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【テレビ全録派鼎談】その1:全局録るだけではダメ 本当の全録環境とは?

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【テレビ全録派鼎談】その1:全局録るだけではダメ 本当の全録環境とは?

ガジェット通信は2008年11月、全テレビ局の番組を同時録画するレコーダー『SPIDER』を開発するPTPの創業メンバーの1人 である竹中直純氏と、ワンセグ放送を24時間全局録画するシステム『24時間ワンセグ野郎』の開発者で、ガジェット通信でもおなじみ『MobileHackerz』のMIRO氏による対談記事を連載しました。対談のテーマは「新しいテレビの楽しみ方を探る」というもの。全局を同時録画する“全録”環境による新しいテレビの楽しみ方を提案し、地上波アナログ放送が終了する2011年にテレビの視聴がどう変わっていくかを予測したこの連載から3年が経ちました。その後テレビをめぐる環境はどう変化し、さらに今後のテレビ視聴はどうなっていくのでしょうか。

今回は竹中氏、MIRO氏に加えて、PTPの代表取締役社長の有吉昌康氏を迎えた3名による鼎談(ていだん)を企画。『ニコニコ動画』を運営するニワンゴ取締役も務める竹中氏、現在は『ニコファーレ』の開発に携わるMIRO氏、そして地デジ版『SPIDER』の発売を控えた有吉氏という“テレビ全録派”の面々に、テレビの今とこれからを語っていただきます。

聞き手:ガジェット通信 宮原俊介(shnsk)

全録の理解は進んだのか

宮原:前回の対談で2011年のテレビ視聴はどうなっているか、という予測をしていただきました。

・テレビ局全局を録画する全録環境は急速には普及しない
・テレビは情報弱者のメディアになり、結果テレビ離れは進まない
・テレビからお金がなくなっていく
・テレビとネットなど、メディアの境界線が溶けていく

この予測を検証しながら、テレビの現状とこれからを見ていこうと思います。まず竹中さんは「全録環境は急速には普及しないだろう」とおっしゃっていました。

竹中:当たっているんじゃないですか。

宮原:でも全録環境は普及はしないと言いつつ、東芝の『CELL REGZA』が登場して、その後機器のラインアップは増えて身近なものになりつつあると思います。その状況というのは、どう思われますか。

竹中:前回は全録環境というものが理解されてないからと言ったんですかね。

宮原:ユーザーの意識が、それを進んで取り入れようというところまでいかないだろう、ということでしたね。

竹中:社会的にというか、大メーカーが作れたものというのが『CELL REGZA』なんだとすると、『CELL REGZA』は確かに全部録るという機能があるわけですが、その先が全然ないわけですよ。

それに加えて、別方面から『GoogleTV』みたいなものがきて、テレビに能動的に関わるということが、「メタデータ(※)とかインターネットにあるものを映像と等価に扱う」ということと、「全部録る」ということが今のところ分離した状態でしょ。大メーカーの中ではね。だから、ここの理解が一般の方の理解なんだと思うんですよ。
(※編集部注:「メタデータ」は、データに付加するデータのこと。ここでは、テレビ番組やCMに関する、放送日時や出演者など、あらゆる関連情報を指す)

残念ながら、PTPの『SPIDER』というのは一般の人が広く知っているというような状態ではまだないので、そうなってないわけですが、そういう意味で普及してないというのは当たり。

MIRO:全録環境という意味で、全局録画することはできる。けれども、形だけで概念として根付いてない。全録することが目的じゃなくて、全録することで何ができるのか、というところにまだ意識が追いついてない。というのはありますよね。

見たいものをすぐ見られる“ニュータイプ”のテレビ観

竹中:概念を表す言葉がないというか。一方で、現在『SPIDER』のアナログ版を持っている200世帯の人たちは、子供がいるところだと生まれた時から『SPIDER』があるような環境で、僕らには想像もつかないようなテレビ感を持った子供が育ちつつある。そこは急激に深くテレビについて、別に言葉がなくても当たり前に次世代感を持っている人たち。ニュータイプは生まれているような気がしますね。

MIRO:全禄でなくとも、今の子供は結構もう『YouTube』やらなにやらで、見たい動画はその場で出てくるのが当たり前になってますよね。録画に関しても、見たい番組は押したら出てくるのが当たり前になっている。押したら出てくるのは子供が好きな番組は僕が予約をしているからなんですけども、「○○見たい」「いや、まだ放送してないよ」というと、非常に不思議な顔をするというのが現実としてあるんですよね。

そういう感覚は、実は今放送されている全番組に対しても、ちゃんと適応できるんだよ。ということがまだ理解されてないし、そうなったらなったで全部録画した後にどうやって膨大なコンテンツを使っていくのか、というところにまだ意識がいってないというのはもったいないな、と思いますね。

「全録環境があることでなにができるか」というビジョン。ひとつはかなり理想に近い形でそれこそ『SPIDER』が実現していると思うんですけど、それが本当の正解なのかどうかというのはまだまだ試行錯誤の余地があるかもしれないですよね。

オンデマンドサービスがあれば全録は不要?

竹中:各放送局がオンデマンドに対応すれば『SPIDER』はいらないってよく言われます。でもそうならないわけですから。

有吉:なったとしてもそれは大きな間違いですよね。

竹中:例えば、全部の番組がね。手元にあるという状態はいまのところ『SPIDER』が一番うまくできている環境じゃないですか。これが例えば今は1週間とか2週間とかですけども、3か月とか半年とかになったときに、世界は変わるんでしょうか。

有吉:ストレージが? 

竹中:ストレージとかじゃなくて、本当にその1週間だけとかじゃなくて半年前までありますとか、1年前までありますとか。

有吉:関係ないと思います。1週間で十分じゃないですかね。

竹中:1週間で十分なんですかね。

有吉:僕が今各局がオンデマンドしてもそれは正解じゃないと言ったのは、各局でアーカイブしてもコンテンツはバラバラだからです。

この『渡る世間は鬼ばかり』(TBS)はこの局に見にいこうとか、『イケメンパラダイス』(フジテレビ)はどこどこに見にいこうとか、『ミュージックステーション』(テレビ朝日)ならどこどこに見にいこうって視聴者は考えないでしょう。番組と番組の間に関連があったとしても、他局間のものはつなぎようがないですから、絶対そこはおかしいですね。ユーザー視点から見て。

“テレビ局”を超えたインタフェースの必要性

竹中:テレビが始まって58年経って、一生懸命番組と放送局を結びつけようという試みが放送局によってされてるじゃないですか。日テレちゃんとかTBSのBooBoとかキャラクターもあって印象付けようとしていますけど、あれは全て間違いということですかね。

有吉:それは意味ないですね。

MIRO:局は各局で囲い込みはするけども、そういったのを横断的に統一したインタフェースで操作できるものがない、という話ですよね。先ほど、1週間が半年、1年になったら変わるのか、という話がありました。そのタイムスパンが半年、1年だと変わらないけど、これが多分30年、50年となったら変わると思うんですよ。

竹中:でも2クール、半年ぐらいで世界が変わるような気がするんですけど。だってドラマが全部見られるんですよ。

有吉:『SPIDER』で実現したいのは、ユーザーが別にそれがどこの放送局とか知らなくても直近であればローカルから再生されて、直近でなければクラウド側から、それも局のオンデマンドの後ろから再生されるという環境。それが別にどこからというのはまったく関係ない情報で、ただ誰かを検索したときに、その人のものが直近であればローカルから再生されるし、なければクラウドから再生されるということだと思うんですよね。そこは本当にMIROさんがおっしゃるように30年50年のソースがあれば、ユーザーとしてもずっと徹夜でテレビ見ちゃう。みたいなそんな世界になっちゃいますよね。

「録っても見ない」になる恐れ

有吉:さっき全録の普及する普及しないっていう話がお2人の間であったんですが、僕はやたらに容量だけが増えて、全録というのがメーカー各社でできるようになったとして、それはそれでそうなるだろうなと思って僕らも『SPIDER』を始めたわけです。ひとつ怖いなと思ってるのは、全録は普及したけども「やっぱり見ないもの」という烙印を押されるところ。つまり、視聴側のツールや工夫ですね。

MIRO:その価値観が根付くのが一番怖いですね。

有吉:全録が普及したけれども、急激に「やっぱりダメだ」という烙印を押されてしまう。それが一番僕はよろしくないんじゃないかなと思うんですよね。

竹中:それは有吉さんが願わくば『SPIDER』が普及することによって、よく知られることによって、テレビに対するコンシューマーの意識が変わって、それがひいては放送局、もしくは制作する側の気持ちにもつながった結果、番組がよくなる。というようなループが起こればいいっていうことは常々言ってるわけですけども。それが分断されている可能性がどこかにあるということですよね。

有吉:そうですね。ほとんどがやっぱり「出会わない」こと、興味があってもなんらかの制約で「コンテンツまでたどり着けない」ことが多いわけですから、それだけの視聴機会を逸してるわけじゃないですか。それが逸しないことになったら凄いことが本当は起こるはずなんですよ。要はコンテンツの消費がバーっと活発になるという。そうした時に見えてくるものというのが、たくさん制作サイド供給サイドでもあるはずなんですよね。それが好循環にまわっていく 秘訣だと思っているんですよね。

全録機器の現状

宮原:ここでハードの話題に移ります。『CELL REGZA』以降、4番組同時録画できるブルーレイレコーダーが出てきて、その後メーカーが全録に対応できる製品を出すようになっている。これらの製品はどうですか?

MIRO:4番組じゃ全録じゃないですよ! どれも中途半端。そしてユーザーインタフェース(UI)がまだダメですね。

みんな番組という単位にこだわりすぎている。区切りのひとつの指標だというのは分かるんですが、VHSのころから脈々とある番組録画のスタイルが残っていますね。本当は今この瞬間から5分さかのぼって見たい、とかのほうが便利なはずなんです。

竹中:5分さかのぼって見たい、というのを実現するUIはあるんですか?

MIRO:あります。『24時間ワンセグ野郎』では実現しています。

たとえばTwitterなどで「今○○が紹介された!」といったツイートを見かけたらそこからさかのぼってチェックしたいし、テレビで『ニコファーレ』が取り上げられた、なんて時は自分が携わったプロジェクトなんでその部分だけ見たいんですよ、番組全体じゃなくて。

竹中:なるほど。テレビがタイムラインなら、そこはメンションなんですね。自分が見たいもので区切りにする。

MIRO:見たいというモチベーションの区切り方があると思うんですよ。

有吉:ドラマは違いますよね。

MIRO:ドラマは番組を見たい、ということになると思いますが、今後全ストリームが残るようになると、興味は特定のシーンに向いていくと思います。

実は以前あるワンセグ全禄機を作っている人から「どんな使い方をするものなのか」と相談されたことがあるのですが、そこで一番最初に伝えたのが「今から5分前のシーンから再生」ということができるといいですよ、ということだったんです。でも既に開発が進んでいてそれはできなかったんですよね。ふと見回してみると、ほかの全録機器でも番組単位で管理していたりします。

有吉:モノマネはそういうものなんですよ。たとえばセブンイレブンと他のコンビニは、同じようなPOSシステムを使っていますが、売り上げは1日に1店舗20万円も違う。セブンイレブンのシステムはPOS1つとっても、明確な思想に基づいて作られているんですよ。例えば、商品の発注をするときに、グラフィック・オーダー・ターミナルというものを使うんですが、店員が棚を回りながら在庫や天気の状況を考慮して発注していきます。

他社はセブンイレブンの仕組みをマネしてこれを導入したのですが、効率が全然違う。なぜか。実はセブンイレブンは商品マスターと棚の上下の順番が一致しているので、棚を上から下まで見て発注していけばよい。他社はそこが一致していないので、ある棚を見たら別の商品を発注するために別の棚まで移動していかなければならないんですよ。

最初に考えた人は、“設計思想”があるんです。でも、モノマネをする人には見た目はマネできても、“思想”や“思い”は絶対にマネできない。これから、ハードディスクなどのストレージの容量はますます増えて、値段も下がっていくので、“全録”というのは当たり前、コモディティになることは間違いありません。でも、単なる“スペック”を越えて、そこにユーザー視点の“想い”があるかどうかで使い勝手は全く違ってきます。

家庭用『SPIDER』はいつ出る?

宮原:地デジ版『SPIDER』の家庭用はいつ発表になりそうですか?

有吉:2011年の年末に発表する予定です(このインタビューは2011年7月29日に収録したもの)。「こうなったらいい」というものはほとんど実現できるようになっています。

竹中:ハードディスクは2つ搭載するなら、最大6TBまでいけますよね。そうなると2週間全録することも可能になりますが。

有吉:1週間を超えても魅力ないと思います。だったら4TBで安くした方がいい。

宮原:先ほど、1週間分は『SPIDER』に残して、それより過去の番組はクラウドから取得すればよいという話がありました。これはクラウド側の仕組みが整備されないと意味がないですよね。

竹中:『NHKオンデマンド』ならいっぱい番組がありますよね。『SPIDER』の番組表と『NHKオンデマンド』の番組表は対応するんでしょうか。

有吉:迷わずたどりつけるようにしないとダメですね。

宮原:機器が過去の番組表データを持つのはダメだったと記憶しているんですが、大丈夫になったのでしょうか?

有吉:「こういう使い方をすればOK」という規定はあります。過去の番組表でも、その番組が録画されたデータがあればいいんです。

『SPIDER』には独自の番組メタデータがある。これをテレビ局が配信してるメタデータとリンクしていけば、クラウドへの橋渡しができると考えています。

宮原:『SPIDER』は手入力で精度の高い番組のメタデータがあるんですよね。なるほど。

竹中:コンシューマ版『SPIDER』は、1台あればあとは買い換えなくていいものにするんですよね。10年使ってれば壊れることもあると思うんですが。

有吉:L.L.Beanのようなテレビを目指します(笑)。故障したらいつでも部品を交換します。

竹中:ファイナルデバイスになるということですよね。それにはサービスやビジネスモデルの説明が必要なんじゃないですかね。

有吉:究極のテレビを提供します。番組に出会う、探せることにコミットするので、2~3週間修理に出していたら出会えないですよね。我々は48時間以内に修理してお返しします、みたいなサービスを目指すわけです。

もうひとつ、究極のリモコンを提供します。これは今後も「人間の手」の動きが変わらなければ変わらなくてよいものです。

竹中:リモコンでビジネスをすればいいんですよ。以前お話しましたよね。木目調のリモコンとか。

有吉:それはiPhoneのカバーなどのように他の会社がやればいいと思います。

(第2回に続く)

MIRO プロフィール:
MobileHackerzの中の人。デジタルガジェットをこよなく愛するモバイル男。でも最近「自転車」にハマり、引越して電車移動の時間が短くなりでガジェットをいじる時間が少なくなってます……。

竹中直純プロフィール:
有限会社未来検索ブラジル取締役、武蔵野美術大学講師。インターネット草創期より、数多くのWeb サイトやシステムの設計・運営に携わるプログラマー。技術家を自称している。現在は、システム開発のみならず、Web関連のディレクションやプロデュースを多数手がける。

有吉昌康プロフィール:
株式会社PTP 代表取締役社長。野村総合研究所で企業戦略やマーケティング戦略を専門に消費財メーカー、コンビニ等に対してコンサルティングを行う。同社を2000年に退職し、株)パワー・トゥ・ザ・ピープル(現 株式会社PTP)を創業。

参考記事:
【MobileHackerz X 竹中直純 スペシャル対談(1)】持ち歩いて楽しむテレビ動画 – MobileHackerzの飽くなき追求
http://getnews.jp/archives/1446[リンク]
【MobileHackerz X 竹中直純 スペシャル対談(2)】SPIDERが変えるテレビ視聴 – PTPの野心
http://getnews.jp/archives/1708[リンク]
【MobileHackerz X 竹中直純 スペシャル対談(3)】“全録”環境がテレビを面白くする
http://getnews.jp/archives/1959[リンク]
【MobileHackerz X 竹中直純 スペシャル対談(4)】私的利用のガイドラインが争点に–“全録”環境の課題
http://getnews.jp/archives/2380[リンク]
【MobileHackerz X 竹中直純 スペシャル対談(5):最終回】2011年のテレビを大予測–テレビ離れは“進まない”
http://getnews.jp/archives/2900[リンク]
地デジハイビジョンを1週間分 全チャンネルまるごと録画! 『地デジ版 SPIDER PRO』発表
http://getnews.jp/archives/89229[リンク]

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記者:

宮原俊介(編集長) 酒と音楽とプロレスを愛する、未来検索ブラジルのコンテンツプロデューサー。ゲームコミュニティ『モゲラ』も担当してます

ウェブサイト: http://mogera.jp/

TwitterID: shnskm

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