哲学者たちの変人エピソードがすごすぎる!? 「哲学に対するハードル」を下げる本

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哲学者たちの変人エピソードがすごすぎる!? 「哲学に対するハードル」を下げる本

■「哲学」のハードルを下げる「哲学入門ガイド」

「哲学」という言葉に、どんなイメージを抱くだろうか?

「難しい」「古い」「意味が分からないことを言っている」など、ネガティブな印象も多いだろう。

事実、哲学書は慣れていないと難しく感じる。だが、古今東西の哲学には現代でも十分に通用する知識や知恵があるし、自分自身の視野を広げることにも大いに役立つ。今ある学問や常識の原点とも言える哲学に触れることは、中途半端な教えを学ぶより何十倍も有意義だろう。

ただ、問題なのは「そうは言っても難しいものは難しい」のだ。

そんな難しい「哲学」に対するハードルを下げる一冊がある。

『哲学ch(チャンネル)』(高橋健太郎著、柏書房刊)だ。

本書は、大別するなら「哲学入門ガイド」という位置付けである。だが、本書はただの「哲学入門ガイド」ではない。

「徹底的に悪ふざけをしたユニークな哲学入門ガイド」なのだ。

まず本書は、構成からしてアバンギャルドだ。

丸ごと一冊が、朝から晩までのTV番組となっており、世間によく知られたワイドショーやバラエティ、スポーツやアニメや映画の番組がオマージュされている。

そして、各番組に登場するのが、古今東西の哲学者たちという設定なのだ。

上は、電話で奥様方の悩みを聞くコーナーが有名だった懐かしいお昼のワイドショー番組。司会を務めるのは「我思う、ゆえに我あり(コギト・エルゴ・スム)」の言葉で有名なデカルト。

下は、日曜夕方の国民的アニメをオマージュ。主役は『資本論』で有名なマルクスだ。

他にも、プラトンはワイドショーのコメンテーター、アリストテレスは人気ドラマの脚本家となり、古代中国の思想家たちは大喜利を繰り広げていたりする。

なんとも荒唐無稽な世界観だが、このくだらなさが「哲学に対するハードル」を取り払ってくれている。しかも、読んでいくと、それぞれの哲学者がどんなことを考えて、どんな主張をしていたのか、その片鱗がわかるようになっているのだ。

■シュールな世界観だからこそとっつきやすい「哲学者の教え」

17世紀の哲学者にトマス・ホッブズという人物がいる。

インターネットでこの人物のことを調べると「近世哲学にあって、ルネ・デカルトなどと共に機械論的世界観の先駆的哲学者の一人」という、小難しい説明がされている。

このホッブズの著作で有名なのが、国家についての政治哲学を論じた『リヴァイアサン』だ。「国家についての政治哲学」とは、これまた難しそうである。

本書では、このホッブズが、ロックンローラーとして「テツ子の部屋」という番組のゲストに招かれ、CDアルバム『リヴァイアサン』について語っているのだが、そのやりとりの一部を抜粋しよう。

ホッブズ「(中略)『リヴァイアサン』っていうのはな、聖書の『ヨブ記』に出てくる怪物のことだ。俺はコモン・ウェルス――さしあたり国家のことだな――っていう強大な力を持ったものを、この怪物にたとえてタイトルにしたわけだ」


ホッブズ「聞くけどさ、人間社会が国家も法律も何もない状態になったら、人間はどうなると思う?」

テツ子「税金もないし、法律もないなんて、ちょっとのびのびできますわね」

ホッブズ「ぜーんぜん違う!(中略)国家も法律もない〝自然状態〟は恐ろしいものなんだ!〝万人の万人に対する闘争〟が始まるんだ!それを歌ったのがアルバム『リヴァイアサン』の一曲目『自然状態』だ!」

ロックンローラーらしい口調でざっくりとした説明で、「なるほど、この哲学者はそういうことを言っているのか」と理解できる。

本書では、哲学者たちがアクの強いキャラクターとして登場し、コントや漫才のような掛け合いでトークが展開される。

それにしても、聖職者の家に生まれ、イングランド王・チャールズ二世の家庭教師をしていたホッブズを、ロックスターにするとは。生真面目な哲学研究者が読んだら、「ふざけるな」と怒り出すかもしれない。

■知って驚く「哲学者のプライベートエピソード」

本書には、哲学入門書らしく「脚注」(本文の下の方につける注記や追記)が散見するが、この脚注も遊び心に溢れている。

時折、哲学とは全く関係ない芸能人や有名人の名前に脚注が入れたりするお遊びもあるが、特に面白いのが哲学者本人についての脚注だ。

と言うのも、「この哲学者は、普段こんなことをしていた」「こんな逸話が残っている」といったエピソードが盛り込まれており、思わず興味を惹かれてしまうのだ。

たとえば、最初に挙げたデカルトは、「決闘が好きな体育会系」だったり、晩年は「スウェーデンの女王様に招かれて、ストックホルムに行くが寒すぎて死んでしまった」ようだ。

また、「イドラ」の概念や、「帰納法」の元祖として知られるフランシス・ベーコンという哲学者も、「最後は雪の中で鶏肉の冷凍実験をし、風邪をこじらせて死んだらしい」「彼がシェイクスピアの正体だという説がある」といったエピソードがある。

ドイツの哲学者であり数学者でもあるライプニッツには、「大きなカツラをかぶっていて、周囲から変な目で見られていた」「微分積分を考え出したが、ニュートンも同時に考えつき、優先権争いで二人の仲はメチャクチャに悪くなった」といったエピソードが脚注で紹介されている。

哲学者は私たちと同じ人間だ。でも、少し変わった人たちなのである。そういう印象を持つだけでも、哲学に対する敷居が少しは下がるというものだ。

あとがきで、著者は「本書がガイドしたのは、哲学という奥深い洞窟の入り口、の前くらいまで」だと述べている。

本書は、これから哲学を学んでみようと思っている人、過去に哲学に触れようと思って挫折した人には、うってつけの一冊だ。

本書を読んで、もし、興味を惹かれる哲学者の教えや言葉があったら、原書、もしくは、本書より少し先の入門書にチャレンジしてみるといいだろう。

(ライター:大村 佑介)

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