平野啓一郎さんの『マチネの終わりに』の主人公の描写に胸打たれた——アノヒトの読書遍歴:河邉徹さん(前編)
ロックバンド「WEAVER」のドラマーとして活動する河邉徹さん。製作する楽曲のほぼすべての作詞を手掛けます。高校時代、同級生である奥野翔太さん、杉本雄治さんらとバンドを結成し、2009年10年、配信限定シングル『白朝夢』で念願のメジャーデビューを果たしました。現在もなおライブなど勢力的に音楽活動を続ける河邉さん。今回はそんな河邉さんに、日頃の読書の生活についてお伺いしました。
——まず最初に、本はいつ頃から読むようになりましたか?
「小学生の頃は本を読むのがそこまで得意ではなくて、読書感想文が死ぬほど苦手だった記憶があります。母や姉にどうやって書くのかを聞いたりして手伝ってもらったりしました(笑)。分量的には原稿用紙5枚とか10枚だったと思うんですけど、今思うと5枚とか10枚って一瞬じゃないですか。あのときはそれにすごく苦戦していたなって思って。だから小説とか文字だけのものを読むのがすごく苦手だったんですけど、当時『こち亀(こちら葛飾区亀有公園前派出所)』が家に全冊あって。意外と文字数が多いとか言われたりする漫画だと思うんですけど…それを無茶苦茶読んでいましたね」
——漫画は普段も読んだりするんでしょうか?
「漫画は今でも大好きですし、結構読んだりします。最近改めて読んでいるのは、皆さんご存知だと思いますが、20周年を迎えた『ONE PIECE』です。本は実家に全巻置いてあるので、今はスマホで読んでいます。この前もキャンペーンで1巻から60巻を無料で公開しますっていうのをやっていましたね。ツアーとかでもそうなんですけど、移動中、たとえば大阪まで車で移動するときは、1巻から60巻まで延々と読んでいます。何回読んでもやっぱり感動します」
——なるほど。活字の作品はいかがでしょうか?
「そうですね、もうちょっと大人になってからは北杜夫さんの作品が好きになりました。『楡家の人びと』はちょっと読みづらいかもしれないですけど、あの小説は”いちいち”ファクターが始まるごとに描写がすごくて、これどうやって書いたんだろう、何を思ったらここまで書けるんだろうって、読むたびにゾワゾワするんですよね」
——最近のおすすめ作品というと、何かありますか?
「1年前に出会った、平野啓一郎さんの『マチネの終わりに』。海外の通信社で働くジャーナリストである洋子と、天才クラシックギタリストである蒔野という男性の物語です。洋子は蒔野の日本でのコンサートに友人に連れられてやって来て、終了直後に挨拶で訪れた楽屋で二人は知り合います。出会った瞬間から互いに惹かれ合う波長みたいなものがあって。本文では『二人の会話は尽きる気配がなかった。それは、最初だからというのではなく、最初から尽きない性質のものであるかのようだった』とあります」
——二人の恋愛物語という感じの作品でしょうか?
「そうなんですが、実は物語として面白いのは、洋子にはすでにアメリカにフィアンセがいて。そのことは蒔野も出会った日にすぐに知ったんですけど、それでもお互いに忘れられなくて、メールでやり取りをしたり再び会ったりとかして、なくてはならない存在になっていくんです」
——河邉さんはこの作品のどんなところに惹かれた感じでしょうか?
「物語の主人公がクラシックギタリストであるということで、やっぱり音楽を仕事にしている人ならではの悩みが書かれたりしていて、彼がスランプに陥っている描写とか、そういうのも僕は、一応音楽をやっている者の端くれとして読んでいてちょっと胸を打つものがありましたね」
——どんな人におすすめでしょうか?
「そうですね、この作品は描写がすごく繊細に描かれているので、二人の、大人の恋愛というのをすごく際立たせているそういう小説なんじゃないかと思います。大人の恋愛を楽しみたい方はぜひ読んでもらいたいなと思います。ちなみに後半には、まさかその人がそんなことするの? みたいなそういうシーンもありますので、その辺はハラハラしながらみんな読むと思うんですけど、ぜひ最後まで読んでみてください」
——ありがとうございます。後編では河邉さんの音楽活動に影響を与えた本をご紹介します。
<プロフィール>
河邉徹 かわべとおる/1988年生まれ、兵庫県神戸市出身。ロックバンド「WEAVER」でドラマーを担当し、すべて楽曲の作詞を手掛ける。バンドメンバーである奥野翔太、杉本雄治は兵庫県立神戸高校の同級生。関西学院大学に進学後も音楽活動を続け、2009年10年、配信限定シングル『白朝夢』で念願のメジャーデビューを果たす。バンド名には「音楽を紡ぐ人」という意味を込めた。今年9月にはEP『A/W』をリリースし、今もなおライブ活動などを中心に勢力的に活動している。
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