『マエストロ!』松坂桃李インタビュー

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クラシックを題材にした映画は昔からいくつも存在するが、さそうあきらの人気コミックを原作とする『マエストロ!』は、その中でもかなり“特別な1本”と言えるだろう。いろんな理由で「負け組」に甘んじている楽団員たちが集まり、すったもんだしながらも解散したオーケストラを復活させていく物語。この群像劇を撮るにあたり、小林聖太郎監督はすべての役者陣にプロ同様の弾き方をマスターしてもらうところから始めたのだ。それも画面に映る手元だけではなく、劇中に出てくる交響曲をまるごと弾きこなすという、とんでもなく高い高ハードル! 本作には、50人の楽団員が奏でる「音」が響き合い躍動的な「音楽」が生まれる瞬間が見事に写しとられている。主人公の若きコンサートマスター・香坂真一を演じるのは、松坂桃李。今回まったくの初心者からヴァイオリンの練習を始め、「運命」「未完成」などの難曲を弾きこなすまで上達したという彼に、本作にこめた思いを聞いた。

──まずは出演オファーを受けた際の第一印象から伺えますか?

松坂「お話をいただいたのはクランクインの1年くらい前で。その時点ではまだ、台本が完成してなかったんです。なのでその時点では、ジブリアニメの『耳をすませば』に出てくる天沢聖司みたいで『あ、ちょっとかっこいいかも』と(笑)。もちろん軽く考えていたわけじゃないんですけど、まさかその後、1年にも及ぶ“地獄の特訓”が待っているとは想像していませんでしたね」

──ヴァイオリンの練習はどんな感じで?

松坂「最初は“ロングトーン”といって、1つの音を長く伸ばすところから始めるんです。運よく1回目から音が鳴って、周りも『おーっ、やるじゃん』みたいな感じで盛り上げてくれたんですけど、日を追うごとに笑顔も口数も減り、顔も土色になっていって(笑)。そうやって練習しながら、半年くらいたったところで仮台本が上がってきて……」

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──じゃあ、脚本より先に特訓だったんですね(笑)。

松坂「はい。ただ、原作のマンガは先に読ませてもらって、クラシックという音楽をすごく身近に感じさせてくれる作品だなぁと思いました。僕自身もそうなんですけど、やっぱりクラシックのコンサートって特別感があるというか……。ちょっと敷居が高いじゃないですか。でも海外だと、若いカップルが映画を観にいく感覚で気軽に出かける文化があったりする。だから映像化に際しても、この映画がクラシックへの間口を広げるきっかけになればいいなという思いは、すごくありました」

──11億円もするストラディヴァリウスを弾いた感想は?

松坂「ストラディヴァリウスって、実はすっごく軽いんですよ。本当に紙のように軽い。風でフワッと飛んでいくんじゃないかと思うくらい。で、弓が重いんです。弓にしっかり重みがあるので、手で押さえなくても、弓の重みですっと吸い付くんですよね。いいバランスで、ちゃんと構えとしてぶれずに弾けるというか」

──香坂という主人公への共感はいかがでした? 

松坂「彼は思ったことをあまり口に出さないタイプですが、うちに秘めた思いは深い人。小さい頃から父親にヴァイオリンを教わってきて、『この世で一番美しいものは音楽だ』と言い切れる強さを持っています。彼が求める音楽がものすごく高いところにあるというのは、台本を読んでも、現場で彼を演じたときにもすごく感じましたし。でも、そういった感情をわっと露わにせず、いわば青い炎を内にふつふつと宿しているところは、自分の中で共感する部分はありました」

──コンサートマスターを演じるにあたって、楽器以外の部分で工夫した部分は?

松坂「現役でコンサートマスターをやられている方に何人かお話を伺いました。ただ、やっぱり答えは1つじゃなくて……。『オレについてこい』という指揮者とガンガンやりあうコンサートマスターもいれば、自分はパイプ役に徹し指揮者の意図をオケのメンバーに伝えようとする方もいる。たとえば団員たちに合図を出すときも、イケイケの人は身体全体でガッと合図を出すし、調整型の人はヴァイオリンのネックを控え目にクイッと上げるだけだったりして(笑)。人によって本当にさまざまなんですね。その中から、うまく使えそうなところを自分なりにピックアップして人物像を作っていきました」

──映画を観ていても、最初はバラバラだったオーケストラのメンバーが次第に団結していく感じが、手に取るように伝わってきました。

松坂「それは嬉しいですね。最初は香坂1人が空回りしている感覚だったのが、だんだん指揮者と団員の間に化学反応が起きていって。終盤戦になると、彼自身も体験したことがない未知の音楽の状態へとどんどん入っていく。その過程を楽しんでいただければと思います。僕自身、内に秘めた青い炎がぼっと点く瞬間というのかな。香坂を演じるにあたって、ある種のクールさと情熱の振り幅みたいなものは、すごく意識しました」

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──この映画自体が、クラシック音楽に対するイントロダクションになっている気がするんですが、演じてみて松坂さん自身の“クラシック観”が変わった部分ってありました? 

松坂「すごくありますね。それまで僕の中で、クラシックというのは“芸術として完璧に構築されたもの”というイメージがあったんです。もちろん実際にそういう側面はあると思うんですけど、でも今回『マエストロ!』に出演して、そこに辿りつくまでの過程みたいなものを疑似体験させてもらって……。変な表現ですが、『あ、クラシックってこんなに人間くさい音楽だったんだな』と思いました。どんな一流のオーケストラでもきっと、楽団員それぞれが血眼 になって、1つの曲に取り組み、没頭してるんですよね」

──そこにはたしかに、人間がいると。

松坂「そうなんです。そもそも18〜19世紀にベートーヴェンやシューベルトが作った楽曲が今でも演奏されている理由は、正解がないからだと思うんです。曲に込めた本当の思いは、作曲家本人じゃないとわからない。それを、それぞれの時代に生きている指揮者やコンサートマスター、楽団員たちが『これが正解なんじゃないか』と悪戦苦闘して……。もう1つの真実を作りだしていく。過去からの挑戦状を受け取って、次世代に繋ぐというのかな(笑)。それが映画の中に出てくる『誰かと響き合えたら、音楽の一瞬は永遠になる』という言葉にも繋がっていくのかなと。真実というのは見つけるだけじゃなくて、作り出す側面も大きい。その意味では、役者という仕事にも似てるかもしれませんね」

──いくつか重要な曲が出てきますが、特に気に入ったパートはどこでしょう?

松坂「やっぱりベートーヴェン作曲『運命』の第4楽章ですね。クラシックの交響曲は、ちゃんと起承転結があるんです。なかでもこの曲の最終楽章はすごく心が躍るというか、僕にとっては心を揺り動かされるメロディーでした。演ってる最中もすごく燃えましたし、いま思い返してもぐっときますね」

──一風変わった指揮者・天道徹三郎を演じた西田敏行さんとは、今回が初共演ですね。演奏シーンで対峙してみた印象はいかがでした?

松坂「もう圧倒的でしたね。指揮者のオーラを身にまとって指揮台に立たれた時の存在感がすごい。演じながら目を離せないというか……。身体全体や目線を駆使して、『俺が演りたい“運命”はこうだ!』という意志をバシバシ伝えてくださるんです。具体的には、微妙にワンテンポ速い指揮でぐいぐい攻めてくる。なのでこちらも演じながら、『わかりましたぁ!』みたいな(笑)。その仕掛けから目が離せなくて、刺激的でした」

──それも踏まえて、『マエストロ!』という作品に出て良かったことは何でしょう。

松坂「たくさんありますが、一番大きかったのはクランクインの1年前から作品に携われたことです。その期間中は、ヴァイオリンを見たり触ったりするたびに『マエストロ!』という作品の意味や香坂の人物像について考え、作品と向き合う時間を濃厚に過ごすことができました。もちろんプレッシャーもありましたし、スタッフの皆さん本当に大変だったと思うんですが、妥協せずに作ることができたのは僕の中では貴重な財産になっています。あのコンサートシーンは、もう二度とできないんじゃないかなと思います。全キャスト、スタッフの集大成と言ってもいいくらいです。監督が本当にこだわりぬいて、ようやく完成したシーンになっています」

──では最後に、NeoL読者にリコメンドの一言をお願いします!

松坂「1800円でクラシックのコンサートが体感できるのはお得だと思うので、ぜひ劇場に来ていただきたいです。本番に加えてオーケストラの裏側も全部見せてくれます(笑)。最高の演奏と人間ドラマが一緒になったような、盛りだくさんな作品なので、これを機会にクラシック音楽と親しんでいただけるとすごく嬉しいです」

 

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『マエストロ!』

1月31日(土)全国ロードショー

公式サイト: http://maestro-movie.com/

配給:松竹/アスミック・エース

(C)2015『マエストロ!』製作委員会

(C)さそうあきら/双葉社

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監督:小林聖太郎(『毎日かあさん』)

脚本:奥寺佐渡子(『八日目の蝉』)

原作:さそうあきら「マエストロ」(双葉社刊)漫画アクション連載

出演:松坂桃李、miwa/西田敏行ほか

 

 

 

 

撮影 田口まき/photo  Maki Taguchi

文 大谷隆之/text  Takayukii Otani

スタイリング 伊藤省吾/styling  Shogo Ito

ヘアメイク INOMATA/hair & make-up  INOMATA(&’ s management)

 

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