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江戸しぐさ信奉者が広める「朝鮮式お辞儀」というデマについて

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「江戸しぐさ」が最近の創作ということは徐々に知られるようになってきたが、「江戸しぐさ」信奉者が別のデマを広げているのをご存知だろうか。それが「朝鮮式お辞儀」である。

 

このデマで言う「朝鮮式お辞儀」とは、女性がおへその前で手を組んでお辞儀(立礼)をする、ごく普通のお辞儀のこと。ところが「江戸しぐさ」信奉者によると「これは、韓国人が日本の小笠原流の正しいお辞儀を改変したニセのお辞儀」「古来の華族の伝統である小笠原流のお辞儀では手を組むことはない」のだという。そして、「韓国人の文化侵略が進み、朝鮮式お辞儀をしないとマスコミから追放される」といういささか大仰な話になっている。果たして正しいのだろうか?

 

お辞儀は明治時代に創作された新しい礼儀作法だった!手を組むお辞儀は東京府の制定お辞儀だった?!

まず、お辞儀の歴史から振り返ってみよう。実を言うと立礼のお辞儀は明治時代に創作されたもので、そもそも小笠原流にはなかったもののようだ。

例えば明治26年出版の本「日本礼式小笠原流」には立礼の項目そのものがない。

明治25年の岡野英太郎 編「日本諸礼独稽古」(にほんしょれいひとりげいこ)には一応書いてあるが、「立礼(注:お辞儀)は明治維新以後に服装の洋装化に伴い出来たものだ。ただ太古には日本でも立礼をしていたようだ。立礼は最敬礼と敬礼が有り、敬礼はただうつむき、手は自然に垂らす」というずいぶん簡略なものである。

「日本諸礼独稽古」にあるように、明治維新後に立ってするお辞儀は創作されたものなので、いろいろな流派が存在した。

 

例えば明治15年の東京府(現在の東京都)制定の礼を解説した高橋文次郎「小学女礼式訓解」(平城閣)の図「椅子に倚たる人を拝する図」は「両手の指先をお臍あたり」に持ってきているようにしか見えない。手を組んではいないが恐らくこの辺りが「女性が手をおへそあたりに持ってくる」礼法の起源であろうか。東京府が定めて教育現場で使われていたのがこのお辞儀である。(下図参照)

このため、東京府方式のお辞儀では手を前に組んでおへそに持ってくるものも存在していたようだ。明治15年の西村敬守 編「小学女礼式」の挿絵(下図)には、手を組んで腰をかがめてお辞儀をする女性が描かれている。

となってくると、どうやらネット上で騒がれている「朝鮮式お辞儀」なるものも、明治時代に新しく制定されたお辞儀の一種に過ぎなかったようだ。「韓国人が日本の小笠原流の正しいお辞儀を改変したニセのお辞儀」という江戸しぐさ信奉者の広めている説は、史料によると否定されてしまうのである。デマに惑わされないように気をつけたいものだ。

 

(画像はすべて近代デジタルライブラリーより。

「小学女礼式訓解」 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/759086

西村敬守 編「小学女礼式」 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/759081)

※この記事はガジェ通ウェブライターの「松平東龍」が執筆しました。あなたもウェブライターになって一緒に執筆しませんか?

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