サウジアラビアで初のコミコン開催 オタク文化がサウジ国民を自由にする?

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先週、中東サウジアラビアのジッダで、オタク文化の祭典『コミコン』(海外版コミケ)が初めて開催された。漫画・アニメ・ゲームの展示即売ブースや、コスプレコーナー、ステージイベントなどを目当てに多くの若者たちが訪れ、賑わった。

約2万人の来場者のほとんどは男性だったが、中にはヒジャブで髪を覆っただけの、顔を露出したムスリム女性の姿も見受けられた。女性が1人で外出することもできないサウジアラビアにおいて、家庭以外で男女が空間を共にするのは非常に珍しいことだ。

イスラム法の厳格な解釈に基づく統治体制を敷くサウジアラビアの一般国民は、自由選挙もない、報道の自由もない、集会の自由もない、表現の自由もない、我々日本人の価値観からすると窮屈極まる生活を送っている。それに加えて女性の場合は男性の“保護者”が付き添わなければ1人で外出もできない、就職も制限される、車の運転もできないなどの不自由を強いられている。そんな自由のないサウジで、なぜコミコン会場は自由な空気に満ちていたのだろうか。

このイベントは、サウジアラビア政府が推進する「ビジョン2030」に則り、総合娯楽局が後援して開催された。

サウジアラビアというと、オイルマネーで潤う金満国家のイメージがあるかもしれない。数年前まではその認識で正しかったのだが、現在は深刻な財政難に陥っている。2014年から続く原油安が歳入のおよそ9割を石油輸出に頼る経済を直撃。さらに、労働人口の3分の2が公務員で、彼らは現職大臣が「公務員は1日1時間しか働かない」と認めるほど勤労意欲が低い。要するに、収入が激減したのに養わなければならないニートが多すぎて、もう支えきれないというわけだ。このままでは2020年に財政破綻しかねないとIMFも警告する。石油依存からの脱却は急務となっている。

そのような経済状況の中、日本のアニメ好きと伝わるムハンマド副皇太子が中心となって昨年まとめた経済改革計画「ビジョン2030」は、新産業の創出や社会保障の充実と共に「文化・娯楽活動の促進」を大きな柱のひとつに据え、「国内における文化・娯楽活動への支出を、総家計支出の2.9%から6%に引き上げる」という具体的な数値目標を掲げている。

ところが、抑圧的な社会では新たな文化・娯楽を生み出す創造的な精神の涵養など望めない。「ビジョン2030」の発表と共に、サウジアラビア政府の統治方針は、イスラム的価値観を尊重しつつも大きく変わろうとしているようだ。昨年には、イスラム法に反する罪で国民を逮捕する権限を宗教警察から剥奪し、その役割を縮小した。いかにもアメリカ的なWWE(プロレス)の興行を誘致するなど、欧米流のリベラルな価値観の流入を許し始めた。2015年には女性にも初めて選挙権と被選挙権が認められ、女性議員が誕生。女性の社会進出がようやく始まった。欧米や日本のリベラルな作品に触発されたサウジの若者たちは、これからどのような独自のオタク文化を生み出していくのだろう。


#سعودي_كوميك_كون(#saudicomicon)のハッシュタグで検索すると会場の画像がたくさん。日本をテーマにしたブースや漫画キャラのコスプレも多かったようだ。

画像引用:『Twitter』より

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