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沖縄古民家を守れ! 家賃3万円の定住促進プロジェクトとは?

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沖縄本島の北部に位置する「伊是名(いぜな)島」。2013年から始まった「定住促進事業」のひとつとして、村に残る古民家の修復・復元を進めている。ここに東京から移住した家族を前回紹介したが、そもそも、これはどんなプロジェクトなのか、役場にその目的や成果をうかがった。

古民家修復・復元の話は、島のおじい、おばあから始まった

「瓦の重みで屋根がダメになってきている。もう1年も持たないよ。小さいころから見てきた家が朽ちていくのは、しのびない」。そんな話が伊是名村役場・上地史修さんの元に届いた。上地さん自身も那覇市から伊是名島に移って20年以上になる。「確かに引越してきたときと比べると、集落の風景は変わりましたね。民家も壊され空き地も増え、役場としても危機感を持っていました」

伊是名島は約1600人の小さな島だ。1時間もあれば、車で島中を見て回れる。島には5つの集落があり、集落ごとに碁盤の目のように住宅がまとまって立ち並んでいる。特に「伊是名集落」と「勢理客(じっちゃく)集落」は、約400年前に集落がつくられた当時のまま、沖縄の古民家、赤瓦の木造平屋の家が残っている。

それでも、じっくりと見て回ると、冒頭のおじい、おばあが嘆いたように、屋根がたわみ今にも崩れ落ちそうな家が何軒もあった。自力で修復していると思われる家もあった。まだ、家屋が残っていればいいが、中には石垣だけを残して取り壊され、畑として使っている土地も散見された。

【画像1】(左)勢理客(じっちゃく)の集落。個人個人で修復しているようだが、昔ながらの沖縄の家の特徴的な赤瓦が少なくなっているのは仕方のないことかもしれない。(右)伊是名の集落に入っていくと、フクギ並木が続いているが、こうした風景も残していってほしいもの(写真撮影:伊藤加奈子)

【画像2】サンゴを積んだ石垣も、今では入手しづらいことやメンテナンスのしやすさなどの理由でブロック塀に代わっている家も。修繕で色の違いがあるサンゴの石垣も(写真撮影:伊藤加奈子)

【画像3】瓦の重みで屋根がたるみはじめている。あと何年持つのか。家が取り壊され石垣だけが残っている場所も多かった(写真撮影:伊藤加奈子)

島の人口減少を食い止める「定住促進事業」とセットで古民家を復元

伊是名村の古民家修復・復元プロジェクトは、平成25年にはじまった「定住促進事業」の一貫という位置づけになる。沖縄には竹富島や渡名喜(となき)島のように、島全体が国の重要伝統的建造物群保存地区に指定され、島ぐるみで沖縄の原風景を残していこうと取り組んでいるところもある。住民ひとりひとりが建物の保存、集落の維持のために尽力しているのだ。

「古民家の修復・復元にあたっては、文化財としての保存ということも検討しましたが、そのために住民の生活が規則で縛られてしまうことは避けたかった」と上地さんは言う。古民家が立ち並ぶ集落は、観光客を呼び込むことができる。しかし、移住定住者を増やし、地域に貢献してもらえる人材育成も村の重要な課題だった。

そこで、先行していた定住促進事業の一貫として、古民家修復・復元プロジェクトを組み込むことにした。伊是名村では、NPO法人が古民家「再生」を手掛け、観光客の宿泊施設などに活用しているが、宿泊に便利なように元の間取りを変えるなど、必ずしも昔のままというわけにはいかない。村は昔のままの建物の配置、外観、構造、間取りなど、昔の民家を再現させるため、あくまでも「修復・復元」にこだわった。

だから、古民家移住の募集要項には、住宅の維持管理、周辺も含めた環境整備をすること、原状変更をしてはいけないことなどが盛り込まれている。40歳以下で15歳以下の子どもがいることは定住促進事業ならではの条件だが、「古民家」の維持管理についても細かく規定されているのだ。家賃3万円、敷金なしとはいえ、気軽に移住できるというわけではない。

表と裏がはっきりと分かれた、沖縄独特の間取り

沖縄の古民家の造りは独特で、赤瓦の木造平屋建てという外観だけではなく、間取りも、いわゆる日本家屋とは異なる。

【画像4】沖縄の島々で石垣や屋敷林の種類は異なるが、家の配置や間取りは、ほぼ同じ。日本家屋のような大黒柱を中心とした田の字型ではなく、「表と裏」の造りになっている。資料:『沖縄大百科事典』(沖縄タイムス社刊)

礎石の上に柱を立て、貫で架構する構造の「貫木屋(ヌチジヤー)形式」が一般的で、基本的にクギは使わない。屋根は四方向に傾斜する寄棟(よせむね)で意外と天井は高い。こうした構造は、夏の暑さをしのぐもので、風通しを一番に考えられているからだ。

内部は、南側に一番座、二番座があり、ここには床の間や仏壇が配置されているのが普通。その周りを縁側で囲い、さらに外周には、軒が突き出た「雨端(あまはじ)」と呼ばれる犬走りがめぐらされている。日差しを遮り、文字通り、雨風が直接家屋にあたらないための工夫だ。この南側が家の表側。ハレの場となり、伝統行事などでは、この二間続きの和室がおもてなしの場となる。

家の北側にある部屋は「裏座」と呼ばれ、寝室や納戸のような使い方をされていた。土間にはかまどがつくられ、「火の神様」が祀られていた。便所や風呂は別棟で外につくられており、それぞれ敷地のなかで東西南北の配置が決まっていた。敷地の外周には石垣が積まれ、フクギなど屋敷林で囲まれて暴風対策もされていた。これが一般的な沖縄の古民家の造りである。

【画像5】前回紹介した伊藤さん家族が住むことになった伊是名集落の古民家。(左)奥が一番座、手前が二番座。それぞれ床の間と仏壇置き場があり、南を向いている。縁側があり、外周まで軒が突き出る形。これで夏の日差しはずいぶんと和らぐ。(右)裏座は板の間。こちらは屋根の構造がそのまま天井となり、縦に広がりのある空間となっている(画像提供:美音Space Design/写真撮影:川畑公平)

【画像6】キッチンや水まわりは最新のものを取り入れている。システムキッチンはIHクッキングヒーターで万一の火事にも対応している。新たに設置された水まわりには、可能な限り木の質感を取り入れ、古民家の雰囲気に合わせる工夫も施されている(画像提供:美音Space Design/写真撮影:川畑公平)

使える古材は再利用し、耐震基準にも適合させる

古民家の「修復・復元」であるため、基本的に家の配置や間取りについては、昔からの造りが踏襲されている。

「木材などは、残念ながら傷みが激しく、解体作業で選別し、使える部分を継ぎ足して使ったり、別の建物で使っていたものを再利用したりしましたが、もう島内では入手困難な木材も多く、九州などから取り寄せました」(上地さん)

実際に、いくつかの古民家を見せてもらったが、使える柱と柱を継いで1本の柱としていたり、黒ずんだ梁と真新しい色合いの柱が交差するなど、ひとつの家の中に新旧混在している。それも修復ならではのことだろう。

「悩ましかったのは、石垣です。沖縄では琉球石灰岩がよく使われますが、伊是名島ではサンゴを使い、野面(のづら)積みという方法で組んでいます。ほどよくサンゴとサンゴの間から風が通り抜け、崩れにくいのも特徴です。ただ、もうサンゴは採取できませんから、積み直しをするには数の確保が大変でした」(上地さん)。伊是名島はハブがいない島なので、この野面積みができるそうだ。ハブがいる島だと隙間に入り込んでしまうのだそう。

間取りで変わったのは、台所はシステムキッチンに、水まわりは最新の設備を取り入れたこと。もちろん家の中にある。また筋交い(すじかい)や火打梁(ひうちばり)など耐震基準に適合させるための構造上の変更もある。もともとはクギを使わない工法だが、こうした部分は金具を使い補強している。屋根も以前は土をかぶせて瓦を乗せていたが、重量があるため、代わりに防水シートを敷き、その上に赤瓦を載せ漆喰で止めている。

「でも、床下や天井裏には断熱材は入っていません。窓も昔風の木製の窓ですから、隙間風が入ってきます。移住してきた伊藤さんが、思いのほか寒かったとこぼしていましたね(笑)」(上地さん)

設計、解体、建築で、1棟およそ1年半。復元の場合は、すでに家屋は取り壊されているため、いわば新築。費用は4000万円程度だという。修復の場合は手作業で使えるものを選別しながら解体するため、手間がかかり5000万~6000万円かかったそうだ。いずれの場合も、島で入手できる素材が少ないため、建築コストは割高にならざるをえない。財源は国庫補助で賄っているが、このプロジェクトの効果が出てくるのは、まだまだ先になるのかもしれない。

それでも島の住民は、このプロジェクトを通して、あらためて古民家の良さに気づき始めたという。村に土地を譲りたいという申し出もでてきたそうだ。古民家プロジェクトによって新たな村民が誕生し、島の人々は静かに見守っている。

【画像7】修復した古民家では、古い木材で使えるものは可能な限り、残している。(左)色の濃淡で新旧の木材が混在しているのが分かる。(右)外の軒を支える柱。古木と古木を継ぎたして1本の柱として再利用している(左/画像提供:美音Space Design 写真撮影:川畑公平、右/写真撮影:伊藤加奈子)

【画像8】すでに家屋は取り壊され、元の所有者が畑として利用していた。新しい木材を使って復元された伊是名集落の古民家は屋敷林に守られ甦った(画像提供:伊是名村役場)

【画像9】いつ倒壊してもおかしくないほど、傷みが激しかった勢理客集落の古民家。複数の古民家の古材を集めて修復された。移住者も決定しており、到着を待つばかり(左/画像提供:伊是名村役場、右/画像提供:美音Space Design 写真撮影:川畑公平)

築110年を超える「旧名城家」は現在、登録有形文化財の申請中だ。島の暮らしを守りながら、文化や伝統を受け継ぎ残していく。古民家を観光資源として活用することもできるが、何よりも若い定住者を呼び込み、地域自体が活性化することが大事。伊是名村では、4月から第二弾として、1軒の古民家移住の募集を開始する。どんな家族が伊是名村にやってくるのか、島中が待ち遠しいことだろう。●取材協力

・伊是名村役場

・美音Space Design
元画像url http://suumo.jp/journal/wp/wp-content/uploads/2016/03/107624_main.jpg
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