オリヴィエ・アサイヤス監督『アクトレス ~女たちの舞台~』インタビュー
一世を風靡した大女優マリアを演じた主演のジュリエット・ビノシュに、敏腕マネージャーを演じ、アメリカ人として初めてフランスのセザール賞“助演女優賞”を受賞したクリステン・スチュワート、そして清純派のイメージを覆し、スキャンダルまみれのお騒がせ女優を演じたクロエ・グレース・モレッツーー華やかなキャストが話題の映画『アクトレス ~女たちの舞台~』がいよいよ19月24日より公開。日本でも、中谷美紀や風吹ジュン、高橋ひとみなど世代を超えた各界の女性から絶賛のコメントが相次ぐ本作を手がけたオリヴィエ・アサイヤス監督のインタビューをお届けする。
ーーこの作品を書いたきっかけについて教えてください。
アサイヤス監督「これはジュリエットからインスピレーションを受けて作った作品なのです。今回の作品を作るにあたってはまずは『夏時間の庭』の世界的成功があるのですが、ジュリエットはあの作品の中では大きなパズルの中の一つのピースに過ぎず、欲求不満があったと思います。ジュリエットは『夏時間の庭』での協力関係をさらに突きつめて、また一緒に仕事をする価値があるのではないかと考え、私に電話をかけてきました。私たちは昔『ランデヴー』という作品で俳優と共同脚本家として出会ったのですが、それからとても長い時間が経過したということに気づき、めまいがするような気がしました。私は、その“時間の経過がもたらすめまい”について映画が作れるのではないかと考えたのです」
ーー主人公のマリアのキャラクターは、どのように決めたのですか?
アサイヤス監督「マリアとジュリエットを切り離して考えることはできないけれど、マリアはジュリエットを巡るキャラクターとして私が空想して作り上げた人物です。実際には似ている所もあれば違うところもあるでしょうが、ジュリエット自身もこの役を演じることを楽しんでいたと思います。マリアの役は映画を観る人が『ジュリエット・ビノシュはきっとこういう人だろう』と想像する彼女のイメージに似ているのではないでしょうか。ジュリエット自身も完全にマリアと同じではないけれども、そうなったかもしれない人物として楽しく演じ、自分を作品に投影してくれたと思います」
ーークリステンとクロエの起用について教えて下さい。
アサイヤス監督「クリステンは確かに『トワイライト』の成功とメディアによって有名になりましたが、ユニークな存在感のある稀有な女優だと思っていました。ショーン・ペン監督の『イントゥ・ザ・ワイルド』の時から、端役でしたが存在感を示していました。彼女はとてもカメラ映りが良い、アメリカ映画の女優としては稀有な存在です。ハリウッドの大作に出ている彼女にとって、ヨーロッパのインディペンデント映画はリスクかもしれないけれど、かわりに、私は彼女にはこれまでの映画では与えられなかったものを与えてあげられるのではないかと思いました。人工的に作り出された役柄ではなく、彼女自身のインプロビゼーションができる十分な時間を与えたのです。それは人工的に作り出された登場人物とは違うものとなり、今回の私の演出によって彼女のキャリアのある一時期に発見があり、自分が想像しているよりももっと長く女優としてのキャリアを伸ばしていけるのではないかと思います。クロエに関しては、当初成熟した大人な若い女性を探していたのですが、何よりも彼女には狡猾さがありました。役より実年齢がかなり若かったのですが、彼女に会って決めました。結果的にはそれぞれの役で最初に選択した二人が出演してくれて、(キャスティングは)大成功したと思います」
ーー現場でのジュリエット・ビノシュとクリステン・スチュワートのコミュニケーションはどのような感じでしたか?
アサイヤス監督「彼女たちはそれまで全く会ったこともなかったのですが、撮影を重ねるにつれて、彼女たちの間に徐々に信頼や友情や敬愛の気持ちが芽生えていったようです。もともとクリステンはジュリエットの生き方や仕事ぶりを見ていてリスペクトしていたそうです。ジュリエットとクリステンの関係がうまくいくことがこの作品にとって重要なポイントでしたから、準備の段階では『私は危険を冒しているのではないか?』と不安になっていました。もしも気が合わずに二人の間に緊張が漂ったら良い映画にはならなくなるからです。実際には全くそんなことはなかったのですが。クリステンにとってジュリエットは、自由と精神のバランスを保ち続けてきた女優であり、そのメカニズムとキャリアの道程を学びたいと思っていたようです。かたやジュリエットがクリステンの中に見たものは、若いけど映画に対する情熱。お互いに刺激しあい、いい意味での競争心がありました。私はそんな二人を観察し、二人の関係が進展するのをドキュメンタリーのように撮影しただけです。脚本を書いた時と違うものになったのは彼女たち自身の演技と力動性のおかげです」
ーークリステンはセザール賞も受賞し、演技が高く評価されていますが、リハーサルはどれくらい行ったのでしょうか?
アサイヤス監督「私はもともと全くリハーサルを行わないのです。リハーサルによってセリフを言うときの自発性が失われることを恐れています。俳優たちが初めてセリフを言う時には、もう現場のカメラは回っています。もちろん女優たちは、それぞれが自分で稽古をしてくるでしょうが、インプロビゼーションを大事にしています。クリステンはセリフ覚えが良く、その日の朝にセリフを覚えてきていました」
ーー監督はご自身の立場はどのようなものと考えていますか?
アサイヤス監督「私は脚本家でもあるので、監督と脚本家を同一のものだと考えています。自分が書いた脚本で、女優の人間性を探求する事ができるので、彼女たちが私の脚本から何を感じて、どう演じるのだろうかと、とても興味深く見ています。私が心掛けているのは映画は集団芸術であるということ。一方的に指揮するのではなく、共同作業なので、現場にいる者全員が貢献できるような環境をつくること。俳優がしっかりと呼吸できる現場の環境をつくることも監督にとって大事なことだと思います」
ーー女優達皆がハリウッドで活躍していますが、本作のセリフについて、彼女達はどのような反応を示していましたか?
アサイヤス監督「三人ともこの映画がとてもユーモアのある作品だと理解していました。また、全員ハリウッドでの映画の経験があるので、ハリウッドが昔よりさらに産業的な側面を強めて、拘束も多く、自由にクリエイションする余裕がないことを知っています。皆が苦しんだとまでは言わないまでも、その重圧は感じていると思うので、そういったことに対して皮肉な距離をとっていることを楽しんだのではないでしょうか。なかでもクリステンは、映画を巡るメディア産業に斜めの視線をもたらしていることを楽しんでいたようです」
『アクトレス ~女たちの舞台~』
10月24日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町ほか順次公開
◆ストーリー◆
大女優として知られるマリア(ジュリエット・ビノシュ)は、忠実なマネージャーのヴァレンティン(クリステン・スチュワート)とともに、世界を股に掛けて活躍していた。そんななか、マリアはかつて自身が世間に認められるきっかけとなった作品のリメイクをオファーされる。しかし、その役柄は彼女が演じた若き美女シグリッド役ではなく、彼女に翻弄される中年の上司、ヘレナ役。若い主人公の配役は、すでにハリウッドの大作映画で活躍するお騒がせ女優のジョアン(クロエ・グレース・モレッツ)に決定していた…。
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監督・脚本:オリヴィエ・アサイヤス『夏時間の庭』『デーモンラヴァー』
製作:シャルル・ジリベール『オン・ザ・ロード』『トスカーナの贋作』
撮影:ヨリック・ル・ソー『ミラノ、愛に生きる』 美術:フランソワ=ルノー・ラヴァルテ『ヴィオレッタ』
特別協力:シャネル
キャスト:ジュリエット・ビノシュ『トスカーナの贋作』/クリステン・スチュワート『トワイライト』/クロエ・グレース・モレッツ『キック・アス』ラース・アイディンガー『HELL』/ジョニー・フリン『ブルックリンの恋人たち』ほか
2014年フランス・ドイツ・スイス/英語・フランス語・ドイツ語/124分/カラー/シネスコ/DCP
後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本、スイス大使館、スイス政府観光局
配給:トランスフォーマー
中谷美紀(女優)
「古い器のように年輪を重ねてこそ味わい深くなる円熟した女優も、圧倒的な若さと無邪気さには敵わない。役を見出す産みの苦しみ、そして老いと向き合い、受け入れていくこと。ジュリエット・ビノシュが、彼女の人生そのものを演じているかのようなこの作品に、心動かされました。」
風吹ジュン(女優)
「切れても消えても見事なクリステン…強かで瑞々しいクロエ…それでもビノシュは魅力的!」
高橋ひとみ(女優)
「大女優になってしまったマリアの心の葛藤が突き刺さりました。それぞれ違う立場の女性達の見えない駆け引きが魅力的で怖いくらい。最後の言葉の意味は?受け入れるのか諦めるのか この舞台とはいったい・・・。」
鈴木杏(女優)
「女優さんの人生って、やっぱり特殊で面白いなぁ!と他人事のように堪能してしまった。この素晴らしい三人を、もっともっと、ずっとずっと見ていたい!」
荻野目慶子(女優)
「このスリリングな演技の「火花」の炸裂は見逃せない! 息を呑むほど美しいスイスの絶景の絵、女優魂が眩しくて、 新鮮なクリステンにはノック・アウト!」
白石加代子(女優)
「薄い膜を境に、実人生と役柄とを行き来するうちに、不意にたち現れる真実。私の心の襞に隠している部分を覗かれた思いでした。」
余 貴美子(女優)
「3人の女たちの演技合戦は、物語なのか、現実なのか。ドキュメンタリーのようで、とてもクール!」
君島十和子(フェリーチェトワコ クリエイティブディレクター)
「私の価値。誰もが歳を重ねる事で失うものがある。それなのに許されない。でも一番許していないのは自分だった。それをこの女優にそっと囁かれた。失った価値よりももっと素敵な価値を見つけられる事を女優が証明してくれた。」
玉城ティナ(モデル)
「自覚した美しさほど人を魅了できるものはありません。二人の若さへの隠された争いに虜になってしまいました。」
藤原美智子(へア&メイク/ライフスタイルデザイナー)
「どのように年を重ねていくかの前に、まずは受け入れること。それが自信や輝き続けるために大事だと改めて思い知りました。大人の女性にこそ観て欲しい映画!」
春香クリスティーン(タレント)
「主人公マリアは、大女優でありながら迷い、悩み、傷つき葛藤する。若さとは何か? iPadでジュリエット・ビノシュを検索した時、映画と現実が交錯した。」
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