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『千日の瑠璃』454日目——私は商店街だ。(丸山健二小説連載)

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私は商店街だ。

客の出足が例年になく好調で、しかも金離れがいつになくいい、歳末で賑わしいまほろ町の商店街だ。目ぼしい品がたちまち売り切れてしまうばかりか、見てくれがいいだけで中身のない品まで飛ぶように売れている。そして、雑然と入り乱れる人々の声に、かつてなかったほどの熱気が感じられるのだ。麗々しい看板がところ狭しと掲げられ、軽はずみな言動が目立ち、どんなまやかしでも横行しそうな兆しがそこかしこに見て取れる。思惑通りに事が運びそうな雰囲気がいたるところに漂い、いんちき話を丸呑みにして後悔しそうな顔がここにもあそこにもある。

私はすでにそのわけを知っている。それもこれも全部、こんな田舎町にしては空前絶後ともいえる、懦夫をして立たしめるあの膨大な計画のせいだ。永久に売れそうになかった山や丘や荒れ地を買ってくれる者が、突然現われた。彼は本気だ。財界のあの宿老は、私を見るなり町長にこう言った。「ここも大きく変るぞ」と。あの苦労人は、あの鉄人は、一存では決め兼ねると言いながら、その実、付き従う幹部連に口を出させなかった。そういう男だ。工事関係者が大挙して押し寄せてきたら、現在の私の規模ではたしかに応じ切れないだろう。しかしきょう私が呑みこんだのは、真っ当な金ばかりだった。いや、違う。鬘をつけた男とその家族が支払った金だけは、月給やボーナスとは異なる臭いを放っていた。
(12・28・木)

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