Netflix映画『浅草キッド』劇団ひとり監督インタビュー「僕がこの話が好きで押し付けるんじゃなくて、若い人が観て楽しめるような演出に」

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ビートたけしの原点であり、師匠である深見千三郎と過ごした日々を描いたNetflix映画『浅草キッド』が配信中です。

ビートたけしを敬愛してやまない劇団ひとり監督が脚本も務め、初監督作品『青天の霹靂』(2014年)に続き昭和の浅草を舞台に、2度目のタッグとなる大泉洋さん、そして柳楽優弥さんを主演に迎えて贈る、笑いと涙に溢れる青春映画となっている本作。劇団ひとり監督に作品作りについてお話を伺いました。

――本作大変、楽しく拝見させていただきました。素晴らしかったです。監督にとっても、この映画の制作は念願だったそうですね。

やりたいなと思って脚本を書き始めて、いろいろな場所に持ち込んでいました。思い返すと7年越しの目標だったので。それが撮れると決まった時は本当に嬉しかったです。

――敬愛するビートたけしさんのお話ということでプレッシャーもあったのではないでしょうか。

当然ありますね。お笑い芸人にとっては神様みたいな人ですから。僕もたけしさんがすごく好きですからね。でも、たけしさんファンじゃない人たちのことも意識しています。特に若い世代の人たちは、僕らの抱いているたけしさんの印象とはずいぶん違うと思うし。そうじゃない人たちにも、良さが伝わるようにっていうのは意識しました。退屈な映画だと思われたくなかったし、単純に「知らない人の、知らない世界のお話」で終わっちゃうのはもったいないので、そこらへんは気をつけて撮ったつもりです。

――原作「浅草キッド」に出会った時のひとりさんはどの様な感想を抱いたのですか?

15歳の時に古本屋で手に取ったのが初めてで。お笑いの裏側って、それまで全然、知らなくて。今みたいに情報もないじゃないですか。

だから、お笑い芸人になるには浅草に行って、ストリップ劇場で修行したり寄席に出たりしてっていう世界なんだ。なんか泥臭くてかっこいいなって思った印象があります。ただ、実際にお笑いの世界に入ったら浅草なんかに行くことなんてないし、おしゃれなライブハウスだし。

出囃子も三味線で出てくると思ったら洋楽の激しいやつで出てったりするから。お客さんも年寄りばっかりかと思ったら、若い女子高生がメインで。「え、こんなおしゃれな感じで若い人のカルチャーなの!」っていうのが当時は意外でしたね。でもやっぱり根底には昭和の浅草芸人たちの人情話がすごく好きで、今でも憧れていますね。

――監督されるまで原作を何度も読み直されたと思いますが、改めてこのお話の魅力は、どういうところですか?

やっぱり芸人の美学というか。特に深見師匠って美学の塊だったと思うんですね。側から見たら照れ屋だったり不器用なんだけど。いわゆる「顔で笑って腹で泣く」のが美しいとされている人たちですよね。僕も、基本的にテレビに出ているときは、顔で笑って腹で泣くのが美しいって思っていて、それは人に見せなくていいと思ってるんです。でも僕の我としては、「本当は腹で泣いてるんだよ」っていうのを見せたくなっちゃうから。

――たけしさんとは本作にまつわるお話をしたのですか?

はい。この映画のためだけに、2人で話す時間をとってくださいました。当時、深見師匠がどんな人だったか、当時の演芸場の雰囲気などを教えていただきました。その他にも番組でご一緒した時の待ち時間に根掘り葉掘り聞かせていただきました。

――たけしさんは、もう映画をご覧になりましたか?

たけしさん、まだ観てないんですよね。でも、一番たけしさんの側にいる無法松さんに出演していただいて試写後に「すごくよかった」っていうメールをいただいたのと。あと、「弟子の俺でもゾっとするくらい似てた」と。ずっと側にいる人に、そう言っていただけるのは、すごく心強いです。

――たけしさんの感想が楽しみですね。

楽しみですけどね。あの人、照れ屋さんだからね。まぁ、ちょっと怖いところもありますけど、楽しみです。

――先ほど、若い世代の観客の方も意識されたとおっしゃっていましたが、具体的にどういった部分を意識されましたか?

具体的なことを言うと、テンポだったり説教くさくなりすぎないように。あと、実際には地味な話なので大きな展開がそこまでないんだけど、ちゃんとエンターテイメントにしないとダメだなって。僕がこの話が好きで押し付けるんじゃなくて、ちゃんと若い人が観て楽しめるような演出にしたつもりです。

――Netflixでの配信ということで意識したことは?

それは、あまりないですね。劇場版でも同じように作っていたかもしれないですね。ただ、なんせ「イカゲーム」がすごく流行っているんでね、もうちょっと人が倒れてもよかったかなと思いますね(笑)。今になって思いますけどね。

――深見千三郎役の大泉洋さんとは2回目のタッグだと思います。大泉さんにお願いしようと思った理由と、たけしさん役に柳楽さんをキャスティングした理由を教えていただけますか?

僕はたけしさんって、天才がゆえに誰とも分かり合えないような感じがしていて。どんなバラエティでも、ふと一瞬みせる淋しげな顔がある気がしていて。柳楽さんも、それを持っていると僕は思っていて。それって、芝居じゃどうしようもできない部分で、その人の生き方に出る部分だったりするから。どんなに笑っていても、どっか淋しげだし。そういう孤高な感じがぴったりだったと思います。

深見師匠は、原作で、たけしさんが初めて深見師匠を見たとき「ヤクザだと思った」って描写があるくらい強面の方なんですね。それに比べると、大泉さんのパブリックイメージとは、かけ離れていたので、最初は候補ではありませんでした。

でも、キャスティングをしているときに、一作目の「青天の霹靂」を見返していて、単純に大泉さんがやる深見千三郎を見たくなりました。「この人がやったら、どういう風に師匠を演じるだろうな」ってことです。もしかしたら全然ハマらないかもしれないけど、とにかく見てみたいという思いがあって、オファーしました。

――実際に演じていただいて、いかがでしたか?

僕が中高生の時くらいから思い描いていた、頭の中の深見千三郎よりも良かったです。みんなあるじゃないですか。小説に出てくる、自分だけが想像している誰かって。僕にとって、深見師匠って、そういう人で。その深見師匠よりも良かったですね、大泉さんの深見師匠って、色気があって、優しくて。

――すごく洒落た方なんだなというのが伝わってきました。柳楽さんは、モノマネではないのに、たけしさんっぽいっていうのがすごいなと思いました。さじ加減は、いかがでしたか?

最初はモノマネを頑張ってトレーニングしていたのですが、やっていくうちにモノマネが邪魔になるなと思いました。

ただ、実在の人物だし、みんなたけしさんのことを知っていますからね。ゼロにするのはおかしいし、そこらへん塩梅というか。所作とか語尾は、たけしさんでありつつ、芝居しやすいようにしようと。モノマネをすることによって芝居がしづらくなったら本末転倒なので、そこらへんはクランクイン前に抜いてもらう作業でした。

――また、「ナイツ」の土屋さんも出演されています。土屋さんのお芝居、すごく新鮮でした。

やっぱり漫才のシーンがキモになってくるので。以前、お笑いを題材にしたドラマ(「べしゃり暮らし」)を撮らせてもらったんですけど、お笑いのシーンにすごく苦労したんですよね。どの役者さんが一生懸命やっても、お笑いの間は、なかなかうまく作れないので、やっぱり本物を呼んだ方が色々とうまく行くだろうなと思いました。それで浅草にゆかりのあるナイツの土屋さんにお願いしました。

――土屋さんの演技にも話題が集まりそうだなと思いました。

本当に自然で。肩に力が入っていなくて。当然、プロなので、漫才のシーンはうまいんですけど、その他の芝居は、ほとんどやったことがないっていうので心配要素ではあったんですけど、すごくよくやってくれました。助かりました。一回もダメ出ししていないと思います。

――監督をされること自体、久しぶりだと思いますが、現場は楽しかったですか?

楽しかったですね。本当に頭の中で、ずっと思い描いていたものが目の前で形になっていくのは、何事にも代え難いですよね。

コロナで撮影が中断するなど、どうしようもない苦労はあったんですけど、芝居がうまくいかない時に「どうしよう」っていう苦労が、げんなりする苦労じゃないんですよね。わくわくする苦労っていうか。これをどう乗り越えてやろうかっていう。ああいう苦労だったら、人生が困らないですけどね。苦労でも、心地よい苦労と、本当に逃げ出したくなっちゃう苦労があって。僕の頭の中で、どこでどう線引きしているかわからないけど映画に関する苦労は、全部心地いい苦労でした。

――いいキャストに恵まれて、いい苦労をしながら映像化できたということで、人生においても大事な作品になったのではないでしょうか?

ある種、僕の中ではいちばん大事なことを映像化してしまったっていう。多少、空っぽ感があるっていうかね(笑)。なんかもう、やり終わっちゃったなって。これで悔いなしってとこまでなっちゃっているとこがありますけどね。

お笑いの世界に入って、お笑いに色々教えてもらったので、初めてお笑いに対して恩返しできたのかなって感じがしますけどね。たけしさんやたけしさんの師匠を、こういう形でみんなに知ってもらえて。映像化の仕事に関しては、今後やりたいものが出来たら自然に出来たらいい話だし、焦らずやっていこうかと思います。

――個人的な話になってしまうんですけど、長野県上田市の出身でして、ロケ地に使っていただいて嬉しいです。

本当にお世話になっていますよ。「上田映劇」さんには。前回「青天の霹靂」の時に使わせてもらったものが、いくつか残っていて。今回は劇場の中だけだったんですけど、結構色々やらせてもらったんですよね。そしたらまた、ステージ両脇の壁を上田映劇の方が、すごく気に入ってくれて、「そのまま残していってくれ」ってことで残しているんです。だから、ちょっとずつ僕の作品でね、あの劇場を埋めていきたいなと思っていたりします。

――先ほど、「イカゲーム」の話もしていましたけど、Netflixヘビーユーザーでいらっしゃいますか?

はい。もう、ずっと見ていますし、さっきも昼飯を食べながら見ていました。

――自分の大好きなサービスで、映画を作るということは楽しかったですか?

本当に、この上ないというか。Netflixは上陸してから、すぐ契約して、ずっと使っているので。そこで、自分の作品が上がるっていうのは、すごく嬉しいですね。単純にね。あのサムネイルになるんだって思うと、それだけで嬉しいっていうかね。

――ひとりさんが、Netflixのオリジナル作品で好きな作品は?

なんだろうな。「ナルコス」かな。相当ハマりましたね。今までにない感じの、実話を元にしたマフィア系のもので。実際のパブロ・エスコバルにそっくりでしたしね。ただただ、悪い奴として描いていく所が好きです。どうしてもね、悪いやつは悪いやつなりに思い悩み苦しみ、子供の頃に虐待を受けっていうように正当化しちゃいがちじゃないですか。(ナルコスは)あんまりそういうのがなくて、本当に悪いやつなんですよね。

https://www.netflix.com/title/80025172 [リンク]

――今日は素敵なお話を本当にありがとうございました!

撮影:オサダコウジ

ヘアメイク:小出みさ(MIXX JUICE)
スタイリスト:星野和美(MIXX JUICE)

●ブランド名
エトロ

03-3406-2655
107-0062東京都港区南青山5-11-5エトロジャパン

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藤本エリ

映画・アニメ・美容に興味津々な女ライター。猫と男性声優が好きです。

ウェブサイト: https://twitter.com/ZOKU_F

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