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制約を身につける

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今回はmedtoolzさんのブログ『レジデント初期研修用資料』からご寄稿いただきました。

制約を身につける

「ここまでは得意ですが、ここから先はできません」という制約を持つ人が得意分野に熟達すると、その人は専門家と呼ばれるようになる。

「得意不得意こそありますが、私は基本的になんでもやります」という人が全方向に頑張ると、その人は「熟達した使い走り」になってしまう。

制約は知恵を引き出す

たとえば300文字程度の考えを文章化しようと思ったときに、Twitter はいい道具になる。簡単なサービスだからすぐに書けるし、つながった誰かの反応をもらうこともできる。何よりもTwiter には「140文字しか書けない」という制約があって、アイデアを文章化するときには、こうした制約が役に立つ。

アイデアを文章化するのに必要なのが300字なら、Twitter ではそれを2回に分けて書く必要がある。ベタ打ちしたアイデアを途中できるのはみっともないから、思いついた何かは必然的に、140字で語れるだけの大きさに分割されることになる。それぞれのつぶやきは、つぶやき単独でも読めるように配慮する必要があるし、つぶやき2回では300文字には少し足りないから、余計な形容詞は削り、曖昧な語尾は断言に置き換えられることになる。文字数の物理的な制約は、結果として漠然としたアイデアを読みやすい文章に変換する役に立つ。

明示的な制約は不便だけれど、制約に対峙した人は、自由な状況よりも知恵を引き出されることになる。俳句やお弁当箱の制約は世界的なものになったし、軽自動車の規格みたいなものもまた、それが世界に通用するのかどうかはさておき、規格をどうにか活用するために、日本の自動車メーカーは様々な工夫を生み出した。

経験は蓄積される

Twitter は今のところ成功していて、画像を貼ることもでき、いくらでも長文が書ける、リンクもメッセージも簡単に使えるような、もっと便利な機能を目指したTwitter の競合は、今はほとんど姿を消した。

どんな形であれ、制約が存在する何かを利用するときには、ユーザーは頭をつかうことになる。制約のあるサービスを前に、それをどう利用したら自分にとってより便利になるのか。その制約の範囲でよりよい成果を上げるためには何を工夫すればいいのか。考えた結果や生み出された工夫は、ユーザーに経験として蓄積される。

無限に便利なサービスは、ユーザーの問題を簡単に解決してくれる。ところがそれは便利に過ぎて、ユーザーの中には経験が残らない。制約のある何かを使った人は、それを使いこなすほどに経験を蓄積していく。使い慣れた道具と慣れない道具とが目の前に並んで、たいていの人はたぶん、不便だけれど慣れた道具に手を伸ばす。

制約が明示されることで、ユーザーは考えることを強制される。そうした習慣の押し付けが、結果としてユーザーに変化をもたらす。その変化が好ましかった場合、もっと便利なサービスをぶつけても、ユーザーは動かないのだろうと思う。

便利は舌打ちされる

研修医の頃からしばらく、24時間どんな救急でも受ける施設でずっと働いていて、近隣で開業している先生がたから電話を受ける機会も多かった。市内にはいくつかの大病院があって、「断る」病院の先生がたは気を使われていて、あの病院に紹介するのは「申し訳ないから」と、搬送依頼はいつもうちだった。

自分の施設にかかってくる搬送依頼は横柄だった。「今ちょっとベッドが厳しいです」と返事をすれば舌打ちされた。「院長に直接電話してもいいんだよ?」なんて電話越しに怒鳴られたこともあった。どうしてうちだけこうなのか、ずっと分からなかった。

休日体制に突入する土曜日の午後、近隣老健施設からの入院依頼が一時期ものすごく多かった。医師会のゴルフ大会前日になると、2週間前からの食欲不振とか、「救急」には遠い依頼が殺到して、満床で断らざるを得なくなると怒鳴られて、電話の応対が大変だった。

病院の方針でそれでも頑張って、結局病棟の看護師さんが疲れて辞めて、病院長が「断る」ことを決断してからほんの数週間、紹介電話の空気は笑っちゃうぐらいに丁寧になった。もう笑うしかなかった。

24時間、どんな患者さんでも受け付けます、断りませんという病院は、頑張るほどに、周囲の施設はそれを単なる道具であると認識していく。便利な道具は頭を使わず利用できるから、利用の履歴が経験として蓄積されない。そうした施設が99人の急患を引き受けてみせたところで、100人目に断られた誰かは「使えねぇな」と舌打ちすることになる。

制約の明示は大事

制約を明示した施設に誰かを紹介するときには、相手施設にできることを考えて、頭を使って患者さんを紹介することになる。紹介を繰り返すほどに、履歴は経験として生かされて、結果として仲良く穏やかな関係が構築される。そういうのは大事なんだと思う。

「ここまではできる。ベストを尽くす。そのかわりここから先はできない」という制約を自ら明示することで、お互いの関係が経験として積み上がる。制約の範囲でできることを繰り返せば、その人は専門家として認識される。何でもできる何でも屋さんが頑張ると、その人はだんだん道具に近づいていく。道具は壊れるまで使い潰され、壊れたら舌打ちされて捨てられる。

なんでも頑張ることは大事なのだけれど、どこかでたぶん、自分は何を頑張り、同時に何を「やらない」のかを考えないといけない。

自分は何者であるのか、「何でないのか」、整合のとれた自己紹介ができるようになりたいなと思う。

今年もよろしくお願いします。

執筆: この記事はmedtoolzさんのブログ『レジデント初期研修用資料』からご寄稿いただきました。

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