「『キアズマ』は『サクリファイス』の別の形での表現」近藤史恵さんインタビュー(2)

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「『キアズマ』は『サクリファイス』の別の形での表現」近藤史恵さんインタビュー(2)
 出版界の最重要人物にフォーカスする『ベストセラーズインタビュー』!
 第51回目の今回は、新刊『キアズマ』(新潮社/刊)を刊行した近藤史恵さんです。
 『キアズマ』は人気シリーズ、「サクリファイス」シリーズの最新刊ですが、これまでの作品とは違い、舞台は大学の自転車部。作風も変わり、近藤作品の新しい魅力を感じることができます。
 この変化も含めて、『キアズマ』はどのように書きあげられたのか。近藤さんにお話を伺いました。今回はその第2回です。

■「『キアズマ』は『サクリファイス』の別の形での表現」
―それぞれに傷を持ち、葛藤している登場人物たちが、同じ部活で同じ競技に打ち込むことで衝突したり離れたりする様子は非常に読みごたえがありました。近藤さんはこの作品でどのようなことを描きたかったのでしょうか。

近藤「『サクリファイス』の頃から考えていることではあるのですが、“自分が勝たなくても、エースが勝てばいい”というロードレースの考え方は、レースに出ていない人がレースに出ている仲間に“あなたが勝てばいい”という風に気持ちを繋いでいくことにもなります。そうやって互いの気持ちが交差して、繋がっていくというのは『サクリファイス』からずっと書いていたことで、『キアズマ』で書いたことはそれの違う形での表現だと思っています。
レースでは力尽きて完走できない選手もいますが、だからといって負けたわけではなく、その選手が働いた結果を受け継いでエースが勝っていくんです。ロードレースで起きるそういうことを人生に置き換えてみたらどうなるのかな、というのはこの作品を書く時に考えました」

―最初はエースだった櫻井が、どんどん正樹に追いつかれてしまう、というようなことは実社会でもありますよね。

近藤「ええ、作家の世界でもそういうのはありますしね(笑)
才能を持って生まれたのにモチベーションが低い人もいますし、モチベーションは高いのに才能がない人もいます。“天才VS努力家”っていうのはいろんな物語で使われていますし、永遠のテーマだと思うのですが、このお話ではそういう構図にはしたくなかったんです。
主人公の正樹はどちらかというと才能があるタイプではありますが、だからって何も葛藤がないわけではありません。彼のように競技に対する気持ちがついていかないというのは、それはそれでしんどいことだと思いますし。エースの櫻井の方も素質があって、最初はすごく輝いているように見えますが、正樹にどんどん追いつかれていきます。才能とモチベーションを違う形で持っている二人っていうのを対照的に書きたいと思っていました」

―主人公の正樹ですが、才能がありながらもあまりスマートなタイプではないのが魅力的でした。

近藤「そうですね。なるべく類型的ではない登場人物を作ろうと思っていたので、正樹のように体格のいい主人公にしました。体格がいいとどうしても自転車を始めたら絞らないといけなくなるので、そういうおもしろさもあるかなと」

―やはりロードレースは大きいと不利なんですか?

近藤「体が大きいとスプリントやタイムトライアルでは有利なんですけど、山登りなどでは筋肉の量が多い分負荷がかかってしまうんです。体が大きいとダメというわけじゃないんですけど、体重はできるだけ減らすというのがセオリーですね。
ただ、スプリントは筋肉量がある方が有利なので、大柄で筋肉質な人が得意です。戦える場所がその人の適性によって違うのもロードレースのおもしろさです」

最終回「スポーツものを書くとは思っていなかった」につづく



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