JAM CITY『Dream A Garden』インタビュー

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UKクラブ・カルチャー発の異能集団〈Night Slugs〉所属のプロデューサー、ジャム・シティことジャック・レイサム。カインドネスやFKAツイッグスも称賛を寄せるロンドンのアンダーグラウンド・シーンの気鋭であり、先頃リリースされた2ndアルバム『Dream A Garden』は、レイサムのバックボーンであるUKガラージ/UKファンキーの流れを汲みながらも、その世界観をコンテンポラリーな域に押し広げた傑作だった。たとえば3年前のデビュー・アルバム『Classical Curves』が、レイサムのサウンド・クリエイターとしての先鋭性を表現した作品とするなら、自身のヴォーカルとリリックを軸に制作された『Dream A Garden』は、ある種のシンガー・ソングライター的な趣向を帯びた作品と言えるかもしれない。硬質なビートを包み込むサイケデリックなチルアウト感覚、そこにしたためられたリアルなメッセージについて、フジロックへの出演のため来日したレイサムに聞いた。

 

 

―ニュー・アルバムの『Dream A Garden』は、サウンド的にも、曲作りのアプローチの面でも、前作の『Classical Curves』から大きな飛躍と変化を遂げた作品になります。あらためて振り返ってみて、あの作品のどんなところに最も手応えを感じていますか?

JAM CITY「あのアルバムのメッセージである反抗だったり疎外感だったり、楽観的な希望だったりに、予想以上に多くの人達が反応して理解を示してくれたことに驚いたし、感動したんだ。それと、この作品がきっかけで、他の人達の歌詞や曲作りの手助けをする機会が多くなったんで、すごく良いきっかけを与えてくれたアルバムだと思う」

―最近だと、ウェットのリミックス(“Deadwater”)の話題になりましたね。

JAM CITY「ちょうどLAでケレラの次回作を手伝ってたんだけど、他にも何人かのクリエイターとコラボレーションしながら作ってて、みんなが家族みたいですごく良い雰囲気だったんだよね。最初はただみんなで集まってビートを作るだけだったんだけど、それがいつしか歌詞やテーマやコンセプトについてディスカッションするようなクリエイティヴな関係になって、すごく良い雰囲気だったんだ。そこで話し合ったことを実際の作品に反映させていくことができたのもすごくよかったし。単にビートを作ってメールでやりとりするだけの関係じゃなくて、人間同士の自然な繋がりの中から音楽を作ってるのが実感できて、すごくいいなあと思ってね」

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―『Dream A Garden』では、自ら歌詞を書き、自ら歌うという、それまでにない経験をされたと思うんですね。そうしたアプローチを今回選択された理由は?

JAM CITY「自分が実際に生きている日常生活だったり、自分や自分の近しい人だったり友達だったりが体験していることと、自分の作ってる作品との間に溝ができてるような気がして。今回、そのギャップを埋めていく作業をする必要があると感じたんだ。音楽をベースにして腹を割って話すというか、今この時代に誰かが経験していることについて歌っていく必要性があると思ったんだ。ファースト(『Classical Curves』)ではあんまりそういうことをやってなかったからね。とは言っても、ファーストにはファーストなりに表現したいものがあったわけで、あの作品はあの形でよかったんだけど。ただ、自分の表現と実際に自分が送っている日常生活とが、ずっと乖離した状態にあ るのは避けたいなと思ったんだ」

―その「ギャップ」とは具体的に?

JAM CITY「『Classical Curves』は何て言うか、要するに……現代社会を鏡のように写し出すような作品にしたかったんだ。最先端のテクノロジーに彩られた消費社会を映し出すような作品というか。ただ、それをただ映し出すだけでは不十分なような気がして。セカンド(『Dream A Garden』)でみんなが当たり前だと思っている暮らしとは別の生き方があることを示すことで、現代の消費社会に対抗していたり、あるいは愛とか友情とかもっと大事なことを伝えていたり、現代の社会の物質中心の価値観をただ享受するだけじゃなくて、もっと想像力を働かせよう、世界に対して夢を見ようっていうことを伝えてるんだ。そうした社会に対する願望だったり楽観的な希望を伝えていく上で、音楽は最強のツールになると思うんだ。自分の表現を通じて疑問を問いかけることも大事だけど、そこに夢を見たっていいわけだし、多少非現実的でも許されるのが音楽でありアートだからね。今回のアルバムは非現実的で、夢見がちで、現実世界では実現不可能な可能性について語ってみたかったんだ」

―ちなみに、今回のソングライティングにあたり、作詞や歌唱の部分で影響を受けた、あるいは参考にしたアーティストはいますか?

JAM CITY「自分はカーティス・メイフィールドの大ファンなんだ。ポップ・ソングなんだけど、意味が何重にもあって、アメリカの市民運動も恋愛の曲とも、働いても楽にならない暮らしの曲とも取れるんだ。それと、ローラ・オールドフィールド・フォードっていう『Savage Messiah』 っていう本があって。ロンドンの街並みが変わりゆく中で、どんどん暮らしにくくなってることについて、ファンタジー調で書いてあるんだけど、最初に彼女の作品を読んだときに、まるで自分が日常的に見ている風景と同じだと思ったんだ。それこそ、デパートだったりチェーンのコーヒーショップみたいな普段から見慣れたつまらない世界までもが普通に綴られていて、こういう表現の仕方があるんだっていう新鮮な発見があって、自分が歌詞を書く上でもものすごく影響を受けている。ロンドンの昔ながらの風景が消費社会にどんどん淘汰されて、変わりゆく街の様子について夢物語のように綴ってあってね」

―今、「変わっていくロンドンの街並み」という話がありましたが、他のインタヴューで今回の『Dream A Garden』のアイデアについて、“自分達が安心できる、落ち着ける場所、そして平和を感じることができる場所を作る”と話されていたのが印象的だったんですね。それは逆に言うと、今の自分の周りにはそういう場所がない、という意識の表れだったりするのでしょうか?

JAM CITY「まさにそうだね。みんなが安心できる場所を提供することが、ミュージシャンやアーティストや作家の役割であると思うし。もちろん、みんなが安心して暮らせる場所を実際に現実的に作り出すのは難しいんだけど、自分が今置かれている環境とは別の可能性もあるんだよってことを示すことは可能だと思うんだ。それがどんなに突拍子がなくて実現不可能なアイデアであっても、そうした選択肢があるんだっていう……今回のアルバムでやりたかったのも、まさにそういうことで、自分が今置かれているのとはまったく別の正反対の世界を示すっていうことをしたかったんだ」

―そうした「街並みの変化」は、実際にロンドンの音楽カルチャーにどんな影響を与えていると言えますか?

JAM CITY「たしかにロンドンのクラブは危機的な状態になるよね。プラスティック・ピープルみたいなクラブも閉鎖されているし。毎週同じクラブに通って、新しい音楽に触れてっていうことを、日々の生活の中で続けていくってことが難しくなってる。音楽を作る側にしてもみんな時間が足りないというか、ただ普通に家賃を払うために仕事を2個も3個も掛け持ちしなくちゃならないのが当たり前の状態になってるからね。ただ、それでも『Dream A Garden』は、多少変わってはいるけど、踊るためのアルバムであると思ってるんだ。たしかにクラブ・シーンは危機的な状況にはあるけど、それでも、そうした状況を変えていく力は若者の手にあるし、失われてしまった場所を取り戻して、自ら音楽やアートのコミュニティやネットワークを形成していくことができるってことを伝えているんだ。それが現代の消費社会に対してできる一種の抵抗であると思うんだ」

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―今のあなたにとって、たとえば〈Night Slugs〉が“自分たちが安心できる場所、平和を感じることができる場所”なのでしょうか?

JAM CITY「そうだね(笑)、絶対にあるよ。レーベルのみんなが友達だし、アルバムを出すのも義務からじゃなくて、ただ友達同士で好きだから楽しくてやってるようなもんだし(笑)。自分の意見を好きなように言うし、自分の好きなようにやらせてもらってからね」

 

 

―先ほど話された『Dream A Garden』のテーマみたいな内容については、〈Night Slugs〉に所属するアーティストの間でも話題に出てきたりするものなんですか?

JAM CITY「そうだね。みんな同じ時代に生きて、同じような経験を辿ってきてるからね。ただ、アーティストによって表現は違うから、必ずしもみんなが同じメッセージを掲げているわけじゃないし、いろんな意見があっていいと思うんだ。それでも、音楽を通して世の中を少しでも明るく照らしていきたいっていうのは、みんなが共通して持っている想いだよね。クラブで踊りながら聴くでも、ヘッドフォンを通して聴くでも、瞬時に身体が思わず反応してしまうような音楽を作っていきたいっていうね」

―『Dream A Garden』に収録されている“Crisis”はロンドンでの暴動について書かれた曲ということですが、そうした実際の出来事を曲にすることは、それこそこれまでにないチャレンジングな経験だったのではないでしょうか?

JAM CITY「そうだね。あの暴動を目の当たりにして何かしないわけにはいかなかったんだ。自分がまさに住んでいる場所で起こった出来事なわけで、ものすごく衝撃だったし、一生忘れることのできない出来事というか……実際、あの暴動のあとスタジオに入っても、何も手つかずの状態で、何週間もひたすらボーッとしてる日々が続いたんだ。実際、“Crisis”を書いたのは、もっとずっとあとになってからなんだけど、ようやく吐き出せたって感じだったよ。外に出さなくちゃいけない感情だと思ってたから……あるいは、音楽を通して、いつか必ず何らかの形で出てくるものだと思ってたし。自分の内側だけに留めておくには、あまりにも衝撃が大きすぎたからね」

―吐き出したら楽になりました?

JAM CITY「うん、本当にね(笑)」

 

―わかりました。では、最後の質問になります。少し前にカインドネスが来日したんですが、その際にインタヴューで「ニュー・アルバムの『Otherness』と同じレコード棚に誰かのレコードを一緒に置くとしたら?」と聞いたら、あなたの『Dream A Garden』とケンドリック・ラマーの『Good Kid, M.A.A.D City』を挙げてくれたんですね。

JAM CITY「いいね(笑)」

 

―それを受けて、今度はあなたにも同じ質問をしたいんですけど――。

JAM CITY「カインドネスとケンドリック・ラマーのアルバムって答えるべきなんだろうけど(笑)」

―ケンドリック・ラマーは新しいアルバムも出ましたよね。

JAM CITY「まだ聴いてないんだよ(笑)。なので『Good Kid, M.A.A.D City』を選ばせてもらおうかな(笑)」

 

―せっかくなので、違うアルバムだったら嬉しいかな(笑)。

JAM CITY「OK、2枚ちゃんと選ぶよ」

―時間をかけていいですよ。 

JAM CITY「はははは……(沈黙)難しいな、曲ごとに聴いてるからな……しかも最近、アルバムを聴いてないし(笑)。ただ、自分が最近ずっと聴いてる2枚のアルバムとして、最近の作品じゃないし、自分の作品がそれと肩を並べるものとは決して思ってないけど、カーティス・メイフィールドの『There’s No Place Like America Today』と……それとキュアーの『Disintegration』になるのかな」

―キュアー? 確かに、“Unhappy”とかには、そうしたニュー・ウェイヴやゴシックなテイストも感じられますね。

JAM CITY「13歳ぐらいのときから聴いてて、いまだに飽きないからずっと聴いてる。プロダクションにもかなり影響を受けてるよ」

 

撮影 中野修也/photo Shuya Nakano

文 天井潤之介/text  Junnosuke Amai

 

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JAM CITY

Dream A Garden』

(NIGHT SLUGS / BEAT RECORDS)

 

 

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商品情報はこちら:

http://www.beatink.com/Labels/Beat-Records/Jam-City/BRC-460/

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NeoL/ネオエル

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