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コラム:41歳になって『コミックマーケットC93』を前に思うこと

2017年の夏、6年ぶりにコミックマーケットにサークル参加をした。
本当に本当に久しぶりの参加であり、そのジャンルでは初めての参加だった。
サークル名もペンネームも新設したので過去の参加ジャンルとは一切連続性はない。
盆と暮れという休みがとりやすくはあるが中々時間の取りにくい時期に3日間、国際展示場を押さえて開催される同人誌のお祭りだ。
この3日間でのべ50万人の人たちが参加する。
同人誌だけではなく、グッズや音源、アクセサリーなども置かれコスプレイヤーも企業も集う。
オタクのオタクによるオタクのための祭典。
ブラジルの人たちにとってのサンバカーニバルのようなもの、と例えられていたことがありそれがぴったりの表現だと思う。
今では同人誌の即売会そのものが珍しいものではなく、同人ショップで常時それらは入手できるし、週末には日本全国必ずどこかで即売会が開催されている。
ただコミックマーケットの他の即売会と異なるのは開拓者としての役割を担ってきた点、現行では企業形態をとっているもののあくまでも有志参加者の催しである点が特徴だ。
企業主導の会ではない。
1975年に最初のコミケットが開催され、本年で42周年を迎える。
ほとんど自分の年齢に等しい歴史を有するこの表現の場を慕わしく感じる理由は様々だ。
自分は今年で41になる。ついに不惑の年を迎えてしまったが、そうなるとその呼び名通りあまり物事に動じなくなる。
いわゆるロスジェネレーションで、派遣社員を転々としながら余裕のある時だけ同人活動を行ってきた。
20代の頃は小説家に憧れてコンテストに投稿を繰り返していたが、芽が出ずにやがて諦めた。
人生がこんなにくたびれるものだとは思っていなかった。
コミケットがなかったら。

同世代の知り合いにコミケットについて話をすると反応は様々で大概の人はよく知らない。
開催地について「幕張だっけ」と必ず聞かれるのは有害扱いされた幕張メッセの使用拒否の一件が大きく響いているためだろう。
同世代のオタクではない人々のこの「幕張だっけ?」には少なからず「有害」という意識の根深さが垣間見られて報道の影響力とその功罪を思い知らされる。
少し若い世代、そう20代半ばから30代の人から話をふられることもある。
コミケットに行ってきた、という話をされる。
聞いてみると本当に「行ってきた」という感想で、カタログも買わず同人誌も買わず、ただ「行ってコスプレの人たちと写真を撮影してきた」ということなのだ。
もっと若い世代とは接点があまりない。
けれども恐らく知っている人はよく知っているし、知らない人は本当に何も知らない、その二極化の差が開いているだろうとは思う。
これだけ常設化された同人誌販売会において、コミケットのみにこだわる必然性も薄くなりつつある。
アニメも漫画もゲームもこうまで氾濫する世の中になるとは思っていなかった。

けして、楽なことではないのだ。
コミケットというのは夏も冬も過酷な時期に開催され、とにかく暑いか寒いかで人はたくさんいるし待機列は長いしトイレも並ぶし体力もお金も嘘みたいに吹っ飛んでいく。
だいたいが原稿作業で、腰なんて20代のときにとっくに壊しているのに、本のぎっしり詰まったダンボールを右から左へ動かして、鞄にもどっさり本を詰め込んで移動する。
楽ではない。
楽なことではない。
それでもそこには確かにその人にしか作られない表現媒体が存在していて、その日にしか感じられない熱狂がある。

感性の密林、という言葉はかつて三島由紀夫が同性愛の世界をさしてあらわしたものだが、それに似ている。コミケットにはルールがある。
人を押しのけることなくきちんと並んで、頒布する側も受け取る側も礼儀を固く守ろうという不文律がある。カタログを熟読する必要は必ずある。
サークル参加するとなれば尚更でコミケットアピールを通読しない者にその資格はない。
その理由はそこにいる人たちがただそれらが「好き」というだけで創作している集会だからで、経済理由や政治理念のために行っているわけではないからだ。
感性に沿って活動している以上必要とされるのは礼儀と最低限の規律で、すべてが自発的に生じたものだ。

大半の人は知らない、コミックマーケットを私が知ったのは中学生の時だ。今から30年前なので情報はまるでなかった。
美術を習得するために入った部活で先輩たちが漫画原稿を制作していた。
まだ中学生なのにそんな道具を揃えているだけでなく技術的にも熟達していた。
まるで異文化の宇宙人のように輝いていて、私は驚いた。
そしてコミックマーケットの存在を教えてもらった。
義務教育下ではあまりに情報の不足していたその催しへの思慕は募る一方で、高校生になってようやくその催しに参加した。
まだ何も知らないことばかりだったけれども、カタログがすべてを教えてくれた。
それでも彼女たちの熟達した技術は遠いように感じられた。
つまりはバブルの時代で中学生でも漫画道具を買い与えてもらえる子たちがいて、グッズやイラストを頒布させることが可能だった。私にはそれが不可能だったというだけの話で、それだけで随分なカルチャーショックを覚えてしまい、その溝がそのまま憧れとして強烈に駆り立てられていた。
高校生になり、アルバイトをして友達の家に泊まりこみ、ようやく同人誌を完成させることができた時の喜びは忘れられない。
漫画は描けないので小説とイラストを描いて、けれどもトーンがうまく使えずにおかしな仕上がりになってしまったし、担当した裏表紙の二色刷りはずれていたけれど。

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