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『千日の瑠璃』433日目——私は竿秤だ。(丸山健二小説連載)

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私は竿秤だ。

頭髪がちぢれ、度がきついせいでぎらぎら光る眼鏡をかけた、浅黒い顔の焼き芋売りが、上手に使いこなす竿秤だ。万事を心得ている聖者の如き風貌のその男は、私を器用に操って竿の目方を一瞬のうちに出す。あまりに速い手さばきに疑う客がいないわけではないが、しかし誰もそれを口に出したりはしない。冗談めかした言い方でたずねる者もいない。

たしかに腑に落ちない計量方法だと思う。私自身ですら、彼がきっぱりと言い切る数字が正しいかどうか未だにわかっていないありさまだ。思うに、歪曲された事実のように、正しいと思えば正しく、正しくないと思えば正しくないのだろう。あるいは、相手にする客によって、あるいはまた、そのときそのときの気分で弾き出される数値かもしれない。

彼はきょう、雪混じりの風に手伝ってもらって、一日分の芋をたった二時間で売り切ってしまった。気をよくした彼は、おしまいの三本の芋を盲目の少女の掌にのせた。すると、彼女の連れの、如何なる秤にも掛けられない、どんな尺度にもあてはまらない少年が、男の顔の前に病気のせいで震えのとまらない腕をぬっと突き出した。その掌には三枚の銅貨が握られていた。男は首を横に振って「金はいいんだ」と言った。それでも少年はその手を引っこめなかった。白い犬も少年に味方して、唸り声をあげた。男はやむなく金を受け取り、「これでは足りない」と言いかけたが、やめた。そんな彼に私は言ってやった。「おまえは軽いぞ」
(12・7・木)

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