【仙北市国家戦略特区構想特報(1)】港区赤坂のスペイン料理店から秋田県仙北市を国家戦略特区にするという動きが!
営団地下鉄千代田線の赤坂駅から乃木神社へ向かう道すがら、うっかりすると見落としそうなスペイン料理店『セルベセリア グランビア』がある。こだわりの自家製生ハムがおすすめで、ランチからディナーまで、お手頃な価格で気軽にスペイン料理とワインが楽しめる懐にもおいしいバルだ。この『グランビア』が国家戦略特区の提案に動いているという。
しかし、都心のスペイン料理店と国家戦略特区がどう関わるのであろうか。そもそも国家戦略特区は、岩盤規制を取っ払うことでビジネスしやすい環境を整え、自立した地域の経済成長モデルを作ってもらうという地域活性化の飛び道具だ。ということでグランビアを経営する金子裕二氏に話をうかがった。
「当店の自家製生ハムは、田沢湖高原の生ハム工房で作ったものを使っているんです」
金子氏は、1982年から秋田市でスペイン料理店を経営する傍ら、自家製生ハムづくりを続けていたという。ドイツ式ではなく秋田の風土とよく似たスペイン式の製造にこだわって秋田県産の生ハムを完成させ、2005年にスペイン料理店を東京に進出させた。田沢湖の生ハム工房では、手作り体験ができる『生ハム塾』を開催してノウハウを余す事なく公開し、すでに延べ1000人の受講者が日本全国にいるという状況だ。
この生ハムが国家戦略特区の鍵となる。
「仙北市は、2005年に角館町と田沢湖町と西木村が合併したもので、温泉も数多く、角館の武家屋敷通りをはじめ、田沢湖や駒ヶ岳など風光明媚な観光地がたくさんあります。観光客は大変多く訪れてくれますが、仙北市自体が潤っているかというと他の市町村と同じように活気はありません。また、西木村は、ほぼ山地で国有林が大部分を占めており林業と農業が主な産業ですが、やはり斜陽産業です。そこで当初の構想では、ブランド豚を育てて生ハムを仙北市の名物にすれば地域活性につながると考えていたんです」
養豚を行うには広大な土地が必要だが、遊休地はあるし、山林を切り拓けばかなりの数の豚を育成することができるはずだった。しかし、そこに立ちはだかったのが、国有林野の使用を規制する制度である。そして、なかなか思うように話が進まない中で金子氏が一筋の光を見出したのが国家戦略特区というわけだ。
「国が規制を取り外してくれるのなら、その特区をバネにして地域活性化をしようじゃないかと仙北市長に言ったんですよ。そうしたら市長もノリノリになって賛同してくれました」
地元で作った安全な食材を使用して美味しく名物となる食べ物を作れば、多く観光客が消費してくれるだろう。そして帰路についた観光客のクチコミによって情報は拡散され、新たな観光客を呼び、リピーターも増加するはずで、さらに通販の可能性も見えてくる。
規制改革がきっかけとなり、食を軸に地域が一体となってさらに観光産業を盛り上げようという構図は、国家戦略特区がイメージする新しいビジネスチャンスの獲得と消費の拡大が見て取れる実にいい例だ。
そして、仙北市から提案された「国有林野の民間開放」は、国家戦略特区ワーキンググループで検討され、農林水産省との折衝を経て、実現に向けて動きつつある。
仙北市は、これに加えて「外国人も含めた、温泉活用・湯治型の医療ツーリズム推進」、「食のトータルプラン(食農林観連携)の推進」、「医療・観光拠点開発のための公共施設・交通などの改革」の3つの柱を掲げた「医療・農業ツーリズム特区」を提案しており、国家戦略特区ワーキンググループで検討・協議されている。
また、すでに企業が「農業」や「食」を基点としたビジネス展開をはじめているという情報もある。さっそく仙北市長を直撃取材し、引き続き仙北市の国家戦略特区構想についてレポートしていきたい。
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