THE OTOGIBANASHI’S『BUSINESS CLASS』インタビュー

 

otogibanashis1

ヒップホップ・グループ、THE OTOGIBANASHI’Sの最新作『BUSINESS CLASS』は旅と音楽のスリリングな関係を描いたヒップホップ・フライト、あるいは旅をモチーフにしながら作り上げた旅行記的作品である。と、思い込んでインタビューに臨んだものの、話はまあそう単純ではなかった。『BUSINESS CLASS』は、BIM、IN-D、PalBedStockから成る3人組の、『TOY BOX』以来約2年ぶりとなるセカンド・アルバムだ。本作収録の“Department”のPVは旅行先のNYで撮影され、その曲のPUNPEEのリミックス曲が本作に収められている。NYでの体験、今回の制作体制やメンバー個々のセンス、THE OTOGIBANASHI’S とCreativeDrugStoreの区分け。謎多きラッパーPalBedStockは残念ながら欠席したが、今作の制作に深く携わったVAVAとJUBEEの同席のもと話を訊いた。

――素晴らしいアルバムですね。少し前にNYに行っていたそうですが、『BUSINESS CLASS』は旅の道程を描いていますよね。NYはどうでしたか?

BIM「OTGのメンバー3人とCreativeDrugStoreの映像担当のHeiyuuとVAVAくんで1週間ぐらい行きましたね。遊びで行ったつもりなんですけど、せっかくだから“Department”のPVを向こうで撮ってきました。現地ではとにかく疲れていて、滞在期間中は「一生NYに来たくない」と思ってた。飯は不味いし、日本語も通じないし、泊まってるところも汚かったから」

IN-D「タバコもすげぇ高かったし」

BIM「ただ、NYに行って良い方向に変わったこともある。それは自分らの作品や表現にOKを出すハードルが高くなったこと。いままでよりもワンランク上のものが作れないと納得できなくなった。あっちのイケてるヤツ、かっこいいヤツは磨かれている感じがして、そういう人から良い影響を受けましたね。GOOD COMPANYっていうマンハッタンの南の方にあるセレクトとオリジナル・ブランドをやってる店に行ったんですけど、そこの店員の人とか有名なアーティストとかでもないのに、ファッションも聴いてる音楽も雰囲気も自然体でイケてるんですよ。そういう店員の人との出会いの他にも、地下鉄の駅員のめっちゃタトゥーの入ったごっつい黒人の人がダボダボの服を着て、切符を切る狭い部屋で仕事をしながら爆音でドレイクをかけたりしてる場面にも遭遇した。そうやって生活の中に自分がかっこいいと思うものを吸収していく感じは、まだまだ自分たちには足りてないなと感じるようになった」

VAVA「自分の好きなものを『これ、ヤバいだろ!?』ってオープンに出していく感じがどの方面でもいろいろ見られた気がした」

IN-D「だから、NYに行ったことは今回のアルバムを作る上でもすごい重要なポイントだったと思うんです」

 

THE OTOGIBANASHI’S “Department”

otogibanashis2

――NYには制作途中で行ったんですか?

BIM「いや、NYに行く前に俺が何もできなくなっちゃったんです。音楽を始めてから2、3年しか経っていないのに生意気って思われるかもしれないですけど、ビートを作っても面白くないし、クラブとかに遊びに行ってもつまらなかった。だから、クラブに行くよりも家で音楽聴いたり、映画観たり、ボーリングしたり、美味い飯を食いに行ったりしてましたね」

――もしやスランプだったんじゃないですか?

BIM「『スランプ、早っ!』みたいな」

VAVA「一日けっこう遊んでる時間が長かった」

BIM「 HeiyuuとVAVAくんがルームシェアしている部屋でよく遊んでましたね」

――うんうん。

BIM「自分の知っている範囲で何かを探しに行ける場所はもうとりあえず行っちゃった気がしていたんだと思いますね。その時期に、Akeem the Dreamさん(『BUSINESS CLASS』収録“機内モード”に参加)と飲むとすげぇ楽しくて、NYの話にもなったんです。それで、NYに行くことにしたんです。普段の生活をしながら、USのラップのPVや映画でも観ているヒップホップの聖地的な場所よりもソーホーみたいな自分が探して辿り着く場所じゃないところに、何かをより強く感じましたね」

――そういう経験があったから『BUSINESS CLASS』は旅のフライトをテーマにしたんですか?

BIM「でも最初から旅をテーマにしようと考えて作ったわけではないんです。1曲1曲のテーマもバラバラですからね。ただ、スキットやイントロを作って、俺とIN-Dとパル(PalBedStock)で歌詞を書いているから最後は辻褄が合うんです。『TOY BOX』はジャケが部屋で、インナースリーヴを開くと島のイラストが載っていて、それぞれの島がアルバムの1曲1曲になっているという物語だった。だから、今回の作品はその続編でそこから飛び出して自分のやりたいことを探しに行くというテーマにすることで上手く落ち着いた感じです」

――『BUSINESS CLASS』というタイトルの心は? 

BIM「“エコノミークラス”の俺の歌詞に「狭すぎエコノミーでも先頭は足伸ばせるのさ(ノーダウ)」というのがあるんです。タイトルは『BUSINESS CLASS』ですけど、もちろん俺らは金が無いからエコノミークラスで行ったんです。当然キツかったんですよ。12時間も乗ってたし、VAVAくんの足はめっちゃ臭いし。それなのに、同じエコノミークラスでも先頭の席の人は脱出口の前だから空間が広いんですよ。同じ金額を払ってるのに、「俺はこんなにキツいのに、お前はキツくないじゃねえか」と思ってしまった。もちろん、ビジネスクラスはエコノミークラスよりも設備はかっこいいし、CAの対応も良かったりする。でも、そこから少し飛躍して、同じ金額でも自分の選び方次第で、自分が楽になったり、楽しいことできたりすると考えたんです。例えば、俺は元々、誰かが2万円で買ったリュックよりも自分が1000円で買ったリュックの方が絶対にかっこいいと考えるタイプなんです。飛行機の中でも同じように考えたんですね。例えば、俺らのいまの状況では何千万円もの資金を使って、豪華なPVを作ることはできない。けれども、友達とチームやタッグを組んでタダでやったとしてもアイディア次第で俺らにしかできない表現ができるはずだと。俺らはエコノミークラスにいるけど、ビジネスクラスみたいな遊び方をしたいという気持ちでこのタイトルを付けたんです」

 

THE OTOGIBANASHI’S “ピザ・プラネット”

otogibanashis3

――NY以外で、この作品を作る上で3人にインスピレーションを与えたものは何かありますか?

BIM「やっぱり同世代のラッパーですね。92、93年生まれぐらいのラッパーにはやっぱ喰らいました。ヴィンス・ステイプルズもチャンス・ザ・ラッパーも韓国のキース・エイプもタメなんです。あれだけヤバくて、化け物みたいなラッパーが同世代にいっぱいいるのは嬉しいですね。同世代のラッパーが何に影響を受けたり、憧れているかはわかるし、そのことをわかるのがすごい好きなんです」

――dooooがトラックを作った“エコノミークラス”ではルートパックの“Whenimondamic”のベースとラップのフロウを引用してるけど、あれは誰の趣味やセンスなんですか?

BIM「俺はマッドリブも好きで、IN-Dはウータンとかが好きなんです」

――VAVAくんが担っている部分はどの要素ですか? 

BIM「“Department”みたいなことじゃない?」

VAVA「僕はパソコンで曲を管理したり、メンバーと相談して編集したりする役割を担っていますね。だいたいの作り方は僕とBIMでまず話して、それから全員でさらに議論して研ぎ澄ませていく感じですね。そういう全体的な曲の編集作業に携わってます」

BIM「“FISHEYE”の最後の倍速になるところはVAVAくんですね。俺がドラムとキックとスネアとハイハットを決めて、ドラム・パターンも伝えて、VAVAくんに組んでもらいましたね」

VAVA「VAVA名義の曲だったとしても、BIMと一緒に相談して作ってることもある」

BIM「VAVAくんは他のアーティストには100ぐらい言わなきゃいけなところを1ぐらいの説明で理解してくれる。でもVAVAくんも思うように作れないときはイライラし始めて、俺もイライラし出すんですよ(笑)。そこから突っつき合いが始まる」

IN-D「あの空気はヤバいよね。」

BIM「とりあえず、ケチをつけ始める」

――IN-Dくんに影響を与えた音楽は例えば何がありますか?

IN-D「それこそウータンやDITCとか古いのが多いですけど、“Department”を作った頃ぐらいからVAVAくんが聴いてる音楽をいろいろ聴くようになりましたね」

――ということは、VAVAくんとIN-Dくんはけっこう趣味が近いということですね。

BIM「だから、2人が聴いている音楽で何がいいのかわからないものもありますね。そういうときはJUBEEと『わかんねえなあ』って話してますね。俺とJUBEEはラップ好きなんですよ」

VAVA「それがいちばんわかりやすい説明だね」

BIM「強いて言えば、VAVAくんとin-dはメロディーやビート好き。俺とJUBEEは『エミネム、ヤバいよね!』という話とかしますね」

――JUBEEくんがラップで参加してる“大脱出”はそれこそ王道の日本語ラップの雰囲気がありますよね。 

JUBEE「あの曲はビートを聴いたときにそういう雰囲気がしたので韻で攻めましたね。それが絶対やりたいと思いました」

BIM「JUBEEは今回のOTGのアルバムの相談役だったんですよ。だいたいビートを作ってるときに一緒にいて『どう思う?』って意見を訊いていた。ビートに関しては俺とJUBEEの意見が合うので、2人でVAVAくんを説得していた」

JUBEE「最終チェックみたいな感じで俺がヘッドホン付けて真剣に聴いて、『ここの(声の)カブせちょっとうるさいから音量下げた方がいいよ』とか『ここは抜いた方がいいよ』とか意見を言ってましたね」

BIM「でもいちどJUBEEに『“エコノミークラス”のサビを作ってくれない?』と頼んで作ってもらったらめっちゃダサかった。『オゥ! ディジェェー!』『フィールソーグー!』みたいな(笑)。『なんだこれ? ダッサいぞ!』つって」

一同「ははははは」

――OTGはかなり意見を戦わせて制作していくということですね。 

BIM「そうそう」

IN-D「ファーストからその感じはあったけど、JUBEEとVAVAが制作にがっつり入ったのは大きい。俺も今回VAVAにいろいろ言われましたね。それはすげぇ面白かったし、良かった」

BIM「VAVAくんに言われたことに対して、IN-Dもイライラしてんのわかるけど、正論だからガマンするんですよ」

VAVA「だから、もちろん誰か1人が中心になって作った曲もあるけど、どの曲も全員が参加して作り上げた感じですね」

――IN-DくんがVAVAくんから言われた発言で憶えてることはある? 

BIM「『寝るな!』じゃない?」

IN-D「『寝るな』はすげぇ憶えてる」

――超初歩的じゃん! いずれにせよ、『TOY BOX』とは異なる制作体制で作り上げたということですよね。OTGがなぜ今回の『BUSINESS CLASS』で前作から変化して、進化したか、そのヒントが少し掴めた気がします。

BIM「もちろん『TOY BOX』の延長線上にある感じはあるんですけど、みんながより意識的になってアルバムを作ったと思いますね」

――今後、OTGとして、個々人として目指す未来のビジョンはありますか? 

BIM「2、3年前に音楽をやり始めたときにいまみたいになってるとは一切考えていなかった。半年先とか1年先ぐらいのやりたいことをずっとやっていく、ということしか俺はわからないですね。ただ一つ、いま22歳ですけど、25歳ぐらいまでにはUSのラッパーとやりたいですね。いまいちばん俺がぶち上がんのはそれだと思う」

――IN-Dくんはどうですか? 

IN-D「楽しく続けたいですね。こう言うとすげぇバカっぽいっですけど、基本的にまずそれがありますね。OTGは基本はbBIM主導のグループで、俺もその中でやりたいことがあるし、違うことやりたいこともやっていくと思いますね。自分の好きなことをこのまま続けていきますね」

VAVA「メンバーと普通に遊んでる延長で“Department”の元トラックができて、あのラップが完成した。そうやってたった3時間ぐらいで一緒に作った曲が“Department”の原形になっているんです。だから、そういう日々の遊びを大切にしていきたいですね」

JUBEE「今回、ラップしたのは“大脱出”だけですけど、BIM、IN-D、PalBedStockとラップするのは楽しいから、それぞれ個々とも曲を作ってみたいですね。あとは、スケボーとダーツが上手くなりたいですね」

――OTGは今後、クルーとして大きくなっていくということなんですかね?

BIM「JUBEEが入ったのはOTGではなくて、CreativeDrugStoreなんです。ただ、このまま増えていくかはわからないですね。俺がその人がダサい曲を作ってきたときに、『お前、ダサい』って言えるかどうかがいちばん大事だから。そうじゃないとマイナスになってしまう」

――OTGとCreativeDrugStoreはどういう分け方ですか?

BIM「最近は二つがごっちゃになってきてますけど、OTGはラップ・グループで、CreativeDrugStoreは趣味の合う友達。クルーっていうより『遊ぼうぜー!』って感じの友達ですね」

 

撮影 山谷佑介/photo Yusuke Yamatani

文  二木 信/text  Makoto Futatsugi

 

otg 2nd 入稿

OTOGIBANASHI’S

『BUISINESS CLASS』

発売中

(SUMMIT)

 

 

THE OTOGIBANASHI’S

日本在住のヒップホップ・ユニット。
メンバーはBIM,IN-D,PalBedStockで構成されている。通称O’S BOYS。 SUMMIT,CreativeDrugStore所属。Bimの呼びかけにより高校の同級生のin-d,地元の後輩のPalBedStockは嫌々ながら2011年に結成。
2012年に突如YouTubeに公開された“Pool”が話題となりSUMMITに加入。 翌年、4月26日にファーストアルバム『TOY BOX』をリリースし、大きな反響を呼んだ。 フジロックフェスティバル2013に出演。メンバーのBIMは俳優の染谷将太氏が監督・主演を務めた映画『シミラーバットディファレント』にて染谷氏の友人役として出演。
O’S BOYSが所属するチーム“CreativeDrugStore”は不定期でPopUpShopというパーティを開催しており、 毎度オープン前にはスプラッシュマウンテンのような列ができている。 2014年12月に新作PV“Department”の公開から彼らが少しずつ新しい動きを見せはじめた。 そして2015年8月5日に、セカンドアルバム 『BUSINESS CLASS”』をリリースした。

OS BOYS 2ND リリースパーティー フライヤー-01(1) OS BOYS 2ND リリースパーティー フライヤー裏-01

THE OTOGIBANASHI’S

「BUSINESS CLASS」リリース・ワンマンLIVE

日時:8月30日(日)

場所:渋谷WWW

金額:¥3,000(前売りチケット購入者特典付)

開場 17:00 / 開演 18:00

more Info : www.summit2011.net/

出演:

LIVE:THE OTOGIBANASHI’S

DJ:Akeem the Dream

VJ:Heiyuu

チケットぴあ http://t.pia.jp/ 【P:273-414】 電話予約:0570-02-9999

ローソンチケット http://l-tike.com/ 【L:71705】  ※電話予約なし

  1. HOME
  2. 生活・趣味
  3. THE OTOGIBANASHI’S『BUSINESS CLASS』インタビュー

NeoL/ネオエル

都市で暮らす女性のためのカルチャーWebマガジン。最新ファッションや映画、音楽、 占いなど、創作を刺激する情報を発信。アーティスト連載も多数。

ウェブサイト: http://www.neol.jp/

  • ガジェット通信編集部への情報提供はこちら
  • 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。