【ここは法廷だゼ!】『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』高坂桐乃にのめり込み作者らを脅迫した32歳無職

脅迫メールを何通も…

6月29日の東京地裁。罪名は脅迫。法廷に現れた被告人(32)は坊主頭にメガネの長身、終始うつむきがちで、いかにも内気そうな男性だった。起訴状や証拠によれば被告人は昨年11月、ライトノベル『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』の作者と、その編集者に脅迫メールを送りつけたという。この事件は逮捕当時の今年4月、かなり報道されているが、詳細は以下のようなものだった。

被告人は実母と徳島の実家で同居していた。高校を中退し、居酒屋バイトを転々とした後、平成15年頃からは月10日程度、日雇い仕事をするようになるも、昨年10月以降は稼働していなかった。

昨年9月『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』のアニメを目にした被告人、高坂桐乃というキャラを「本当に可愛い」と思い、ファンに。書籍を読む事でさらにのめり込んでいったが、桐乃の登場回数が減ってきたことに次第に不満を感じ始めた。またイベントにおける作者と編集者の発言から、「桐乃がバカにされている。ファンや作品への裏切りだ。許せない」と思うようになっていったという。昨年10月頃からは、インターネット上に公開されている作者のメールアドレス宛てに皮肉めいたメールを送るようになったが、返事がなかったことから注意を引くため次第に挑発的なメールへとエスカレートしていったようだ……。

フリーメールのアカウントを取得し、匿名で送っていたそのメールには「探偵雇ってでもお前ら詐欺師の住所を割り出してやるからな」「黒猫(登場人物の名)の死体、叩き付けてやりたい」「逃げられると思うなよ、カスが」などの過激な文言とともに、ネットから拾った作者と編集者の写真を、首や足が切断されて血まみれになっているように加工したものを添付していた。起訴されているのは2日分のメールについてだが、実際のところトータルでなんと9000件くらいメールを送り続けていたというから、その執念には驚かされる。逮捕当時の調書では「これからもファンであることは変わらない。読み続けて桐乃の信者でいようと思う」と、脅迫行為を働いて逮捕されながらも、変わらずファン宣言をしている。

被告人質問では、いやにフランクな老齢の弁護人が、書記官席のとなりにある高い机に肘をつきながら、被告人の作品への愛情について確かめていた。

弁護人「あなたがさ、『オレイモ』を最初に見たのは、アニメ? アニメで知ったんでしょ?」
被告人「はい」(←声が小さい)
弁護人「本も買ったんですね?何冊?」
被告人「9冊……」
弁護人「何冊出てんの?」
被告人「10冊です」
弁護人「(10冊目は)持ってないの?」
被告人「まだ買ってない……」

愛情は衰えていないようで、10冊目を買うかのようなことを述べていたが、これについて弁護人は喝を入れる。

弁護人「あなた『これからも桐乃の信者でいこうと思う』って、調書にもあるけど、どうなのコレ?」
被告人「この発言は……作者、編集……被害者のことを思ってなかった……作品からは縁を切ろうと思ってます……」
弁護人「だからさ! 普通ね、犯罪関連のことから縁切るのが普通なんですよ! あなたの発端、『オレイモ』だから! 10巻出たら、またオレイモ買うの!? 信者続けるの!?」
被告人「いえっ!買いません!」
弁護人「持ってる9冊はどうするの?」
被告人「処分しますっ!」

老齢の弁護人から「オレイモ」という単語が連呼される様は新鮮だ。この勢いに被告人も押されたのか、本の処分と、作品から距離を置く事を誓っていた。

しかし、最終陳述では「被害者はもちろんですが、ファンの方々に本当に申し訳なく……」と、自分の行為を被害者らだけでなく、ファンに詫びる被告人。被告人質問でも「被害者だけでなく、ファンの方々の心を傷つけるようなことをした……」「取り調べのときには他のキャラのファンの方々の事を考えずに話してしまった」など、ファン重視の発言が目についた。また自分が行動を起こす事で、被害者らが自分に対してではなく、ファンに対して何らかの反応を示す事を期待していたという発言も。おそらくファン代表としてアクションを起こしていたつもりなのだろうが、その方法が間違っていたことや、当の被害者らが感じた不安に、本当に気付いているのだろうか……。

求刑は懲役1年。判決は7月9日に言い渡される。

画像引用元:flickr from YAHOO
http://www.flickr.com/photos/orangeacid/204145200/

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高橋 ユキ

傍聴人。近著『木嶋佳苗 危険な愛の奥義』(徳間書店)、『木嶋佳苗劇場』(宝島社)ほか古くは『霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記』(新潮社)『あなたが猟奇殺人犯を裁く日』(扶桑社)など。好きな食べ物は氷。

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