東浩紀氏「震災からの復興には”沈うつな時間”も必要」
批評家で作家の東浩紀氏が責任編集する言論誌『思想地図β』とコラボした新番組「ニコ生思想地図」が、2011年5月28日にスタートした。第一回の放送で東氏は、福島県出身の詩人・和合亮一氏を招き、東日本大震災後の「福島から考える言葉の力」というテーマで対談を行った。この中で両氏は、「皆で復興を頑張ろう」というアッパーな連帯感の前に、「これだけ悲惨なことがあった」というダウナーな連帯感を持つことも重要だという見解を示した。
震災後の日本では、一時的にさまざまな地域・分野で「自粛」が行われたが、これに対して、復興のためには活発な経済活動が必要だとする強力な「自粛批判」が噴出したと言われている。東氏はこうした動きについて、「何であんな大きなものが失われたのに、それを埋め合わせることばかり考えているんだろう」と、強い違和感を覚えたと言い、
「(震災や原発による)喪失に決着をつけるための鎮魂の儀式、喪失を自分の中に引き受けるための沈うつな時間というのが絶対に必要で、それを経ない復興というのは基本的に空元気であり、忘却に過ぎないと思うわけです」
と、「喪」の重要性を語る。
「例えば、日本が一つの家族だとしたら、皆で新しい家族を作って行こうというポジティブな一体感も良いんですが、そうじゃなくて、まず、今回もぎ取られたものについて、沈うつに追悼し、酒を飲み交すみたいな時間が恐らく必要なんですよ。逆にそれができないと、1人ひとりの気持ちがバラバラになってしまう」(東氏)
和合氏も、「絶望や失望をきちんと語らないと、言葉に力というものが生まれてこない」と、この意見に賛同する。震災直後から、「頑張ろう日本」、「日本は強い国」などのポジティブな言葉が新聞やテレビ、ネットを賑わせてきた。しかし、福島に住む和合氏には「言葉が響いてこない」という。
「例えば、あきらめないという言葉がある。負けないという言葉がある。それは絶望をくぐり抜けて言う言葉だったら響くと思うんです。でも、絶望を語らない方法で、希望を語ろうとしても語れない」(和合氏)
少なからず絶望に直面している被災地。その中で東氏は、「連帯が切られている」と感じており、何か違う連帯の作り方がないか、ダウナーな連帯ができないかと思案しているという。和合氏もまた、「家族をなくし言葉の出なくなった人が、避難所で隣の人に言葉が空っぽになるまで話をして気力が戻ってきた」という例を挙げ、「そういう連帯のあり方が、これから絶望の中に求められてくると思う」と応えた。
◇関連サイト
・[ニコニコ生放送]和合氏の詩の朗読部分から視聴 – 会員登録が必要
http://live.nicovideo.jp/watch/lv50913197?ref=news#4:30
(野吟りん)
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