取引先がまさかの夜逃げ…独立1年目のピンチ乗り越え、事業拡大。その原動力とは?

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取引先がまさかの夜逃げ…独立1年目のピンチ乗り越え、事業拡大。その原動力とは? ふたつの会社を経営し、ふたりの子どもを生み育て、次の世代が生きる社会のためにボランティアまで行っている山田奈央子さん。スーパービジネスパーソンでありながら、その佇まいはふわりとやわらか。限られた時間の中で叶えたい思いを次々としなやかに実現していくパワーは、どこから生まれるのでしょうか。

山田 奈央子さん

大学卒業後、ワコールにて企画・開発・新規事業を担当したのち、友人と共同代表で株式会社シルキースタイルを設立。下着やボディケアの専門家として数々のメディアに出演、監修を行う。出産後、社寺での体験サービスを運営する株式会社シェアウィングを設立。大使館プロジェクトPORT代表も務め、2013年中小企業庁グッドビジネスアワード部門賞を受賞。著書に『とっておきの「一着」さえあればいい』『下着の品格』等がある。

コンプレックスから解き放たれた、あの日の衝撃

—— ワコールから独立してもずっと下着に関わるお仕事をされていますが、昔から下着にこだわりがあったのでしょうか?

学生のころはコンプレックスもあって、下着はなんでもいいやと思っていました。私があまりに無頓着だったものですから、当時お付き合いしていた方に「見えないものにこだわりを持つ人は美しい」と連れて行かれたのが、日本橋三越本店の下着売り場でした。恥ずかしながら、この時初めてきちんとサイズを測り、自分に合う下着を試着しました。ピリッとした老舗感漂う雰囲気の中、すごく緊張したのを覚えています。

そうして、自分に合うお気に入りの下着を身につけると、普段の姿勢や立ち居振る舞いだけではなく、ファッションやメイク、女性としての気持ちの在り方も変わり、自分に自信が持てるようになったのです。

「下着ひとつでこんなにも変わるんだ!」とその魅力に引き込まれ、アルバイトで稼いだお金はすべて下着に注ぎ込みました。身を以て感じたこの驚きと楽しさを多くの女性に伝えたいと思い、ワコールに入社しました。

—— その思いをもってワコールではどんな仕事をしていたのですか?

入社後すぐ商品企画の部署に配属され、当初は原糸メーカーさんとパーツ用の生地をつくる仕事を担当しました。入社4年目に、ずっとやりたいと訴え続けていた女性向けルームウェアブランド立ち上げのチャンスをいただきました。いちからブランドを考え、材料を調達して商品化し、プレス発表まで、すべての工程を自分で担当したんです。それまでは下着製造のごく一部にだけ携わっていましたが、この時初めて全体像が見えました。とにかく大変だったけれど、充実感があって、何よりすごく楽しかった。この時、私は新規事業の立ち上げが好きなんだと確信しました。

—— 独立の決め手となったのはどんな出来事ですか?

独立を決めたのには、新規事業の経験のほかにもうひとつあるんです。

下着に関する意識をヒアリングした結果、かつての私のように「下着って見えないから、なんでもいい」といった意見が多かったのです。そこで、世の中の女性の下着に関する意識を変えるべく、ペンネームを使って個人ブログを始めました。メーカーを問わず、フラットな立場で下着全般について地道に情報発信を続けていたら、ある日突然、某雑誌の編集者さんから「先生、下着特集の監修をお願いします」とメッセージが届きました。普通のOLでしたから、「え?私が先生?監修ってなに?」とびっくりしましたが、顔を出さない条件で監修を担当しました。それが下着のスペシャリストとしてのデビュー。今でも忘れられません。

次第に、ほかの女性誌からも次々と依頼をいただくようになり、書籍の出版依頼までありました。個人として多くの女性に下着の魅力を伝える機会をいただきましたが、「会社員ではできることに限界がある」と感じ、独立を決意しました。

取引先が夜逃げ、創業一年目で直面した大ピンチ

—— 起業されたきっかけはなんですか?

退社を決意した時点では、個人で活動するか、会社を設立するか、まだ決めかねていました。そんな時期に同じく退職を考えていた大学時代の友人と会いました。

その日、私は彼女へのプレゼントとして、とあるマッサージソルトを用意していました。使い心地がよく、いつかこれを自分でも商品化したいと密かに思っているものでした。すると、彼女も全く同じマッサージソルトを私のために用意していたのです。

あまりの偶然に盛り上がり、その場で、「二人で会社をやろう」と話がまとまり、共同代表で株式会社シルキースタイルを設立することになりました。

—— 会社立ち上げ後、事業は順調に展開しましたか?

下着はサイズをたくさん用意する必要もあり、かなりコストがかかるため、最初の商品はマッサージソルトに決めました。まずはマッサージソルトの工場にコンタクトをとって商品をつくってもらい、販売先は飛び込み営業までして確保しました。そこまでは順調だったのですが、創業して1年を迎えるころ、マッサージソルトの工場が倒産し、そこの社長が夜逃げしたんです!

発注をかけていた商品は届かない上に、前入金をしていたため手元の資金は残っていない。マッサージソルトのレシピもわからない。連動倒産しそうなほどの、大ピンチ。

必死の思いで社長を見つけ出してレシピを聞き出し、ほかの工場で製造を再開することができたので、どうにかこうにか急場をしのぎました。この事件をきっかけに、リスク分散のため売上の柱をいくつか持つことにしたんです。

現在は、下着やコスメの企画開発のほかに、コンサルティングやマーケティングリサーチなど、女性の内面美・外見美・精神美をトータルプロデュースする事業を行っています。主軸になっているのは、テレビショッピングなどメディアを使って販売する商品開発。テレビショッピングは店頭販売の商品とは違い、ぱっと見ただけで購入価値を感じてもらわなければなりません。商品にはストーリーや機能性など相当な作り込みが必要で、難易度は高いけれど面白いですね。

経験がマネジメント力を磨き、さまざまな活動の原動力に

—— 二児の母でもありますが、出産を経て変化したことはありますか?

出産前は、自分ひとりの成果にこだわっていたしプライドが高かったこともあって、自分の仕事は自分にしかできないと思っていました。でもそんなことはないんですよね(笑)。スタッフを信頼して仕事を任せると、みんなも成長してチームのリレーションがよくなるし、何より可能性も広がります。1人で1億を稼ぐよりも、3人で5億稼いだほうがいい。そう思うようになりました。

家庭では、3歳と4歳の息子たちも積極的に家事に参加してもらうようにしています。例えば、ゴミ捨てをする時は「ゴミ捨て探検」と言うと、自発的に楽しんでやってくれるようになりました。夫に対しても同じように、どう伝えたら気分よく動いてくれるかを考えています(笑)。やり方次第でお互いがハッピーになるので、そのやり方をどうするかあれこれ考えることは楽しいものです。

仕事でも、家でも、マネジメント力が大事ですね(笑)。

—— 子どもがいるからこそできたことはありますか?

子どもが生まれてからは「子どもたちが生きる未来のために、よりよい社会をつくりたい」という気持ちが強くなりました。モノを消費するだけではない新しい経済の形があってもいいのではと思い、「シェアリングエコノミー」という世界観で事業ができないかと考えました。そして、ずっと茶道をやっていて日本文化が好きだったこと、タイミングよく縁がつながったこともあり、お寺の空間をシェアし体験を通じて体も心も整える「お寺ステイ」というサービスを提供する事業を始めることができました。これが2社目の株式会社シェアウィングです。

現在、都内十数ヶ所のお寺では伝統の木型和菓子作りや精進料理作りなどの体験を、飛騨高山のお寺では宿坊体験を提供しています。

探究心と楽観主義。すべての過程を楽しむこと。

—— 好きを仕事にする秘訣、今後の目標を教えてください。

私のベースにあるのは、好きなことにはのめり込む性格と楽観主義。何かが起こったその一瞬は、あー大変だと思うこともありますし、クヨクヨすることもあります。でも自分の中で深刻になりすぎないようにすぐに気持ちを切り替えて、すべての過程を楽しむようにしています。だからこそ、好きなことを仕事にできているかもしれません。

今後取り組もうと思っている商品は、AIで体型解析を行うセミオーダーの下着。ゆくゆくは乳がん患者の方にも気軽に利用してもらえるような商品に展開するつもりです。立ちはだかる壁も多そうですが、多くの女性が輝けるように、まだ世にない新しい商品や価値を創出していこうと思っています。

株式会社シルキースタイル

「お寺ステイ」 取材・文:タナカ トウコ 撮影:刑部 友康

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