原子炉は原爆つくるための装置、核分裂は本質的に核兵器のもの-小出裕章さんが指摘する原発の真実

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すくらむ

今回はすくらむさんのブログ『すくらむ』からご寄稿いただきました。

原子炉は原爆つくるための装置、核分裂は本質的に核兵器のもの-小出裕章さんが指摘する原発の真実

先日、池田信夫さんがライブドアBLOGOSに「原子力への偏見と発見」という記事 を書いていました *1。その記事の冒頭には、「朝日新聞は『原発と原爆は同じだ』という非科学的なキャンペーンを執拗に続けている。人々の恐怖に迎合して新聞を売る彼らのやり方は、戦時中の報道と同じように歴史の裁きを受けるだろう」とあります。

*1:「原子力への偏見と発見」2011年10月09日『BLOGOS』
http://news.livedoor.com/article/detail/5924323/

「原発と原爆は同じだ」という言葉で思い出したのが、京都大学原子炉実験所助教・小出裕章さんの言説です。9月22日に津田塾大学で「原子力=核を選んだ世界の末路」と題した小出さんの講演が行われました。以前、このすくらむブログで、「原発なしでも電力は足りている-京都大学原子炉実験所助教・小出裕章さんの主張」*2 を紹介したときに、小出さんご本人からメールをいただいてそのときからすっかりファンになっていたので一度直接お話をうかがいたいと思って参加したわけですが、そのかいあって講演と質疑応答含めて4時間近く原発をめぐる多くの論点についてじっくりお話を聴くことができました(そのうえ、私自身も小出さんに直接質問することもでき大きな収穫を得たのでした)。

*2:「原発なしでも電力は足りている-京都大学原子炉実験所助教・小出裕章さんの主張」2011年04月04日『すくらむ』
http://ameblo.jp/kokkoippan/entry-10851020441.html

池田信夫さんは、「原発と原爆は同じだ」などというのは“非科学的”な“偏見”に過ぎないと言いたいようですが、科学的な結論は「原爆をつくるために原発はつくられ、これからも必要とされている。原子炉は電気をつくりたくてつくったものではなく、原爆をつくるためのものだ」ということです。

それでは、「原子力=核を選んだ世界の末路」と題した小出裕章さんの講演要旨の一部を以下紹介します。(by文責ノックオン。ツイッターアカウントはanti_poverty)

 
いま現在起こっている福島第一原発事故の問題を考える際に、歴史的な過去をどう引きずって起きた原発事故であるのかという点を正確に見ておかなければならないと私は考えています。

東京大空襲(344機のB29の火薬総量)の10倍の爆発力を持った広島・長崎の原爆

1945年3月10日、東京大空襲により東京は一面焼け野原になりました。344機ものB29が雨あられと爆弾を落とし東京を焼き尽くし10万人もの人が焼き殺されました。同じ年の8月、たった1個の原爆の投下によって、広島14万人、長崎7万人もの人が一瞬にして殺されたのです。

東京大空襲のとき飛来した344機というのは、1機目のB29が滑走路から飛び立ってその1分後に次のB29が飛び立っていくとして、滑走路から全機が飛び立つまでになんと6時間もかかるのです。このとてつもない数のB29が飛来し、下図(※レジュメ資料より)にあるように落とした爆弾の火薬総量が1685トンです。

原子炉は原爆つくるための装置

一方、広島と長崎に飛来したのは気象観測機を含めてたったの3機です。広島原爆1個の火薬総量は16キロトン(1万6000トン)、長崎原爆1個の火薬総量は21キロトン(2万1000トン)で、344機ものB29からの爆弾によって東京一面を焼け野原にした東京大空襲の火薬総量の10倍という爆発力を持つのが原爆なのです。

“原子炉”は原爆をつくるための装置 核分裂反応の持つ性質が100%花開いて原爆になった

なぜ、たった1個の原爆が、344機ものB29の10倍も上回る爆発力を持つにいたったのでしょうか。

灯油は、1キログラム燃やすと1万キロカロリーの燃焼エネルギーが発生しますが、火薬は灯油の10分の1の1千キロカロリーの燃焼エネルギーしか発生しません。燃焼に酸素を必要とする灯油に対して、火薬は酸素を必要とせずに燃えるのですが、その性質を獲得するために、発生するエネルギーが大幅に少なくなってしまうという非常に効率の悪いものなのです。

原爆に使う核分裂はどうでしょうか。ウランまたはプルトニウムの原子核に中性子を1個ぶつけてやると原子核が核分裂します。そして、この核分裂で中性子が飛び出します。このときに非常に重要なことは、最初にぶつかった中性子は1個ですが、核分裂後に中性子は2個から3個に増えるのです。つまり、最初に火をつけさえすれば――中性子をぶつけさえすれば、自ら爆発するためのエネルギーを2倍、3倍と生み出していき、次々と核分裂し、あっという間にすべてが燃える爆弾と化すのです。核分裂反応というのは本質的に爆弾向け、核兵器向けなのです(※下図参照)。

原子炉は原爆つくるための装置

原発を推進している人の中には、核分裂反応が原爆という形で初めて人類に利用されたことが不幸だったのだなどと言う人がいますが、それは大きな間違いです。核分裂反応というのはもともと爆弾向けであり、本質的に核兵器のものなのです。核分裂反応の持つ性質が100%花開いて原爆になったのです。

“原子炉”と言うと、みなさんは原発に使われるものだと思われるでしょうが、もともと“原子炉”は原爆をつくるためのもので、電気をつくるための装置ではありません。原爆の材料であるプルトニウムが欲しいから“原子炉”をつくったのです。人類最初の“原子炉”は原爆をつくるための装置にほかなりません。

プルトニウムを再処理で取り出して長崎原爆をはじめとする核兵器をつくり、核開発=原子力開発の中で大量に出て来るやっかいな核のゴミの始末に困った米軍は劣化ウラン弾をつくります。いま現在、アフガニスタン、イラクなどで米軍は劣化ウラン弾を使っています。核のゴミを使えるというコストがかからないという点に加えて、劣化ウラン弾には軍事的にも非常に優秀な性格を持っています。ウランはとても硬い性質を持っていた上、比重が鉄の7.9の倍以上の18.9と重く、貫通力にすぐれているのです。劣化ウラン弾は戦車の装甲をも貫き、空気中で発火するため戦車の中も燃やせるのです。そしてウランは放射能であり、敵に対して大きなダメージを与えることができる非常に優秀な兵器なのです。劣化ウラン弾が使われたイラクやアフガニスタンでは、これまでその国々には無かった病気が多発しています。たとえばイラク南部のバスラという湾岸戦争で米軍が大量の劣化ウラン弾を使用したところで、子ども10万人当たりの悪性疾患の発生数が十数倍になったり、出生児1千人当たりの先天性奇形の発生数が二十数倍と湾岸戦争以降、急上昇しています。

『もんじゅ』で何兆円ムダにしても核兵器を持つために高速増殖炉が必要

敦賀半島に高速増殖炉『もんじゅ』があります。1995年に本格的試運転をやろうとして事故を起こしました。『もんじゅ』は普通の原子炉とは違って、水ではなくてナトリウムで原子炉を冷やさなければなりません。試運転でナトリウムが配管から漏れ火事になりました。

高速増殖炉計画は破綻しています。1940年代からアメリカが高速増殖炉をつくろうとしましたが、計画はストップしたままです。日本では、14年以上止まっていた 『もんじゅ』を昨年また動かして事故を起こしました。実用化は延期に次ぐ延期を繰り返し、“10年経過すると20年先の実用化を計画”するなど高速増殖炉の計画は破綻しています。ところが、この計画をたてた学者は誰一人責任をとりません。繰り返し破綻している計画をたてた学者たちは学会に君臨して、これからも同じことを繰り返そうとしています。『もんじゅ』だけでもすでに1兆円のお金をムダにしています。

現在の日本の原発でできるプルトニウムでは、高性能の原爆はできません。そこで高性能の原爆をつくるために、高速増殖炉を計画しました。高速増殖炉を動かすことによって、純度98%という優秀なプルトニウムが手に入ります。電力の実用化なんて、どうでもいいのです。とにかく一基でも動かせば、超優秀な原爆材料が手に入る、これが高速増殖炉の目的です。これが、どんなに困難があっても、何十年止まっていても、何兆円お金をムダにしても、高速増殖炉をつくりたい日本国家の本音だと思います。

“原子力の平和利用”という原発を“隠れみの”にして核兵器を求める日本

2010年10月5日、NHKテレビで「スクープドキュメント“核”を求めた日本~被爆国の知られざる真実」という番組が放映されました。これは、日本が原発を始めた当時の、日本の外交官の証言を集めたものです。その中で 「日本という国の至高な利益が脅かされるような緊急事態になったら、核兵器を持つという選択肢も完全には除外しない」という発言があります。つまり、中国や北朝鮮から日本が攻撃を受けるようになったら、核兵器は必要だ、核兵器を持たない選択肢はない、こう言っているのです。

1969年の外務省・外交政策企画委員会の内部資料『わが国の外交政策大綱』の中には、「核兵器については、NPTに参加すると否とにかかわらず、当面核兵器は保有しない政策はとるが、核兵器製造の経済的・技術的ポテンシャル(能力)は常に保持するとともに、これに対する掣肘(せいちゅう)を受けないよう配慮する。又、核兵器の一般についての政策は国際政治・経済的な利益損失の計算に基づくものであるとの趣旨を国民に啓発する」と書かれています。

そして、外務省幹部は、「個人としての見解だが、日本の外交力の裏付けとして、核武装の選択の可能性を捨ててしまわない方がいい。保有能力はもつが、当面、政策としては持たない、という形でいく。そのためにも、プルトニウムの蓄積と、ミサイルに転用できるロケット技術は開発しておかなければならない」と証言しています。

技術に“平和利用”も“軍事利用”もありません。あるのは“平時利用”するか“戦時利用”するか、だけです。“平和利用”を標榜(ひょうぼう)して技術を持ってしまえば、いつでも軍事的に使うことができます。それが技術の宿命です。それを日本の国家は充分に知っていて、「原子力の平和利用」と言いながら着々と核兵器を生産する能力を身につけてきたのです。

“Nuclear Weapon”は“核兵器”と訳します。

“Nuclear Power Plant”は“原子力発電所”と訳します。

“Nuclear”は“核”なのに、日本では“核”と“原子力”に訳されます。

“Nuclear Development”をどう訳すでしょうか?

イランや北朝鮮などの“Nuclear Development”は、“核開発”と訳し「とても悪いことをやっている」とマスコミなどは訳します。ところが、日本がウラン濃縮や原発を動かす文脈で考えると“原子力開発”と訳されるのです。しかし、実態は同じです。日本も“核開発”をしているにすぎません。これまで多くの日本人は、“核”と“原子力”はあたかも違うものであるかのように思い込まされてきました。しかし、もともと原子炉は電気エネルギーを生み出すために開発されたものではなく、核兵器を生み出すためにこそ開発されたものなのです。“原子力の平和利用”という原発を“隠れみの”にして、核兵器をつくる能力を手にしているにすぎないのです。

執筆: この記事はすくらむさんのブログ『すくらむ』からご寄稿いただきました。

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