常識外れだった吉田松陰 そのスゴさとは?――齋藤孝が語る“吉田松陰”(1)

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常識外れだった吉田松陰 そのスゴさとは?――齋藤孝が語る“吉田松陰”(1)

 1月4日にスタートした今年のNHK大河ドラマ「花燃ゆ」は吉田松陰の妹である文が主役だ。吉田松陰といえば、「尊敬する歴史上の人物」「上司になってほしい有名人」などのランキングで必ずといっていいほど上位にランクインする人物。
 1830年、長州藩(現在の山口県)に生まれ、1860年に斬首刑に処されるまでわずか30年の間に、後の明治維新への機運を高め、伊藤博文や山縣有朋らを輩出した松下村塾を設立するなど、多大な功績を残したことで知られる。

 そんな松陰が残した言葉たちを、教育学者で現在はTBS『あさチャン!』のメインキャスターとしても活躍している齋藤孝さんがひも解き、分かりやすく説明してくれるのが『超訳 吉田松陰語録 運命を動かせ』(キノブックス/刊)だ。
 松陰はどのような人物だったのか? 今回は齋藤さんに、吉田松陰の実像について語ってもらった。その前編をお送りする。
(新刊JP編集部)

■常識外れだった吉田松陰 そのスゴさとは?

――吉田松陰は29歳のときに安政の大獄に連座して斬首刑にされます。若くして亡くなった松陰ですが、『超訳 吉田松陰語録―運命を動かせ』を読むと、松陰自体は「死」に対する恐怖感がなく、むしろそちらに向かって動いているようにも思えました。この松陰の言動の意味は一体どういうことなのでしょうか。

齋藤さん(以下敬称略):彼はあまり「死」を恐れていなかったと思います。むしろ必要であれば「死」も受け入れる姿勢をとっていた。なぜなら、大事なことは自分の存在ではなく、自分の志だからです。自分がなすべきことを果たしたら、あとは淡々と死を待つ。そんな気持ちだったのだと思います。
自分の志を受け継ぐ「同志」たちが出てくる。自分が撒いた種がどんどん芽を出す。そうすれば、自分は何も恥じることはないと考えていたのかもしれません。

――なるほど。

齋藤:実は、品川弥二郎宛の書簡で彼は三度死を覚悟したことがある、人はなかなか自分を殺してくれないと書いています。死ぬ間際までいったことがあるけれど、死ぬことができなかった。最期は斬首刑となりましたが、どんな失敗をしようが、なかなか簡単には死なないんです。ましてや、幕末の混乱の時代。それでも自分は捕まるが死刑にはならない。
今の時代で考えてみると、犯罪はともかくとして、ちょっとやそっとの失敗で命を奪われることはまずありませんよね。だから、失敗を恐れて何もできなくなる人は多いですが、「命まで取られるわけじゃない」とつぶやいてみるといいと思います。死ぬわけじゃない、ビビるな、と。

――松陰の言葉からは自分の「死」を次につなげようとする意識が見えます。

齋藤:彼の意識の中には、常に「死」があったと思います。ただ、松陰にとって「死」は終わりではなかった。自分の「死」を起爆剤にしようとしていたところがあります。
これは「野村和作宛書簡」につづられていますが、自分が捨て駒となって死んでみせることで、同志たちの決起を促しているんです。日本人があまりにも臆病になっている。門下生だった高杉晋作や久坂玄瑞も行動しない。ならば、と自分の「死」をもって同志を目覚めさせようとした。

――そう考えると、松陰は非常に常識外れな人間というか…。

齋藤:そう見えてしまいますよね。ただ、彼が自分自身のことを「狂人」と言っているのは面白い。成功者や社会を変えた人間は得てしてこういう人が多いと思います。周囲からは「絶対にやめたほうがいい」と言われても、それを成し遂げてしまう。
経営者の言うことが嫌だと思っても、それを誰も言えず、全員が保身に走った結果、結局経営が傾いたという会社はよくあります。松陰はそこで経営者に一言物申すタイプですね。自分の地位がどうなろうと、「それは違う」と言ってしまう。
何かが大きく変わるとき、だいたい松陰のような人間があらわれて、疎まれながらも一気に変えていくものです。ただ、現代の実社会でそれを実践するのは難しいかもしれません。だから周囲に自分の意見を聞いてもらえる環境をつくることは大事だと思います。

(後編へ続く)


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