サーストン・ムーア『ザ・ベスト・デイ』インタビュー

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このインタヴューは、去る5月31日/6月1日に開催されたTAICOCLUB’14に出演のため来日した際に行われた。その時点で今回のニュー・アルバム『ザ・ベスト・デイ』の音源は聴けておらず、よっていわゆるプロモーション・インタヴュー的な内容とは異なることをご了承いただきたい。

話題は主に、ニューヨークを離れて現在暮らすロンドンでの生活と、相変わらずワーカホリックな創作の近況について。しかし、話の流れで触れた前作のソロ・アルバム『デモリッシュド・ソウツ』について、当時の状況を赤裸々に語るムーアの言葉からは、今回の新作が生まれた必然的な背景が浮かび上がってきて興味深い。

「次のアルバムは、新しい人生についてだったり、ポジティヴな感情や、新しい愛について、前向きな気持ちが表れている」。マイ・ブラッディ・ヴァレンタインのメンバーを含む新たなバンド編成で制作された『ザ・ベスト・デイ』は、30余年のキャリアを誇るムーアに訪れた、まさしく“新章”にふさわしい作品だろう。

――この秋に新しいソロ・アルバムをリリースされるとのことですが、現時点で聴けない状況ですし、今回のインタヴューはリリース・タイミングではないので、少し近作についても振り返りつつ、いろいろと話を伺えたらと思っています。

サーストン:わかったよ

――それで、一昨年のチェルシー・ライト・ムーヴィング名義のアルバム以降は、ジョン・ゾーンやローレン・マザケイン・コーナーズとの共演盤、あるいはブラック・メタル・バンドのトワイライトに参加したアルバムなどリリースされてきましたが、現在の創作に対するモチヴェーションはどんな具合なんでしょうか?

サーストン:そうだね、うん、いい感じだと思うよ。昔から、手が何本もあるんじゃないかってくらい(笑)。ヒマでダラダラするのが苦手でね。いつでもクリエイティヴな状態でいたい……しかも、いろんなことに興味があるし。ただ自分の曲だけに集中してるだけで満足っていうんでもないし、実際、コラボレーションするのも好きだしね。

何しろ大のフリー・インプロヴィゼーション好きなもんでね……音楽に関しては、即興の世界の住人というか、自分の音楽スタイルの核にあるのがフリー・インプロヴィゼーションで、その歴史的な成り立ちにも興味があるし、関わっているミュージシャンにも興味があるし。そもそも突発的に生まれた音に対して、どのようにアプローチして、いかに表現のレベルまで高めていくかっていうのは、自分が一生追いかけていくテーマなんだろうね。

ただの気まぐれや遊び半分でフリー・インプロヴィゼーションをやってるんじゃないし、実際、ものすごく真摯に向き合ってはいるけど、あくまでも自分なりにであって、即興だけを専門にやってる人達ともまた違ってて……自分は即興以外にも、ポップやロックにも興味があって、それもまた自分の音楽の中核をなすものだったり。あるいは、詩や文学にも興味があって、夏には詩の創作クラスの講師をやったりね。

アレン・ギンズバーグが1974年にコロラドのボールダーに設立した施設があって、そこで詩の講師をやらせてもらう機会に恵まれてさ。だから、文学も自分にとっては大事だし……ポスト・ウォー以降の詩の研究もそうだし、実際、自分でも詩を書いてるし。それだけでも集中してやると、結構な大仕事になるからさ.

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――とても充実されているようですね。

サーストン:そうやって様々な分野で活動する機会に恵まれて、そうした機会を最大限に利用させてもらってる。たとえ望んでたとしても、なかなかこういう機会に恵まれない人達のほうが多いんだろうし。だから、自分が今こういう機会に恵まれたのも、何かの縁だろうと思って、ありがたく仕事させてもらってるよ。

まあ、1年くらい誰にも気づかれずにパリかどこかに雲隠れしたいと思ってても、顔が知られてる身なんで完全にフリーってわけにもいかないだろうし、常に何かしらしてたいタイプだからね。ただ、自分ではそんなに忙しくしてるって感じもしないんだけど……政治家なんかと比べたらさ(笑)。政治家なんかのほうがよっぽど忙しいって(笑)。ごめん(笑)、やけに長い答えになっちゃったけど(笑)

――(笑)それこそニューヨークにいた頃は、よく若手のバンドのライヴを観に行ったりとかされていたと思うんですが、現在住まれているロンドンでも、そういう機会はひんぱんにある感じですか?

サーストン:いや、前ほど若手のバンドのライヴを観に行くことはないかな。なぜかというと……自分がライヴに求める音楽体験っていうのが変化してきたこともあって。同じ即興音楽でも、より実験的な要素の強いものだったり、作曲家による音楽だったり、ノイズ・ミュージックのほうに今は惹かれるんだよね。

ロックンロール・バンドに関しては、興味はあるんだけど、実際にライヴに行くと、最近はどうもバツが悪いというか。それは55歳という年齢のせいでなくて(笑)、自分がソニック・ユースのメンバーとして顔が割れてるからで、プライベートまで土足で踏み込まれるとね。ただ普通にしてるだけなのに驚かれたりして(笑)、そういうのにうんざりしてるところもあるし。

だから、最近は地味なクラブで、あんまり有名でないバンドを観てることのほうが多い。あくまでも自分のプライベートな楽しみとしてライヴを観ていたいから。ただまあ、大抵の人はそっとしといてくれるけど、酔っぱらいとか、一番面倒臭そうだなって思う奴に限って話しかけてくるんだよ(笑)。

幸い、今の時代はYouTubeだの何だので気軽にライヴの様子がチェックできることもあるし。ブルックリン出身のバンドでロンドンにしょっちゅうライヴに来てるバンドでParqete Courteってバンドなんかいいよ。

ただ、いざライヴに行くとなると、覚悟がなあ……まわりからジロジロ見られたりするからさ。こないだもスワンズのライヴに行って。スワンズは古くからの友人だし、自分も昔スワンズで演奏してたことがあったくらいだし。ただ、会場があまりにもお客さんでいっぱいで、落ち着かなくなってさ。そしたら案の定、トイレに行く途中、若い奴が興奮して話しかけてきた上に、キスまでしてきてさ(笑)。そんなんで、最近はライヴから足が遠のいちゃってるんだよ(笑)

――なるほど(笑)。

サーストン:あ、でも、ロンドン出身のTrash Kidsっていう3人組の女の子はおすすめだ。今は観たいバンドがいたら、自分がライヴをやるときに呼ぶほうが多いけどね。それなら安心して観れるから。

――そういえば最近、イギー・ポップやニック・ケイヴと共演したガン・クラブのカヴァー“Nobody’s City”が公開されましたけど、これはどういう経緯で?

サーストン:ニック・ケイヴ&バッドシーズでドラムをやってるジム・スクラノヴスが、今は亡き(ガン・クラブの)ジェフリー・リー・ピアーズのトリュビュート・アルバムを仕切ってた縁でね。いろんなミュージシャンに声をかけてカヴァー曲をやろうってことで、自分のとこにもギターを弾かないかっていう連絡があったんだ。

ジムが今住んでいるロンドンのスタジオで……ジムとはニューヨーク時代からの付き合いで、それこそ70年代にジムがティーンエイジ・ジーザス&ザ・ジャークスでベースを弾いてたときからの知り合いなんだ。ソニック・ユースのセカンドの『コンフュージョン・イズ・セックス』でもドラムを叩いてくれてるし、今はバッドシーズのドラマーとして活動してて、奥さんとロンドンに住んでてさ。

とにかくまあ、2人ともジェフリーと付き合いがあって、80年代なんかは頻繁に交流してたんだ。その縁で自分もギターを弾かせてもらってるんだけど、基本的にテープで録音してるんだよね。

――顔を合わせてどうこう、って感じではなかったんですね。

サーストン:ニックとイギーは隣の部屋でどんちゃん歌ったり騒いだりしてたのかもしれないけど(笑)、自分は残念ながらその場にはいなかった。ただ、同じ曲に参加してるだけで、3人でつるんで酔っぱらってヘロインきめてっていう感じではなかったよ(笑)。酒やドラッグで相当イっちゃってる中で、さぞかしクレイジーなロックンロールを鳴らしてたんだろうって想像してたかもしれないけど、そんなことは決してなく(笑)、スタジオで普通におとなしくレコーディングしてただけだよ(笑)

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――それで、ここで3年前のソロ・アルバム『デモリッシュド・ソウツ』について話を伺えますか? あのアルバムは、アコースティックなスタイルにフォーカスされたサウンドや、その制作の背景や状況も含めて、これまでのあなたの膨大な量のディスコグラフィの中でも特殊な位置づけの作品だったと思うのですが。あらためて振り返ってみて、あのアルバムは当時のあなたのどんな部分を捉えて映し出された作品だったと思いますか?

サーストン:『デモリッシュド・ソウツ』は、とにかくつらかったというか……世界で一番美しいマリブにあるベックのホーム・スタジオで……若き天才と一緒にレコーディングする機会に恵まれて、しかもベックのホーム・スタジオで、キッチンではベックの子供が走り回ってるっていう、絵に描いたような幸せな中にいるのに、自分の人生はボロボロっていう状態で……キム(・ゴードン)と別れたばかりで精神的にも追いつめられてたし、失意のどん底の中から、自分がまさに経験している状態について曲にしたためていったという。

感情的にものすごくギリギリの状態というか、12弦のギターだけで大半の曲を書き上げてね。だからまあ、本当に、精神的にも感情的にもつらい時期だったよね……アルバムのタイトルを『デモリッシュド・ソウツ』にしたのも、まさに当時の自分の精神状態を表しているというか(笑)、とにかくもう病んでいて、自分なんて壊れてなくなってしまいたいという願望が表れてる(笑)。

タイトル自体は、実際、ワシントンDCのハードコア・バンドのザ・フェイスの曲から取ったものなんだ。マイナー・スレットとフガジのイアン・マッケイの弟がやってるバンドでね。だからまあ、深い悲しみの中で作った作品であって……ただひたすら、あのアルバムの音楽に集中することで気を紛らわしていたというか……しかもベックがそのへんのところをものすごく繊細にくみ取ってくれてね。

だから、あのアルバムを振り返って聴くのはいまだにつらいんだ……ただ、作品を作ったことに対して、すごく誇りに思っている。アーティストの自分にとって重要な記録であるし……ただまあ、そこから先に進めて、ホッとしているけどね。次のアルバムは、新しい人生についてだったり、ポジティヴな感情や、新しい愛について、前向きな気持ちが表れている。それで『The Best Day』っていうタイトルがついてるんだ。

――あのアルバムを作れたことで自分が変わった、という感覚はありますか?

サーストン「そうだなあ……それを目的にしてたわけじゃないけど、結果的にあのアルバムを作ることで自分が癒されたってことはあるだろうね。ただ、アルバムを作ってる最中はそんなこと一切考える余裕なんてなくて、ただひたすら音楽に打ち込むことでその場を凌ぐというか、そこで作ってる音楽が自分がそのとき経験してることをそのまま映し出している。ただ、自分の気持ちが癒されることを目的として作ったんじゃなくて、ただクリエイティヴな状態に身を置いていたかった。それが結果的に、自分を癒すことに繋がってたって感じだよね」

――わかりました。で、その『デモリッシュド・ソウツ』に続く新しいソロ・アルバム(『ザ・ベスト・デイ』)がこの秋にリリースされるわけですが、現時点で新曲として公開された“Detonation”を聴いて、いわゆるバンド録音のサウンドでもチェルシー・ライト・ムーヴィング名義のそれとはテイストが違う印象を受けました。話せる範囲で構わないので、新しいアルバムについて教えてくれますか?

サーストン:アルバムの中に入ってる曲の大半はソニック・ユースのスティーヴ・シェリーと、ロンドン在住のジェームス・エドワードってギタリストと、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインのデビー・グッギで作ってて、それ以外ではまだ誰にも聴かせてないんだけど、作業自体はすでに完成してるんだ。自分名義で出す、初めての正式なソロ・アルバムって感じになるのかな……ツアーも今言ったメンバーで廻ることになると思う……どれだけ続られるのかわからないけどね(笑)

――サウンド的にはどんな感じですか?

サーストン:まあ、ソニック・ユースから一皮むけたかな……ソニック・ユースよりもシリアスなんだけど、同時にアクセスしやすい感じかな。

――では、もう会場行きのバスの出発時間が迫っているということなので(笑)、最後の質問になります。今現在、ソニック・ユースの今後の活動についてあなたがどう考えているのか、率直なところを伺いたいのですけど。

サーストン:自分の中ではいまだに健在というか、『デイドリーム・ネイション』の再発とかもそうだし、いろいろと細かなリリースが予定されてるしね。他にも作りかけの作品もあったり……結局、バンドがこの先どうなっていくかなんて誰にもわからないわけであってさ。

ソニック・ユースは解散したって正式に発表したわけでもないし、ただ、しばらくは距離を置く必要があるっていう……お互いの関係のために今は距離を置く時期なんだっていう、それだけのことだよ。

ソニック・ユースって、自分にとっては家族以外で、自分の人生を決定づけるもので、それこそ20年代前半にソニック・ユースを始めて今は50代になるから、大人になってからの人生の大半をソニック・ユースとして過ごしてたことになる。ソニック・ユースのバンドの何がすごいかって……何て言うかな……徹底的に民主主義というか、すべてにおいて民主主義の姿勢が貫かれている。これまでソニック・ユース名義で出したすべての曲にしろ作品にしろ、決して誰か一人によるものじゃなくて、あくまでもソニック・ユースの作品なんだ。

ソニック・ユースにおいては、分担作業ってものが存在しないというか、常に共同体として作業していく……まさに共同体って感じだよね、バンドが一つの集合体でありチームというかさ。メンバーの誰かが持ち寄ったアイディアなり曲なりを、ソニック・ユースという共通の叩き台に乗せることで、全体として形になっていく……そこに、あのバンドの主義なりスタンスが貫かれていたと思う。

しかも、いろんな音楽なりアイディアが構成要素としてあってさ。パンク・ロック以外にも、ジョン・ケージなんかの前衛音楽や、マイナーな音楽だったり、世界各国のフォーク・ミュージックだったり、いろんな音楽なりインスピレーションが織りなされたところに、一つのプロジェクトとして完成してるという……そんな感じのイメージかな。それと決して売れるためになびいたことがないっていう……その姿勢が大いに買われてるのかもね(笑)

――まさか2014年にスワンズが新作を出して、ソニック・ユースが活動を休止しているなんて、想像もしてなかったですよ(笑)。

サーストン:たしかに(笑)。ただ、スワンズは結局、マイケル・ギラのソロだからね。ソニック・ユースは4人の集合体だからね。

撮影 中野修也/photo  Shuya Nakano
文 天井潤之介/text  Junnosuke Amai

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サーストン・ムーア『ザ・ベスト・デイ』
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https://itunes.apple.com/jp/album/the-best-day/id908924822

サーストン・ムーア
ニルヴァーナやダイナソーJrと並びUSオルタナ黄金時代を代表するバンド、ソニック・ユースのフロントマンとして83~11年の間に通算16枚の公式スタジオ・アルバムを発表。ソロで3枚のスタジオ・アルバムと多数のセッション/実験作を発表。12年11月に開催した第3回ホステス・クラブ・ウィークエンダーではヘッドライナーを務めた。13年に新バンド、チェルシー・ライト・ムーヴィングを結成しアルバムを発表。2014年10月、ソロとしては3年半振りとなるアルバム『ザ・ベスト・デイ』をリリース。

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