労働者派遣法改正について

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【原英史・株式会社政策工房 代表取締役社長】 

 労働者派遣法改正案が、今臨時国会での争点のひとつとなりつつある。民主党やマスコミなどからは、この改正案は、派遣を使いやすくしようとするビジネス側の要望に沿った「規制緩和」であり、非正規雇用の拡大につながるのでないかとの指摘がなされている。

 

 
 だが、今回の改正案の内容をみると、一言でいえばルールの明確化。従来の「古びて複雑で不明瞭な制度」を、明確にわかりやすくしようというものだ。必ずしも「規制緩和」の面だけではなく、「規制強化」の面も含まれている、というのが本当のところだ。

 
 従来の制度では、「専門26業種」(事務用機器操作、秘書、通訳など)と「それ以外の業種」が峻別され、それぞれの適用ルールがわけられていた。

・「専門26業種」では、派遣受入れ期間の制限なし、

・「それ以外の業種」では、業務単位で原則1年・例外3年の期間制限がかかっていた。

 
 ただ、これに対しては、かねてより、専門26業種にあたるのかどうか、専門業務以外の付随業務まで処理した場合にどうなるのかなどの面で、ルールが不明瞭でわかりにくいとの指摘がなされていた。そもそも、「事務用機器操作」などが専門的で特殊な業務・・といった捉え方自体、時代に合わない古びたルールになっている面もあった。

 

 
 今回の改正では、こうした区分を改め、「専門26業種」か「それ以外の業種」かを問わず、

・個人単位: 同じ派遣労働者が同じ派遣先で働く期間の上限は三年まで、

・事業所単位: 同じ事業所における派遣の継続的な受け入れは三年まで、ただし、過半数組合等からの意見聴取をしたうえで延長可能、

というルールを設定しようというものだ。

 
 これは、現行制度の不備に対応した「制度の手直し」としては合理的な改善と評価してよいと考えられる。あえて「規制緩和」か「規制強化」かといえば、

・「専門26業種以外の業種」では、受入れ期間の延長(一定の要件のもとで)が可能になるが、

・「専門26業種」については、むしろ新たに期間制限が課される「規制強化」、という両面が含まれている。

 

 臨時国会では、「この改正で派遣労働者が増えるのか」を野党議員が何度も問いただし(10月3日衆議院予算委員会など)、この点を争点化していこうとしているようだが、こうした改正内容を考えれば、あまり実りある質疑とは考えられない。

 
 むしろ議論すべきは、今回の「制度の手直し」の先のステップとして、「非正規雇用をどうするのか」という根本問題にどう対応するかだろう。

 
 非正規労働者がいわゆる正社員と比べ、厳しく不安定な状況に置かれており、これを何とかしなければならないことは間違いない。問題は、どう解決策を提示するかだ。

 
 第一の道筋は、非正規労働という働き方を否定し、労働者をみな正社員にしていこうという方向性だ。民主党政権下でなされた制度改正は、基本的にこうした発想にたつものが多くみられた。

 
 しかし、この道筋には、以下の問題がある。

・まず、非正規労働者は、みなが「正社員になりたい」と希望しているわけではなく、自ら望んで非正規を選択している労働者も相当程度存在する(比率には議論があるが、衆議院予算委員会でのやりとりによれば、政府見解では約半分、民主党見解では4割)。

・また、全員を正社員にしようというのは、一見雇用環境を改善する取組のように見えるが、現実には、多くの人々の仕事を奪いかねない(極端なケースとして、非正規労働を全面禁止した場合、すべての非正規労働者が正社員になるとは考えられず、相当数の労働者が完全に仕事を失うことになる)。

 
 そこで考えられる第二の道筋が、多様な働き方は認めつつ、ただし、非正規と正社員の待遇格差を解消する、すなわち「同一労働同一賃金」を徹底していくということだ。

 
 欧州などでは、「同一労働同一賃金」の原則は一般にルール化されているが、我が国では、非正規と正社員に格差があることが当たり前のようになっている。こちらを解決していくことを目指すべきではないか。

 

 
 付言すれば、非正規と正社員の格差問題は、企業だけの問題ではない。雇用政策を担う厚生労働省を含め、中央官庁にも同じ問題がある。

 
 例えば、厚生労働省のホームページには「非常勤職員採用等」の案内ページがあり、一般行政事務補助・秘書業務につき日当7千円~1万円程度、といった条件で募集がなされている。この条件は、言うまでもなく、身分保障と人事院勧告で守られた一般職公務員(正社員に相当する)とは全く異なる。

http://www.mhlw.go.jp/general/saiyo/hijoukin.html

 
 非正規雇用をどうするのか、「同一労働同一賃金」を目指すのか。まずは官庁自らが範を示すことも含め、問題解決が必要だ。

 国会では、こうした根本的な問題解決に向けた議論が望まれる。

 

 

 

 

2、一方で、残っている課題も。

・基本は、「同一労働同一賃金」を徹底し、働き方を制約する規制は外していくべき。

・「非正規を禁止して、みな正社員に」より、「多様な働き方を認める」+「非正規を差別的に扱うことの禁止」によるべき。

・労働市場の流動性を高める観点でも、多様な働き方の容認は重要。誰も「正社員になりたがっている」という前提は間違い(半数程度)。

・「日雇い派遣禁止」も残された課題

 

○派遣労働者数 130万人(今年3月発表データ)

 非正規

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