PC遠隔操作事件:マスコミがあえて触れない「事件の真相」(音楽家・作家 八木啓代)

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PC遠隔操作事件:マスコミがあえて触れない「事件の真相」(音楽家・作家 八木啓代)

今回は八木啓代さんのブログ『八木啓代のひとりごと』からご寄稿いただきました。
※この記事は2014年05月28日に書かれたものです。

PC遠隔操作事件:マスコミがあえて触れない「事件の真相」(音楽家・作家 八木啓代)

ここ数日、雑用も含め仕事に追われていたこともあるが、もしかして、どこか大手メディアで一社でも、まともな報道をするところがあるかどうかを見ていた。
残念なことに、見事なほどなかったどころか、誤報を通り越して、むしろ、捏造に近い記事まで出ている有様なので、やはり書かねばなるまい。

さて、まず、誰しもが不思議に思うのは、片山氏が真犯人であるとして、この真犯人は、

(1)1年もの間、全面否認を続けただけではなく、弁護団を騙し通した。言うまでもなく、この弁護団は、「人を見る目がない新人弁護士」ではなく、足利事件を扱った佐藤博史弁護士や、東電OL殺害事件に関わった木谷元裁判官も含む、「人を見るということにかけては大ベテラン」の方たちである。いわゆる「人を信じやすいピュアな人が詐欺にひっかかった」、というようなレベルの話ではないのは明らかだ。(というか、そう思っている人がいたら、相当な世間知らずであろう)

(2)では、なぜ、海千山千の弁護団が、自信を持って片山氏冤罪を信じたか。

刑事弁護人である以上、原則として、被疑者の主張を信用するという立ち位置もあるが、それ以上に、この件に関しては、一年に及ぶ片山氏の主張に、通常、犯人であるならどこかに生じる齟齬や矛盾がなかっただけではなく、本当に犯人であるなら、「監視カメラに猫に首輪をつける瞬間が映っていた」「携帯から猫の写真が復元できた」といった「誰が見ても決定的証拠と思われる」報道に対して、動揺するどころか、自信を持って否認を続けたというところにある。
そして、実際に、公判前の検察の証拠開示において、そのような「決定的な証拠」はまったくなかった。つまり、「監視カメラに猫に首輪をつける瞬間が映っていた」「携帯から猫の写真が復元できた」といった「誰が見ても決定的証拠がある」系報道は、すべて「誤報」、もしくは、「検察のデマリーク」に基づいた報道であった。

一方で、後に、片山氏は「自分はサイコパスである」と佐藤弁護士に語った。それも、「真犯人の人格が出ているときは、平気でどんな嘘でもつける」「完璧な演技も自然にできてしまう」「その真犯人人格が出て切るときは、自分でもコントロールできない」と説明しているそうだ。

いわゆる「片方の人格が出ているときは、もう一つの人格にはその記憶がない」といわれる典型的な多重人格ではないようだが、実際に、以前にも、解離性人格障害の診断を受けたことがあったのだそうだ。

佐藤弁護士は、改めて、今回、裁判所に片山氏の精神鑑定を依頼しようとしているが、それは、精神障害をもって、片山氏に責任能力がないことを主張するためではなく、あくまで事件の真相を解明したいからであるし、片山氏も精神鑑定をもって無罪主張や減刑を求めるつもりはないそうだ。(この点について、デマ報道をしているメディアがあるので注意)

(3)次にIT系の話になる。

検察は片山氏をウイルス作成罪で立件しなかった。すなわち、「FBIとの捜査協力で明らかになった、Dropboxの中に、片山氏がウイルスを作成していた痕跡」というのもデマリークだったことが、公判前に明らかになった。

さらに、公判になって、検察のIT関係の主な主張は「片山氏にC#が使えた可能性がある」というものが主だった。むろんこれには証拠はないし、仮に多少使えたところで、それが犯人である動かぬ証拠、というのは無理がある。だから、そもそも、検察は、ウイルス作成罪では立件できなかったのである。

そこで、検察が固執していたのは、片山氏の勤務先のパソコンの「ファイルスラック領域に痕跡がある」というものだった。これを「最大の証拠」としようとしていたのだが、この主張には、実は、どう考えても無理があった。

つまり、もし、片山氏のバソコン(正確には、勤務先のパソコン)が、乗っ取られて、さらに遠隔操作されていたとする。
その場合、原理的には、「ABC」と書いたファイルに「AB」で上書保存すればスラックには「C」が残る。特定のスラック領域に「C」と(OS経由で)書き込むのは難しいけれど、犯人の行為としては、どこに「C」を残してもOKだったわけだから、これは簡単なわけだ。
というか、単に「痕跡と認められるもの」さえあればいいのであれば、真犯人が開発していた環境をまるっと片山氏のパソコンにコピーして、それを消してしまえば、あっさり検察の主張している状態になる。すなわち、真犯人が「iesys.exeを作った環境」を持って来て、それを全部消すだけで、検察の主張している「ファイルスラック領域に痕跡がある」状態にできてしまうわけだ。

つまり、ITのプロが見れば、こんなの証拠でも何でもないわけで、相手が、ITに無知な裁判官であり、かつ、弁護人にもプロのアドバイザーがいなければ、騙し通せるかもしれない、というレベルの主張にしかすぎなかった。

これからIT犯罪が増加するのは目に見えているだろうに、こんな無茶苦茶な根拠で、人が有罪にされては、今後、大変なことになる。
それが、私と「当会協力者のITのプロ中のプロであるホワイトハッカーの皆様たち」の危惧であって、それだからこそ、ハッカソンを企画して、「検察のこの主張は無理がありすぎ」なことを実証しようとしたわけだ。

この点について、「片山氏のパソコンが遠隔操作されていたなら、それはそれで、その痕跡が残るはずではないのか」という疑問をお持ちの方もあろうが、それも含めて、「いや、いろいろ『紛れ込ませる方法』とかあるんですよ」とかいうハッカーさんもいらっしゃったりしたので、そういったことも含めて、実験は必要であると考えたわけ。

(逆に言えば、『紛れ込ませる方法』も含めて、高度な技術を持つハッカーさんの手口を検証したうえで、問題のパソコンのアクセスログデータを改めて解析すれば、「遠隔操作されていなかった」ことを立証できたかもしれなかったわけで、私たちとしては、警察なり検察には、どうせなら、それぐらいのレベルの、皆が納得できる立証をしてほしかったわけだ)

では、検察が、もっと別の、まともな証拠をなぜ出せなかったのか。
おそらく、本当に、彼らは見つけられなかったのだと思う。
某有名セキュリティ社が検察側の証人になっていたが、あくまで言えたのは、「片山氏に作れる可能性がある」ということだけだった。しかしこんなものはあくまで「悪魔の証明」に過ぎず、「作れる可能性がある」=「犯人」とはいえない。
実際には、検察に協力していた、この某社の方も、ファイルスラック主張の致命的な欠陥に気づいていなかったわけはないのだが、実際に、それ以外に「片山氏が犯人である根拠」を、なにも見つけられなかったのだろう。

「片山氏でもeisys.exeを作れたはずだから、犯人でもおかしくない」とかいうコメントをつけている人がいたが、「作れるかもしれない」=「犯人」ではないし、「犯人でもおかしくない」というのは、心証としてブログに書くレベルなら何の問題もないが、それを理由に裁判で有罪というのは、まともな司法のあり方ではない。

ある意味、この検察の主張は、IT関係者に「サイバー警察とか検察の実力ってこの程度」みたいなことを晒すことになってしまったといえる。残念であるとともに、今後を危惧する。

(4)さらに、片山氏には、無実のかなり有力な証拠が出てきていた。つまり、猫の首輪につけたセロテープからは別人のDNAが検出されたのである。(このトリックについては真犯人メールで説明されている)

刑事弁護士であるなら、刑事被告人が無実を主張している限り、いくら怪しくても、それに沿って、被告人の主張を代弁するのが仕事である(それが嫌なら辞任する)、という刑事弁護士としての「あるべき役割」は別としても、これだけの事実が揃っていれば、弁護団が片山氏の無実を信じたのはむしろ、まっとうであり、それを騙されたと責めるのは筋違いだ。

また、江川紹子氏は、「このまま裁判が続いていたら、(IT関係の証拠などで)片山氏は有罪になっただろう」と書かれているが、それも違う。IT方面での検察の立証は無茶苦茶だった。むしろ、あの証拠で、有罪になっていたとしたら、そちらの方が問題だった。

(5)さて、ここからが本題だ。

真犯人、片山氏は、狡猾極まりないトリックを使っていた。
すなわち、先にも書いた、無実のかなり有力な証拠であった「猫の首輪につけたセロテープの別人のDNA」はトリックだった。このことは、彼が「真犯人メール*1」で自分でそのネタばらしを書いてしまったことで明らかになった。

*1:「自称真犯人からのメール(本日午前11時37分に送付されてきた)」 2014年05月16日 『弁護士 落合洋司(東京弁護士会)の「日々是好日」』
http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20140516

では、佐藤弁護士が、片山氏に聴き取りを行った結果わかったことだが、なぜ彼は、自信を持って、否認を続けることができたのか。

それは唖然とするような理由だった。
つまり、真犯人であったからこそ、片山氏は、「携帯から猫の写真が復元できた」などということがあり得ない、つまり、これがデマ報道であることを知っていたのだ。
となると、なぜ、このようなデマ報道がなされるのか。当然、検察が片山犯人説を強めるためにデマリークをしているわけだが、本当に「堅い」証拠があるなら、こんなデマを流す必要はない。となると、他の「犯人確定」報道もすべてデマではないのか?
であれば、決定的な証拠など、本当は、何ひとつないことになる。
それが、彼の「自信を持って否認を続けられる根拠」だった。

もちろん、彼が真犯人である以上、監視カメラに「猫に首輪をつける決定的な映像」がある可能性もあった。しかし、検察で最初に取り調べがあったとき、検察官が「江ノ島に行ったかどうか」を訊ね、片山氏はもちろんそのこと自体は認めたわけだが、それ以上、なにも突っ込まれなかった。いわんや、証拠の映像(もしあったら、本当に動かぬ証拠だ)を突きつけられることもなかった。そこで、彼は、監視カメラの決定的な映像も存在していないのだと確信したという。
だとすれば、検察の主張はすべてデマであり、公判は自分に有利になる、彼はそう踏んだ。
つまり、検察のデマリークとそれに乗ったマスコミの誤報が、もっとも真犯人を利していたのだ。

このことは、佐藤弁護士が5月22日の記者会見で詳細に述べたことであり、特に誤報(というか検察のデマリーク垂れ流し)を連発していた新聞社については、実名を出しての批判もされていた。

しかし、その最も重要な(そして、マスコミ各社には不都合な)事実を報じた社は一社もない。この事件の報道に関しての検証記事を書いたところもない。それどころか、この記者会見そのものについても、トンデモな、捏造報道が行われた。これはあとで書く。

(6)さて、そうだとして、まだ大きな疑問が残る。

私自身が、PC遠隔操作事件:河川敷のスマホにまつわるこれだけの謎*2で書いたことだが、その疑問のいくつかは、片山氏が佐藤弁護士に行った告白によって、かなり氷解しているので、ここで記す。

*2:「PC遠隔操作事件:河川敷のスマホにまつわるこれだけの謎」 2014年05月19日 『八木啓代のひとりごと』
http://nobuyoyagi.blog16.fc2.com/blog-entry-714.html

まず、問題のスマホは秋葉原で白ロムを購入し、SIMは、ある方がコメントしてくださっていた

「So-net、ついに日本の空港でプリペイドSIMの自動販売機」 2014年04月14日 『ASCII.jp×デジタル』
http://ascii.jp/elem/000/000/884/884763/

こんな買い方もできます。

だった。もっとも空港まで行ったわけではなく、現在、秋葉原で自販機で売られているそうだ。

彼はそれを入手し、一ヶ月かけて真犯人メールを書き、5月15日に埋め、16日の公判中に送られるようにセットした。真犯人メールに書かれていた「片山氏が一言一句記憶していないはずの『過去の真犯人メール』の文言」については、裁判の証拠開示の中で、彼がpdfファイルで入手していたので、それを書き写したのだそうだ。(このことは弁護人自体忘れていた)

それにしても、DNAがべったりついたスマホを河川敷に埋めたのは、いままで狡猾だった犯人にしては、杜撰すぎる行動と思った人が少なくないだろう。

興味深いのは、このメールに関して、受け取った落合弁護士は、「書きぶりがやや違う気がする」*3ことを第一印象としてツイートされている。

*3:「 落合洋司@yjochi」 『twitter』
https://twitter.com/yjochi/status/467154465020076032

それもそのはずで、片山氏によれば、それまでの一連の犯行を企て「謹賀新年メール」や「新春パズル~延長戦~」メールを書いた「真犯人人格」ではない方の、彼自身の人格が、この最後のメールを書き、河川敷に埋めたのだそうだ。

つまり、自分で、「真犯人人格だったら、こういうふうに書くだろうな」と想像しながら、できるだけ汚い言葉を使って真犯人メールを書き、そして、狡猾な真犯人ではない方の人格だったからこそ、それまで真犯人人格がやっていたように、携帯のDNAをきれいに拭き取り(できれば他人の指紋やDNAをつけるぐらいの小細工をして)埋めるというようなことを「思いつかなかった」。また、万一、それを見られていても、「携帯を埋めたのは自分だが、それは裁判を終わらせたかったからで、あくまで自分は犯人ではない」と主張できるようなトリックも弄せなかったということだ。

(もっというなら、もし、これを真犯人人格がやっていたら、そもそも河川敷みたいな、携帯の発信基地局から場所の特定が容易なところに埋めなかったのではないか。)
むろん、スマホを回収する気はなかった。

もちろん、片山氏自身に「虚言癖がある」というか、自身が認めているように、完璧に嘘がつける人ではあるので、彼の言うことを100%信じられるわけではないが、この件に関して、「真犯人の狡猾さ」と「DNA付きのスマホを河川敷に埋めた行為のお粗末さ」の違いについて、見事に説明がつくのは確かである。

そして、恐るべきなのは、本当は、この真犯人メールは、公判で、万一、彼が有罪になって収監されたら送るつもりだっていたのを、母親との対話の中で、早く裁判から解放されたいという気持ちから、こんなタイミングでやってしまったということだ。
つまり、片山氏の中の犯人人格がもっと強ければ、あやうく、完全犯罪は成立するところだったのである。

佐藤弁護士が記者会見で言っていた、「天が見ていた」というのはそういうことである。

(7)もうひとつ。警察の行確(行動確認=いわゆる尾行)の問題がある。

すでに、いくつかの社が、「警察の執念」などというヨイショ記事を出しているが、それどころか、ここにも、とんでもなく大きな問題がある。
もし本当に、警察官が片山氏がスマホを埋めた瞬間を目撃していたのであれば、すぐにそこを調べればいいことなのである。彼は保釈中なので、証拠隠滅の現行犯逮捕だって可能だ。であれば、事件は15日のうちに解決していた。

さらなる問題は、16日公判中に真犯人メールが送られ、あわてて、前日に、該当するあたりで不審な行動があった報告を思い出して河原を掘り返し、スマホを発見したのであれば、その段階で、すみやかに、弁護士を通じて片山氏の任意出頭を求め、それに応じなければ逮捕すればいいはずである。
にもかかわらず、19日に、先にマスコミにリーク情報が流れ、片山氏は逃亡した。

片山氏が真犯人なら、逃亡する可能性があることは、バカでもわかることだ。むろん、泳がせたわけではない。その必要もない。
このもっとも肝心な日、警察は片山氏には行確をつけていなかった。(報道していないだけで、実はつけていたかもしれません、とかいう想像系コメントは止めてもらいたい。つけていなかったことは確認済みだ)

片山氏は、都内の公園で自殺を図ったが、ベルトのバックルが外れて自殺に失敗し、高尾山を彷徨ったが死にきれず、京王線で飛び込み自殺を図ろうとして、その前に佐藤弁護士に告白の電話をして、佐藤弁護士の必死の説得を受けた。
前にも書いたが、もし、片山氏が自殺に失敗していなかったら、事件の真相は永久にわからないままだった。
それを考えると、19日にスマホの件について片山氏の身柄を確保する前に、マスコミにリークしてしまったのみならず、身柄確保ができなかったのは、「警察の執念の捜査が実った」どころか、「あんたら、どこまで間抜けなの」という話にしかならない。

いずれ裁判で明らかになるとは思うが、警察官がスマホを埋めたのを目撃したというのも、私は信用できないと考えている。遠くから行確していただけではないか。公判で、片山氏が猫を抱いているところが映っているだけの映像を「猫に首輪をつけている映像」と強弁し、失笑を買ったのと同じで、あとになって、しゃがんでいるだけの姿を「地面に何かを埋めるような仕草」というのは簡単だ。真犯人メールから送られた基地局を特定し、その付近に片山氏がいた形跡があったことから、あわてて、掘り返しただけではないのか?

ちなみに、片山氏には、この携帯の基地局を偽装するプログラムを使うほどのIT能力はなかった。それをやられていたら、果たしてどうだったのか。これも微妙な問題である。

(8)いずれにしても、片山氏が一番恐れていたのは、検察ではなく、実は弁護団だったそうだ。
なぜ、検察が怖くなかったかという理由は上述の通り。なめきられてたわけだ。
むしろ、IT専門家まで入れた弁護団を片山氏はもっとも警戒していた。ぶっちゃけ言うと、特別弁護人のN氏である。

で、22日の記者会見のあと、この特別弁護人のN氏とおごちゃんことITのプロ中のプロである生越氏(自称:PC遠隔操作事件に日本で3番目に詳しいプログラマ)、日本報道検証機構の方と一緒に、裁判所の地下でお昼ご飯を食べたのだが、ここで、また濃ゆい話になった。

つまり、片山氏が真犯人であったとしても、前述の通り、検察のファイルスラックに関する主張は、ITのプロから見れば、到底、証拠にはならないような見当外れな話だった。要するに「裁判官の無知を利用して騙せるかどうか」というレベルのもので、そんな証拠で有罪立証しようとしたことが問題であることは言うまでもない。

今回、弁護側は、IT犯罪であることから、ITのプロであるN氏を特別弁護人として認めてもらったわけだが、今後、明らかにサイバー犯罪が増えてくることを考えると、「素人なら騙せるレベルのもっともらしい理屈ときれいに作ったパワポで、ITに詳しくない裁判官を騙して、有罪を取る」などという手法はあってはならないわけで、裁判官も、こういった事件の場合、検察からも弁護側も独立した、ITの専門家をアドバイザーとして入れるような制度が、絶対に必要だろう。

そして、ここで濃い人たちが、「ほんとはこの部分を検察が、(捜査権限で開示させて)ちゃんと調べていれば、もしかしたら、もっと早くに片山氏が犯人であることが立証できたのじゃないか」みたいな技術的な話をしていたのだが、そこで、ちょうど喫茶店のテレビが、直前の記者会見の報道を始めたのを見て、一同、口をあんぐり開ける事態が起こった。

記者会見で、佐藤弁護士が、一瞬、涙を見せた瞬間に、ここぞとばかりにシャッター音が響いたのは気づいていたが、それは「佐藤弁護士が騙されていたことを反省していた」わけではない。

佐藤弁護士は、片山氏が生きていてくれて良かった、そのことで真相が闇の中ということにならなくて良かった、と言った部分である。そして、佐藤弁護士は、この記者会見では、一貫して、自分たち弁護団も片山氏に騙された最大の理由として、「検察のデマリークとそれに乗ったマスコミの誤報が、もっとも真犯人を利していた」事実と、このような事態を招いたマスコミに対して、反省と報道の検証を訴えていたのだ。

それが、わずか30分も経たないうちに、映し出されたテレビのニュースでは、佐藤弁護士が涙を流して、騙されたことを反省しているかのようなトンデモ報道になっちまっているのである。

このあまりの捏造っぷりに、N氏、おごちゃん、日本報道検証機構のYさん、私は、目が点になってのけぞってしまったのだが、その後の報道も、検証どころか、その後も、ミスリードや捏造に近い記事が出ている。それについては、記者会見に一緒に出席していた生越氏のブログをご参照頂きたい。

「佐藤弁護士の「犯人は悪魔」発言について」 2014年05月25日 『おごちゃんの日記』
https://www.shortplug.jp/profile/ogochan/diaries/3402

(9)さて、私の立ち位置だが、ずっとかかわってきた(田代元検事の捏造報告書問題については、現在もかかわり続けている)陸山会事件において、別に小沢氏個人に興味があったわけでも、小沢氏個人を支援していたわけでもなく、検察がこんなことで「有罪を作り出す」ということを徹底して問題にしてきたことは、ある程度の期間、このブログを読んできた、まともな読解力のある人なら、わかっておられるだろうと思う。(そして、にもかかわらず、すごく頭の悪い人たちが「小沢擁護」とアホみたいなバッシングをしてきたという経緯があることもご存じのはずだ)

今回のPC遠隔操作事件についても、興味があった(というより、正確には、問題点を感じた)のは、検察の有罪立証に関わるやり方(特にデマリークによる情報操作)であって、片山氏個人にはまったく興味はなかった。

そういう意味において、デマリークによる情報操作が、単に「被疑者を犯人だという心証を一般に強めさせ、世論誘導して、そのことで被疑者を精神的に追い詰めたり、裁判を有利にしようとする」だけではなく、今回は、結果的に「被疑者を有利にしてしまっていた」こと、さらに、人質司法や可視化の拒否も、結果的には、真犯人を利することにしかなっていなかったという点で、やはり、検察には今までのやり方を改めてもらいたい、という気持ちが一層強くなったという点で、揺らぎはない。
今回、たまたま、「真犯人人格ではない方の(つまり、あんまり狡猾じゃない方の)片山人格」が大ポカをやったから、まぐれでなんとかなっただけで、あやうく完全犯罪は成立しかけていた。

これに関して、援護する者がいたからではないか、という、これまた見当外れきわまりない批判をしている人がいるが、援護する人がいようがいなかろうが、刑事裁判とは、そういったことで決まるべきものではない。あくまで証拠によって立証されるべきものである。(この場合の証拠とは、自白を含む直接証拠のほか、客観性のある状況証拠の積み重ねなどのことだ)
疑わしきは罰せずであり、その結果、真犯人を野に放つことになったとしても、冤罪を作るよりはマシであるというのが、近代の刑事司法の考え方であり、私の考え方である。

ましてや、検察には反感も憎しみもない。そもそも恨みもない。もともと私はミステリファンなので、検察にはちゃんとしてほしい、みっともないことはやめてほしい、個々の現場の検察官には敬意を持つが、法治主義や民主主義を踏みにじるようなことになってしまっている「組織としての問題」は、なんとか是正してもらいたいというのが一貫した主張である。

あ、それから、袴田事件での味噌樽ズボンは大昔の話であり、現代に証拠の捏造があり得ると考えるのは荒唐無稽と主張していた方には、こちらの記事*4でもどうぞ。味噌樽ズボンの件に関しても、見え見えの捏造証拠なのに検察はまだ否定し、再審請求にも全力で抵抗していたことも忘れてはならない。

*4:「和歌山カレー事件に新展開? 鑑定担当者「証拠捏造」で退職」 2012年12月26日 『dot.』
http://dot.asahi.com/wa/2012122500019.html

警察や検察が旧態依然のやり方をやっている限り、これから、いくらでも冤罪は起こりうるし、一方で、このITとネットの時代、片山氏以上に狡猾な犯人が出てくれば、完全犯罪が成立しうる可能性はより高くなるということだ。
それに備えるためにも、限りなく犯人のオウンゴールに近いような、まぐれ当たりを喜んで美談にしてしまうのではなく、今後、IT犯罪を裁判においてどう立証していくか、とりわけ裁判所自身がどう対応していくか、ということはもっと真剣に論議されるべきだと思う。
マスコミの問題は、言うまでもない。

しかし、それらはぜんぶ別にして、いままでまったく興味がなかった「片山祐輔」という人物に、まったく別の意味で、興味が出てきているのは否定できない。IT犯罪としてはくだらない結末だったとはいえ、サイコ的事件とすれば、この件は面白すぎる。騙されたとか騙されなかったとかいう低いレベルの話ではなく、個人的には、「真犯人人格」の片山氏と対談され、片山氏が否認を続けていた期間にも公判ですべてを見てこられた江川紹子さんに、人間の持ちうる心の闇の問題として書いて頂きたいものだ。

執筆: この記事は八木啓代さんのブログ『八木啓代のひとりごと』からご寄稿いただきました。

寄稿いただいた記事は2014年05月28日時点のものです。

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