衣替えの時期に知っておこう! 知らないことが多すぎる『衣類害虫』の真実!
10月に入り衣替えの季節になった。
この時期にあちこちで上がる悲鳴が「衣類の虫食い」被害で、気が付かずに着ていたらひっかき傷かなと思しき傷や、明らかに食われたとわかる大穴。しかし虫食いとはいえ、その虫を見たことはあまりない。
そこで記者は以前、取材でお世話になったエステー株式会社広報部の平井芙美加さんに連絡を取り、衣類の虫食いについて取材を申し込んだ。
そしてやってきたのがエステーR&Dセンターという研究開発施設。
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詳細を説明してくれたのは同社研究員の田井治淑美さん。
衣類害虫を「この子たち」と呼ぶスペシャリストだ。
--まず、衣類害虫の種類は多いのですか?
「大きく分けてガの仲間とカツオブシムシの仲間です。ガの仲間にはイガとコイガ、カツオブシムシの仲間にはヒメマルカツオブシムシとヒメカツオブシムシがあり、だいたいこの4種です。カツオブシムシはカツオ節を食べるからこの名前なんです。飼育するエサもカツオ節ですよ。しかも添加剤や防腐剤が使われていない高級品です(笑)」
--人間に害はあるのでしょうか?
「人体には影響はありません。しかし目に見える大きさですから気持ちのいいものではありませんね」
写真は虫食い被害のサンプル。
--やはりこの時期に出てくるのでしょうか?
「衣類害虫は越冬しますので、いるという概念で言えば1年中います。イガの場合ですと、まず卵で7-10日くらい、幼虫で4-8週間、さなぎで7-10日、成虫で7-10日です。そして成虫は卵を産みますからその循環で振出しに戻ります。これを繰り返しますから約70日で1サイクル、1年では2-4世代が発生します。」
「カツオブシムシは幼虫の期間が10か月と長く、1年で1サイクルですが幼虫の時期が長いというのは厄介なんです」
写真はイガの幼虫のイメージイラスト。
--幼虫が厄介なのですか?1年中食べられてしまうのではないのですか?
「衣類の繊維を食べるのは幼虫だけです。でも幼虫の時期が長いので穴をあけるほど食べられてしまいます」
写真はイガの成虫標本
--ところで、虫食いというとなぜかお気に入りばかり食べられてしまう印象があるのですけど?
「そうなんです。この子たちはお気に入りがわかるんです。(笑)」
「それは冗談ですが、実は脂肪やたんぱく質でも動物性と植物性があるように、繊維にも同じような区分があります」
--といいますと?
「一番食べられやすいのは栄養価の高い動物性繊維です。毛皮、絹、ウール、カシミヤです。大体お気に入りはこの繊維ではないでしょうか?しかもお高いのです」
「次の好物は綿や麻といった植物性繊維ですが、こちらはそんなに高くないですよね」
「ポリエステルなどの化学繊維は石油由来ですので基本的に食べません」
しかし、繊維に動物性や植物性という区分があるとは知らなかった。言われてみればその通りなのだが、虫だって栄養価の高いものを食べなければ生きていけないので、そうなるということか。
カシミヤのコートをやられるとかなりへこむが、実は大好物だったということらしい。
写真は飛んでいる生きたイガの成虫。
--では、化学繊維だと大丈夫なんですね?
「実はそうとも言えないのです。化繊でも汗や脂肪、食べこぼしのシミがありますよね。そこを狙って食べられるので化繊だからといって100%大丈夫だとは言えないのです」
写真はコイガの幼虫イメージイラスト。
--では打つ手なしですね
「衣類害虫は気温が15度以上で活動します。結局、人間が暮らしやすい快適である気温20-25度、湿度60%くらいが虫たちにとっても一番快適な環境なのです。ですから、年中部屋の気温10度くらいに保てば衣類害虫の被害はなくなりますけど、そんなことをしたら寒くて住めませんよね。クリーニング業者が次のシーズンまで衣類を預かってくれるサービスがありますが、大規模なケースでは倉庫そのものを10度前後の定温にして衣類害虫が生存できない環境にしているのです。その方が防虫剤を使うよりコスト的に安上がりなのです」
写真は衣類害虫の生きた幼虫ないしはさなぎ。
--どういう環境で入り込むのでしょうか?
「例えばヒメマルカツオブシムシの場合ですと、幼虫は暗い環境、成虫はある日突然明るい環境を好むようになります。ということは、光を反射する白いシーツなんかを干していて、一緒に取り込んでしまうケースが多いようです。結果的にそのまま成虫を家庭内に取り込んで卵を産み付けられてしまうのです」
「イガの場合は、自然界では鳥の巣などにいますが、だいたい飛んでくるケースが多いですね。ほこりがたまる場所が発生源になりやすいので、見えないところのほこり掃除は重要です」
写真はヒメカツオブシムシの幼虫イメージイラスト。
同席してくれた同社防虫事業部の高野豪さんは各種調査資料を見せてくれた。
「衣類害虫の被害にあって最も多い感情は『ショック』なんです。お気に入りのお洋服が虫食一点で台無しになると、確かにショックですよね。ですから二度とこんな目にはあいたくないと思われて防虫剤を使われるのです。しかし、一度入れてしまえば忘れ去られることも多いのです。薬剤には有効期間がありますから、切れてしまって次のシーズンでまたやられるという悲しい現実もあります」
写真はヒメカツオブシムシの成虫
「私どもの調査によりますと、衣類害虫の存在は知っている方が9割でほとんどです。しかし、複数いることを知っている方は4割、姿かたちや大きさを知っている方は1割なんです。敵を知らないと対処のしようがないですから、衣替えの時期に衣類害虫のことについて知っていただきたいですね」
写真はヒメカツオブシムシの幼虫イメージイラスト
あらためて田井治さんに聞いてみた。
--結局のところ防虫剤って効果はあるのですか?
「昔から桐(きり)タンスやショウノウが使われていました。今でもナフタリンやパラジクロロベンゼンは効果があるので使用されています。防虫というのは、虫を寄せ付けないことだけだと思われているかもしれませんが、実はそうではなく幼虫の食欲を減退させる効果もあるのです」
--では、人間が使用しても食欲減退が?
「(笑)それはないです。魚類以上の生物には代謝できる解毒機能が備わっていますから、防虫剤のガスを人間が吸っても何の効果も変化もありません。残念ながら」
--では、食欲減退ということは幼虫は死んでしまうのですか?
「そこはご想像にお任せするしか。薬事法の関係で言えないのです。殺虫剤ではありませんから。でも、おうちで虫を飼っているような方は防虫剤はやめておいた方がいいですね。虫には防虫剤は猛毒ですから」
しかし、食欲減退の効果があるのであれば、その先どうなるかはわかるというものだ。
写真はヒメマルカツオブシムシの成虫
田井治さんが面白いものを見せてくれた。
「実は虫たちは食べた繊維と同じ色のフンをするのです。ですから虫食いの後には、そこら中に繊維と同じ色のフンが点々とついていますからすぐにわかります。それに脱皮して成虫になりますから、もしクローゼットやタンスの隅にセミの抜け殻の豆粒のようなものがあれば、”いる”ということになります。気を付けてくださいね」
写真は食べた繊維によって排出されたフンの標本
記者は特に許可されて研究室の中を見せていただいた。
写真の囲まれた部屋は、においをほぼ消す部屋で、ここで芳香剤や消臭剤の研究をする。
しかし、そこにあったのはバラでもラベンダーでもない「疑似悪臭」のビンだった。
先ほどの防虫剤もそうだが、芳香剤でも消臭剤でも敵を知らなければ対策は取れない。
芳香剤や消臭剤の敵は「悪臭」に他ならない。
記者も嗅いでみたが、まぎれもなく生ごみの匂いだった。
悪臭や消臭効果を確認する監獄のような小部屋。
この中を疑似的に部屋と見立てて、外の小窓からひたすら匂いを嗅いでという作業が延々と繰り返されるという。
写真は実験施設に立つ広報部の平井富美加さん
衣類害虫を直接見ることは少なくても、傾向と対策がわかれば、お気に入りの虫食い被害は減るのではないだろうか。
※写真は記者撮影もしくはエステー株式会社提供の素材を許諾を得て使用
取材協力 エステー株式会社
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(執筆者: 古川 智規) ※あなたもガジェット通信で文章を執筆してみませんか
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