「HTML5 vs Flash の抗争にすればページビューが稼げるんでしょう」 アドビのFlashプラットフォーム担当者が“HTML5”と“ゲーム”を語る
アドビ システムズが8月5日に開催したイベント『ADC MEETUP ROUND02』に合わせて、米Adobe Systems社のFlashプラットフォーム主席プロダクトマネージャーであるMike Chambers氏と、プラットフォームエバンジェリストのLee Brimelow氏が来日。ガジェット通信のインタビューに答えました。Flashプラットフォームの最新動向についてのインタビューは、HTML5とアドビの関係、そして今後Flashプラットフォームで力を入れていくとみられるゲーム分野での応用が大きなトピックとなりました。
HTML5をサポートするのは自然なこと
Lee:Flashプラットフォームは、デスクトップ(PC)向けにはゲーム、高度なビデオ、エンタープライズ系アプリケーションにフォーカスしています。その一方で、『Flash』『AIR』を使ったモバイルアプリの制作が注力分野となっています。一方で、今まで『Flash』を使って制作していた、ブラウザ側で動いていたコンテンツに、これからHTML、jQueryが使われることになるでしょう。
Mike:特にゲームの分野で私たちが期待しているのが3Dです。『Flash Player』のハードウェアアクセラレーションによるフル3Dサポートが実現しています。「Molehill」というコードネームです。プレビュー版は『Adobe Labs』からダウンロードできます。ブラウザ上のゲームにコンソール並みのグラフィックが持ち込まれることによって、ゲーム業界に革新的な次のステップを促すものになるだろうと考えています。
ガジェ通:HTML5のお話が出たところで、先日HTML5やCSS3を解説する『The Expressive Web』というサイトを立ち上げましたよね。アドビがなぜこういうものを公開したのでしょうか。
『The Expressive Web』
http://beta.theexpressiveweb.com/[リンク]
Mike:これは私が過去数か月にわたってリードしているプロジェクトなんです。開発者コミュニティにいる人たちは「アドビとFlash」のメガネをかけた状態で考えていくので、「Flashとどう関係があるんだろう?」と考えます。なので、アドビがHTML5をサポートすると言っても、なかなかこういった人たちには信じてもらえない。
でもよく考えてみれば、アドビは『Illustrator』『DreamWeaver』『Photoshop』などHTMLのデザイン・開発環境でトップの製品を出しています。なので、私たちとしてもHTML5もアドビとしてサポートすることが自然なのです。
このサイトを公開したのは、HTML5の中でも特に表現力において特徴あるフィーチャーをハイライトすることが目的です。私たちのコミュニティの人たちというのは、デスクトップやウェブで最もクリエイティブな作品を作る人たちなので、その人たちにウェブを介してフィーチャーを紹介したいと考えました。私たちは、このHTML5に対してとてもエキサイティングに思っているということ、様々なフィーチャーが出てきていることをウェブサイトで紹介するリソースとして使っていきます。同時に、いろんな人たちに学んでもらう場になっています。
ガジェ通:今後はどんな情報を提供していくのでしょうか。
Mike:現在は12の異なるフィーチャーを紹介しています。最初のリリースでは入れないでおこうと決めたいくつかのフィーチャーがあるんです。それらを追加したり、サイトを立ち上げる中で我々がいろいろ学んだことがあるので、それらについてはブログの方で紹介していきます。
このウェブサイトはリソースそのものとして扱う、つまりコンテンツについて学ぶためだけではなく、ウェブサイトのコードの部分も学んでもらえるようにしていきます。
ガジェ通:アドビはHTML5のオーサリングツール『Adobe Edge』も公開しています。こちらはアドビ製品の中ではどのような位置づけになるのでしょうか。
『Adobe Edge』(Adobe Labs)
http://labs.adobe.com/technologies/edge/[リンク]
Mike:『Adobe Edge』は今週(取材時)プレビューリリースをしました。クリエイティブデザイナー、モーショングラフィックデザイナーをターゲットにしたツールとなっています。HTML5、CSS3、JavaScriptといったHTML技術を使ってモーショングラフィックをウェブで展開したい人向けのツールです。
プレビューリリースはオーサータイムアニメーションにフォーカスしたものとなっています。ユーザーからのフィードバックをベースにしていくのですが、今後1.0のバージョンにはインタラクティビティなどさまざまなフィーチャーが加わることになります。
『The Expressive Web』のサイトでは、『Edge』を使っていないんです。まだサイトの立ち上げの段階ではプレビューリリースもされていない段階だったからです。我々は独自のツールを作りました。グラフィックのレイアウトツールなのですが、コード開発者にはコードをアウトプットして渡せるようになっています。ここではコード開発者が常にワークフローの中心に存在している。一方、『Edge』はデザイナーがこういったコンテンツを作ることができる。デザイナーが安心して使えるツールになっていて、自分でアニメーションを制作し、ワークフローの中で中心的な役割を担うことができます。
Flashはもういらない?
ガジェ通:『Edge』が出たことで、『Flash』はもういらない、というユーザーもいるようですが。
Mike:私自身はFlash開発者として12年の経験を持っており、『Flash』のバックグラウンドを持っています。『Flash』にとってかわるもの、それ自体のアイデアは新しいものではありません。今までの『Flash』の歴史を振り返ってみても、『Flash』ができることに対してウェブが後から追いついてできるようになっている。
2つ例を挙げましょう。ウェブサイトで複雑なメニューを作りたい場合、まず『Flash』を使う必要があった。でも今ではここ数年でCSSやJavaScriptが使えるようになってきました。シンプルな画像などのスライドショーを作りたい場合、数年前だったら『Flash』を使っていたと思います。最近ではCSSやJavaScriptが使えるようになっています。つまりこれは自然なプロセスです。
モーショングラフィックについては、『The Expressive Web』で見てもらって分かるように、ページの間にアニメーションが入っています。こういったコンテンツがウェブではHTMLで作られるようになるでしょう。Flash開発者やデザイナーにとって、これはいいことです。モーショングラフィックを作るにあたって、最も適しているのは彼らだからです。
だからといって『Flash』が消えていくわけではありません。アドビは新しい機能をどんどん追加しているからです。ゲームや高度なビデオ、それからクロスプラットフォームなアプリケーションや3Dアプリケーションを作るには『Flash』が一番向いています。後々にはウェブが追いついてくるでしょうが、その頃に『Flash』はさらに先を行っているということになるでしょう。
Lee:“4D”サポートとかね。
Mike:「HTML5 vs Flash」という抗争っぽく書いた方が、ブログでもメディアでもページビューが稼げるからそうしているんでしょうが、実はそんなことはないんです。
3Dゲームがブラウザに展開する
ガジェ通:Flashプラットフォームでのゲームの動向はどうなんでしょう。
Mike:『Facebook』などによりソーシャルゲームがひとつの大きなトレンドとなっています。ウェブ上ではカジュアルゲームがFlashゲームの主流になっていて、これはしばらく続くと思います。ウェブ上ですばらしいカジュアルゲームが作られてきている。それらがモバイルのデバイスへ簡単に展開できるようになるのが次のステップです。
一方で、今後は『Molehill』のような新しい3D機能により、『PlayStation』で遊んでいたようなゲームがブラウザでも遊べるようになります。
ガジェ通:『Molehill』は『Adobe Labs』で配布していて、正式なリリースはまだなんですよね。
Mike:『Flash Player 11』のベータバージョンをダウンロードしてもらう必要があります。
ガジェ通:ゲーム開発者は既に『Molehill』を使ったゲーム開発の準備を進めている、と。
Mike:その通り。既に『Molehill』を使った大規模なゲームが開発中です。3Dゲーム開発環境として人気がある『UNITY』も『Molehill』をサポートします。
ウェブ上のゲーム市場は今後どうなる
ガジェ通:ウェブ上のゲームでカジュアルゲームと3Dゲームは、今後どちらの市場が大きくなると考えていますか?
Mike:一般的には、『Molehill』を使った3Dゲームはウェブにとっては新しいものです。EA Gamesなど大きなゲーム会社が今後ウェブ用にゲームを出してくることになると思います。一方、インディーズゲームや個人でゲームを作っている開発者は今後もカジュアルゲームを作っていくでしょうし、必要に応じて『Molehill』の3Dゲームを作って対抗していくこともあるでしょう。まだ分かりません。どちらの分野が大きくなるかは、『Molehill』を出してこれから見守るということになります。
ウェブ上でコンソールのクオリティを持つゲームが欲しいという需要は既にあります。『Battlefield Online』などは、専用のプラグインを使ってこのようなゲームを作ってきました。需要はあったのですが、オーサリングして、それを展開することが容易ではなかった。そこを『Flash Player』を使うことでサポートできるようになります。
Lee:小規模なインディーズゲーム開発者は、Flashがプロフェッショナルな3Dゲーム用に使われることを心配しています。忘れてはいけないのは、『Angry Bird』など利益を生んで人気があるゲームは、実はシンプルな2Dゲームだということです。3Dゲームへの需要はありますが、シンプルな2Dゲームも大きな成功を収めています。いいアイデアさえあれば、人々はそのゲームを遊ぶということですね。
ゲームは当面アプリが主流に
ガジェ通:Flashプラットフォームで展開するゲームで、今後ネイティブアプリケーションとウェブアプリケーションではどちらの市場が大きくなるのでしょうか?
Mike:それにはいろいろな議論があります。直近ではおそらくアプリの方が主流になるでしょう。それは明らかにモバイルを意識しています。モバイルでウェブベースのゲームを作るのは難しいです。パフォーマンスがあまりよくないですからね。これはFlashでもHTMLでも言えることです。モバイルデバイスでブラウザを見るのは、アプリと比べて再生スピードが遅くなります。
Lee:収益化することも難しいですね。
Mike:そう。売ることも難しい。なので、しばらくはアプリが主流になるでしょう。
ガジェ通:将来的にはウェブアプリでも収益を上げていくことが可能になるのでしょうか。
Mike:可能性はあります。
Lee:アップルやGoogleがそこから売り上げを持っていくことができるかが、考えなければいけない部分ですね。
Mike:モバイルデバイスを介してウェブコンテンツから収益を上げることはかなり先になると思います。それにはインフラを構築するところから始めなければならない。
特に、今はモバイル市場で考えれば、アプリを開発してアプリマーケットに出すことが一番簡単な方法です。『AIR』ならAndroid、iOS向けにそれができます。iOSに関してはどんどんゲームが『AppStore』に載せられるようになっています。
Lee:アプリと比べると、モバイルのブラウザでFlashが動作する端末はそれほど多くない。ゲームとして成功するだけの母数がないですね。iOS、iPad、Windows Phone 7……いろいろなプラットフォームがあって、それらは『Flash Player』が動作しない。Androidだけをターゲットにすることになりますが、それが全部のAndroid端末になるわけではありません。
Mike:ユーザーがデバイスでコンテンツを探すとき、アプリを通してやり取りをしていると思います。「ゲームをやりたい」と思ったら、最初にやるのはアプリを探すことだと思います。デスクトップの場合はウェブに行って探すと思いますが、それとは違います。
開発者は、アプリの方がより優れたユーザー体験を作ることができます。パフォーマンスがよいですし、ユーザー体験を100%開発者がコントロールすることができます。
ガジェ通:お話に出たWindows Phoneへの対応は……。
Lee:我々が対応するか、ということより、マイクロソフトが対応するかどうかということになります。なので、マイクロソフトの代わりに我々が答える立場にはないですね。
ただ、我々が確実に言えるのは、どんなモバイルプラットフォームであっても我々はすべてサポートしていきたいということです。今は彼らの側にボールがあるので、彼ら次第ですね。
開発者が直接アプリを収益化可能になった
ガジェ通:コンテンツの収益化という点で質問です。アドビは開発者がアプリを配布・販売できる独自のアプリマーケット『Adobe InMarket』を立ち上げましたが、先日こちらの運営を終了することを発表しました。これはなぜなのでしょうか。
Lee:我々がサービスを提供するのではなく、開発の手伝いをして、個々のアプリストアに開発者自身で配信をしてもらうのがよいと判断しました。今のままだと中間ステップが存在することになりますからね。
ガジェ通:アドビとしては開発者がアプリをパブリッシュして、それを収益化することまで支援すると以前発表していましたが、そこへの取り組みはマーケット以外にあるということなのでしょうか。
Mike:モバイルデバイスでランタイムのパフォーマンスを劇的に向上したこともひとつのお手伝いだと考えています。自分が作りたいコンテンツを作れるランタイムを作ることが現在の我々のフォーカスです。
Lee:我々を介してではなく、開発者が直接アプリストアにコンテンツを載せて、そこで収益化を図っていけるようになっています。
ガジェ通:アプリ内の広告モデルでの収益化にアドビがコミットする可能性はあるのでしょうか。
Mike:モバイルアプリの広告はアップルが独自のシステムを持っているので、将来的なAIRの機能ではネイティブな機能拡張で広告のプラットフォームを活用できるようにしていきます。
* * * * *
ガジェ通:では最後に、日本の開発者にメッセージをお願いします。
Mike:日本に来たら毎回言うことなんですが、すばらしいクールなコンテンツが日本で生まれている。日本の開発者コミュニティにとっては言葉の壁があるので、日本以外の国からは日本のビジョンや洞察を理解、吸収しづらいんです。なので、今回日本に来ることができてうれしいです。日本に来るたびに私のハイライトになっているのが、直接日本の開発者の皆さんに会うことです。彼らへのメッセージがあるとすれば、「今のままクールなものを作り続けてください」ということです。
Lee:今、業界はクレイジーな状態で動いています。その中で、特定のひとつのテクノロジーを宗教的に「これしかない」とは思わないでください。自分の仕事に最も適したテクノロジーを選んでください。
関連記事:
モバイルをテーマに開催されたアドビの開発者向けイベント『ADC MEETUP ROUND01』を振り返る
https://getnews.jp/archives/127879[リンク]
“Mobile is Here.” 米アドビ社のプロダクトマネージャーがFlashプラットフォームのスマートフォン展開を語る
https://getnews.jp/archives/89172[リンク]
宮原俊介(エグゼクティブマネージャー) 酒と音楽とプロレスを愛する、未来検索ブラジルのコンテンツプロデューサー。2010年3月~2019年11月まで2代目編集長、2019年12月~2024年3月に編集主幹を務め現職。ゲームコミュニティ『モゲラ』も担当してます
ウェブサイト: http://mogera.jp/
TwitterID: shnskm
- ガジェット通信編集部への情報提供はこちら
- 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。