クリエイティブ・コモンズ・ライセンス 4.0 日本語版が登場―気になる変更点は
2015年7月15日、クリエイティブ・コモンズ・ライセンス バージョン 4.0 の日本語版が正式に公開されました。この日本語版は参考訳ではなく、2013年11月に公開された英語版にならぶ正式版のひとつとなっています。同ライセンスの日本語版が登場するのは、2004年3月に公開された『2.1 日本』から実に約11年4ヶ月ぶりとなります。
それでは、この機会に、クリエイティブ・コモンズ・ライセンス バージョン 4.0での変更点をおさらいしましょう。大きな変更は以下の6点です。
1. 世界的に文面が統一された
2. 著作権の周辺の権利についても明記された
3. クレジット表示義務に関する規定が分かりやすくなった
4. 改変がない場合でもクレジットの除去を要求できるようになった
5. 違反を是正するために30日間の猶予期間が設けられた
6. 読みやすくなった
変更点のおさらい
1. 世界的に文面が統一された
3.0以前のバージョンでは、『非移植』(unported)と呼ばれる世界共通の版の他に、各国の法律に適応した『移植』(ported)と呼ばれる版が用意されてきました。
バージョン 4.0 では『移植』が廃止され、『国際』版として世界的に文面が統一されました。それに伴い、各国版はその文面に忠実に翻訳された正式版という扱いとなっています。
『非移植』の例:
『クリエイティブ・コモンズ 表示 3.0 非移植』
『移植』の例:
『クリエイティブ・コモンズ 表示 2.1 日本』
『国際』の例:
『クリエイティブ・コモンズ 表示 4.0 国際』
これまでは、日本向けの移植版である『クリエイティブ・コモンズ 表示 2.1 日本』が、自治体のオープン・データの取り組みに利用されるなど一定の利点がありました。しかし、以下のような問題点がありました。
・各移植版の内容に差異があるため国を越えての利用に制限がともなう
・移植版の公開までに時間がかかったり、公開されないことがあった
(例:バージョン3.0の『日本』版は正式版が公開されなかった)
バージョン 4.0からは、『国際』版に統一され、これらの問題点は解消されることとなりました。しかし、『国際』版は日本の法律には特化していないため、自治体のオープン・データへの利用などに浸透しないのではないかという懸念が残ります。
2. 著作権の周辺の権利についても明記された
バージョン4.0では、『データベース権』などの新しい権利について明記されました。また、著作者人格権、パブリシティ権、プライバシー権などの取り扱いが変更され、それらの権利ついて許諾者は“ライセンスされた権利を行使するために必要とされる範囲内”で放棄すること(主張しないこと)が明記されました。これにより、作品の利用者にとっては、クリエイティブ・コモンズでライセンスされた作品が利用しやすくなりました。
加えて、特許権や商標権といった権利がクリエイティブ・コモンズのライセンス対象外であることも明記されました。これにより、企業ロゴを含むような文章での利用もしやすくなったといえるでしょう。
3. クレジット表示義務に関する規定が分かりやすくなった
クリエイティブ・コモンズ・ライセンスは、適切なクレジットを表示することを条件に作品の利用を許諾するライセンスです。クリエイティブ・コモンズ・ライセンスには、いくつかのバリエーションがありますが、いずれも適切なクレジットの表示が求められています。(著作権放棄を示すCC0ライセンスを除く)
3.0以前のバージョンでは、クレジット表示に関する諸条件が長い文章で記されており、難解なものとなっていました。バージョン 4.0ではその点が改善され、簡潔で具体的な箇条書きとなり、法律の専門知識がなかったとしても理解できるような内容となっています。
4. 改変がない場合でもクレジットの除去を要求できるようになった
クリエイティブ・コモンズ・ライセンスは目的を問わず利用を許諾するライセンスであるため、その用途を限定することができません。たとえば、アダルト作品NGの名義で発表した作品であっても、アダルト作品に利用されることを止めることはできません。そのような場合に備え、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスでは、自分の名義が望まない利用と結びつけられないよう、作品の利用者に対してクレジットを除去することを要求できることが明記されています。
しかし、3.0以前のバージョンでは改変(翻案など)がなければクレジットを除去することを要求できませんでした。一方、バージョン 4.0ではそのような限定が撤廃され、作品がそのまま利用される場合においてもクレジットの除去を要求できるようになりました。
5. 違反を是正するために30日間の猶予期間が設けられた
3.0以前のバージョンでは、ライセンスに違反した時点で即座に、かつ恒久的に(許諾者がライセンスを復活させるまで)ライセンスが終了することとなっていました。しかし、これは作品の利用者にとってはリスクでした。クリエイティブ・コモンズ・ライセンスへの不理解や、許諾者と作品の利用者との間での理解の不一致により違反であるとみなされた場合に、その時点で、二度とその作品を利用できなくなってしまうためです。
バージョン 4.0では、即座にライセンスが終了することに変更はないものの、作品の利用者側が“違反を発見してから”30日以内に違反を是正すれば、自動的にライセンスが復活することとなっています。
ただし、違反が発生した時点から違反を是正するまでの間は、ライセンスが終了した状態となっているため、その間の利用料や損害賠償などを請求される可能性はあります。したがって、決して30日間なら違反をしても良いというわけではないことに注意が必要です。
6. 読みやすくなった
全体的に具体的で平易な表現の文章に変更されています。これにより、法律関係の知識が少なかったとしても理解しやすくなっているというのがバージョン 4.0の最大の特色です。また、上記で紹介した点のほかにも、翻案物に適用できるライセンスの条件についても明示されるなど、誤解を防ぐための工夫が見て取れます。
ただし、日本語版は英語版に忠実に翻訳されているため、日本語の表現として必ずしも分かりやすいものばかりではありません。特に日本語と英語で一対一で対応する単語が存在しないような箇所に、苦慮の痕跡が見えます。それでも、パブリックコメントで指摘された点を反映した最終版は、分かりやすい形にまとまったといえます。
最後に
現在のところ、日本では、黙認文化が根強いため、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスのようなオープン・ライセンスは普及しない傾向にあります。しかし、将来のことまで考えるならば、TPPに関連した著作権法違反の非親告罪化も視野に入れなければなりません。知財関係の知識、特に不特定多数に対する明示的な許諾手段についての知識は、今後ますます必要になると予想されます。
クリエイティブ・コモンズ・ライセンス 4.0 日本語版が公開されたこの機会に、ひとつの知識として、ライセンス条項に目を通して理解を深めてみるのはいかがでしょうか。
※この記事はあくまでも筆者個人の理解に基づく見解であり、法的な有効性はありません。必ずライセンス条項の原文をご覧の上、ご自身の責任のもとにご判断ください。
参考文献
[1]“CCライセンス・バージョン4.0 日本語版の公開” (2015/08/06 18:25 JST閲覧)http://creativecommons.jp/2015/07/15/cc%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%82%BB%E3%83%B3%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%83%90%E3%83%BC%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%83%B34-0-%E6%97%A5%E6%9C%AC%E8%AA%9E%E7%89%88%E3%81%AE%E5%85%AC%E9%96%8B/ (リンク)
[2]“What’s New in 4.0” (2015/08/06 18:25 JST閲覧)http://creativecommons.org/version4 (リンク)
[3]“クリエイティブ・コモンズ (Creative Commons) — 表示 4.0 国際 — CC BY 4.0” (2015/08/06 18:25 JST閲覧)https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/legalcode.ja (リンク)
画像は参考文献[1]より取得したスクリーンショット。(CC-BY 4.0、著者情報は当該URLを参照)
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