「検察に都合がよいストーリーを書いてしまう」 週刊朝日前編集長、「メディアの罪」を批判
週刊朝日前編集長の山口一臣氏が2011年5月23日、東京都内で開かれたシンポジウムに出演し、昨今、取りざたされている検察をめぐる問題の原因は、権力監視を怠ってきたメディアにあるとの見解を示した。その理由については、メディア内に「検察は間違いを犯さない」と信じている人間が多いことにあると指摘。また、検察批判を続けたことで同じ社内の社会部記者との関係が悪くなったエピソードを紹介した。
山口氏は明治大学大学院情報コミュニケーション研究科が主催する「検察、世論、冤罪」と題するシンポジウムにパネリストの一人として登壇。メディアと検察の関わりについて「検察の問題の大半はメディアの責任」と述べた。さらに、山口氏は「ジャーナリズムの本来の存在意義は権力監視であるが、そこの部分がきちんと機能していないのが日本の現状」と指摘した。
山口氏によると「メディアが犯した罪」は、検察がターゲットにしている人物の虚像を作りあげること。近く収監される堀江貴文氏を例にあげ、「拝金主義」のイメージはメディアが作り上げた虚構だと説明した。検察はメディアが作り上げたイメージにより「こいつ(堀江氏)だったら、多少のことをやっても、とっ捕まえれば世論は応援してくれる」という心理作用が働き、このことが「検察の暴走を助長させてきた」と述べた。
■「それでも検察は間違っているんだ」
山口氏は、自身が報道に携わっていた「三井環事件」を例に、検察の暴走を助長するメディアの実態について語った。「三井環事件」は、大阪高検公安部長だった三井環氏が、検察の裏金作りを実名で告発するテレビ番組の収録を控えた当日に、「電磁的公正証書原本不実記載」、「詐欺」などの容疑で大阪地検特捜部に逮捕された事件。山口氏によると、検察が「調査活動費」という裏金を作っていることは、検察周辺で取材をしている人達にとっては常識だったという。
当時、同じ社内の社会部(朝日新聞社会部)と連携して取材をしていた山口氏は、三井氏が逮捕された直後に態度を一変させた同僚に大きな衝撃を受けたことを明かした。
「びっくりしたのは、それまで一緒にやっていた社会部が、手のひらを返したように、これまでの取材内容には全く触れず、三井さんが犯したとされる逮捕容疑を繰り返し書いた。それから、『三井環がどんなに悪人か』ということをいろんな手を使って書いた」
と当時の驚きを口にした上で、「権力をチェックするはずのジャーナリズムが役割を果たしてこなかった」と批判した。
山口氏は、このような状況が生まれる原因を検察の無謬(むびゅう)性を信じている人が多いことにあると指摘する。「(メディア内の人間は)けっこう信じている。検察が正義であるという神話を信じている」と山口氏。検察が間違えることはないという前提で取材し、その上で、できるだけ検察から情報を引き出そうとする結果、「検察にとって都合がよい、検察の言うことにそったストーリーを書いてしまう現実がある」と、メディアが検察の暴走に加担してしまう原因について語った。
山口氏は、度重なる検察批判を続けることにより、社会部の人達が口を聞いてくれなかったことや挨拶しても無視されるなど、同僚との関係が悪くなったことを告白。山口氏は当時の状況を
「地動説を唱えていたガリレオみたいなもの。『なんでこんなことがわかってくれないんだろう』みたいな。『それでも地球は回っている』じゃなくて『それでも検察は間違っているんだ』とつぶやきながら仕事をしていた」
と説明した。
ただ、現在は状況が変わり始めているという。山口氏は「今では社内にもいっぱい味方がいます。がんばれと言ってくれる人や、ブログをおもしろいと言ってくれる人もいる。なので、これからもこの問題(メディアと検察の関係)については『それでも地球は回っているんだ』と言い続けていきたい」と述べ、今後も引き続き検察の暴走を監視することに固い決意を見せた。
◇関連サイト
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http://live.nicovideo.jp/watch/lv50486600?ref=news#1:10:20
(三好尚紀)
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