところで、なんでしくじったんですかね」と、自分で自分のしくじりやその要因について気づいてもらう機会を、3時間3回持ってもらいます。

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——まるで禅修行のようですね。

北野:そうですね。打ち合わせの間にスタッフからさまざまな質問をされて、それに答えていきながら、自分がしくじった要因をとことん自己分析していく。その「気づき」の集大成を本番で披露しているから、しくじり先生は愛される。「あ、オレがしくじった理由はこれか」と、本人が根本的な要因に気づいた状態のまま収録に挑むじゃないですか。収録の時までには、すべて消化されきっているので。自分自身でしくじった原因もよくわかっていますし、教訓を導き出せるほど心が整理されているからこそ、笑いに変えられます。

——その3回行われる3時間の打ち合わせは、しくじり先生になる前のタレントさんたちが、内省し、悟りを開かれるまでの時間なんですね?

北野:そうです。まずはしくじったということを自覚してもらい、おもしろおかしく話せるところまでケアをする時間です。だから、教科書も、何回も音読し、練習し直します。

——反省はできても、解決策まで出せない人はどうするんですか。

北野:そういう人は解決策を無理やり出さなくていいと思います。反省までできたのだから、笑い話にすればいいんです。

——万人ウケする、失敗しない笑い話に仕上げるにはどうしたらよいでしょう。

北野:自分だけの話にしたら大丈夫ですよ。相手が笑えないという場合は、自分以外の人の、誰かの悪口が入っているからでしょう。たとえば会社だったら、その場にいない上司だったり、同僚をネタにしていたりするから、笑えない人が出てくる。それはダメです。しくじり先生の美徳からはずれてしまっています。

金井:しくじり先生は欠席裁判をしないというのがルールです。人の悪口を言わず、自分が主体的にやったことのみを話すのが大前提。

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北野:ただ、しくじった話のなかには相手のせいと思えるエピソードもあります。でも、それを自分のしくじりではないかといま一度考え直してもらっています。しくじりは全部自己責任だと。そうしたほうが笑いも起きやすいです。

——つまり、打ち合わせの段階では相手のせいにしていることでも、収録までの間に自分のせいにしていくステップがあるということですよね。

北野:そうです。話し合って、できる限り自分のせいにしていきます。ただ、完全に相手が悪い場合もあるじゃないですか。それは収録では言わないようにします。その話はせずに、自分も悪いところあるなという部分に関しては100にして表現する。だから、愛されるんです。

強烈なインパクトを残していく、しくじり先生たち

——多くの方が出演していらっしゃると思いますが、印象に残っている方は?

金井:これをきっかけにいろんな番組に出ている人は多いですよね。

北野:(元猿岩石の)森脇さんはヒドイです。芸能界に復帰しないと言っていたのに復帰しちゃって(笑)。授業にきたとき、すごくウケたから、やっぱり芸能界いいなって思ったんですかね。でも、森脇さんは芯が通っています。「流されやすい」っていう芯。

 よい意味で脱皮したのは、オリエンタルラジオの中田さんです。誰もが中田さんはプライドが高いと思っていたのですが、言えていなかった。飲み会でチラッといじりで言われたことはあっても、真っ向から「天狗だったよな」とは言われない。それを本人も薄々気づいていました。それをしくじり先生で、本当に全力で消化してくれて、中田さんも「この授業がきっかけで変われた」と言ってくれて、今でも偉人伝で時々授業してくださっていますし、よい関係が続いています。

 あと、僕自身の分岐点となった回でいうと辺見マリさんの洗脳の回です。僕自身、お涙頂戴が嫌いで、感動の連続は嫌なので、どうしようかなと思ったときにパッと浮かんだのがサスペンスでした。これは答えになってないのかもしれませんが、深夜でやっていた頃は、純粋におもしろいものや笑えるものをつくりたいと思っていました。それがゴールデンになってから、エンタメにしようと考えを改めたんです。エンターテインメントなら、笑いもできるし、感動もできる。いろいろな感情が混ぜこぜでグワッとくる番組にしようと思ったんです。そういう意味でいうと、辺見マリさんの回は本当に重いサスペンスの2時間ドラマを観ている感覚になってもらいたいなと思って作っているから、そんなに笑いも入ってないんです。辺見さんは、「私みたいに洗脳される人を増やしたくない」という思いで本当にやってくれたので、とてもよい授業になりました。

 しくじり先生では、「おもしろく見られたい」と思ってやっている先生は出てきません。それだと、タダのおもしろいエピソードトークをしているだけの番組になってしまいます。心の叫びに近いものを放出してもらわないと番組の趣旨とは違ったものになってしまいますので。

出てもらったからには後悔させない!制作チームの「本気」

——そこまでの信頼関係を築くためには、どのようなことが必要ですか。

北野:そもそも「しくじり先生」は、言いたくないことを言わす「どS番組」です。蓋したい部分にズカズカと入り込んで、しくじった当時の週刊誌をチラッと見せて、「この時のコレはなんですか」と言いながら質問を浴びせて、その結果をテレビで放映する。それをやらせているわけじゃないですか。なのに、「おもしろくない」と視聴者に思われてしまったら、出演してくれたしくじり先生にとっては、なんの意味もなくなってしまいます。だから、出演していただく限りは、絶対に「この先生、すごいな。おもしろいし、ためになるし、ここまで話すっていい人だな」と思ってもらえるように仕上げようと制作している人間は、みな気をつけながら作っています。打ち合わせは、タレントさん、マネージャーさん、ディレクター、放送作家、ADという少人数でやっているので家族会議のような雰囲気があるといえばあります。あとは、実績じゃないですかね。特番のときは本当に大変だったのですが、中田さんがあれだけぶっちゃけてくれたあと、藤崎マーケットさんあたりくらいまでは本当に感謝です。その方たちがきちんとやってくれたから、「ああ、こんな感じね」という空気感が伝わってバトンが渡っているのですから。

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——「俺みたいになるな!!」という思いで特番を3回やって、1年後に深夜帯が決まり、その半年後にゴールデンまできました。今はどんな気持ちですか。

北野:「そっとしといて・・・」って感じですかね。スポンサー、相手事務所のマネージャー、局の自主規制など、ゴールデンになるといろいろな調整が本当に大変です。だから、最初は乗り気ではなかったです。でも、いよいよゴールデンへいくのが決まって、3月26日に放映した深夜帯の最終回は、ゴールデンへ行くにあたっての僕の思いを詰めるだけ詰めて、「これを心得として、ゴールデンへ持っていってもらいたい」という思いで授業しました。もう、あの回は完全燃焼です。中田さんも以降、「俺は出し切ったから」といって、なかなか出てくれない。とはいえ、人気が出てゴールデンに進出することは、うれしいことでもあると思うので、いろいろなジャンルのことをやりたいと思っています。

金井:僕は基本的に演出がやりたいことをサポートするくらいじゃないですか。北野、シンデレラボーイなんで(笑)。

北野:シンデレラボーイじゃないですよ。ああ、もう、ほっといてほしい…。

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おさらい:しくじり先生流 愛されるしくじり披露法

その1.自分から、すなおにしくじりを話そう

その2.自己分析をしよう

その3.反省をしよう

その4.解決策まで話そう

その5.すべては自分のせいにしよう

その6.相手に否がある部分は話さないようにしよう

その7.最後は必ず笑いに変えよう

Information

『しくじり先生 俺みたいになるな!!』

“しくじり先生”から人生の教訓を学ぼう!!

人生で“しくじった”経験を持つ人たちが“先生”となって授業行う、大人気の反面教師バラエティー。多彩なジャンルの“しくじり先生”が登場し、オリジナルの教科書を用いた熱血授業を展開!

毎週月曜よる8:00~8:54(テレビ朝日系)

レギュラー出演者:若林正恭(先生)、吉村崇(生徒)

番組HP http://www.tv-asahi.co.jp/shikujiri/

 取材・文 山葵夕子 撮影 ヒダキトモコ

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