「マイケル・ムーアの撮り方は面白くない」 ドキュメンタリー作家・想田和弘”台本至上主義”に異を唱える

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映画作家の想田和弘氏

 「お前は家を建てるのに設計図なしで建てるのか」。ドキュメンタリー製作の”台本至上主義”に異を唱えている映画作家の想田和弘氏は以前、自身のドキュメンタリーに対する姿勢について、このように言われたことがあるそうだ。しかし――。2011年7月29日のニコニコ生放送「想田和弘監督に直撃!ドキュメンタリー映画とそのウラ側にある真実」に出演した想田氏は、「ドキュメンタリーは家じゃない」と語る。

 想田氏は、ナレーションも音楽も挿入しない作風で知られるドキュメンタリー映画作家だ。自らは”観察映画”と呼ぶ、台本すらないドキュメンタリーのジャンルを切り開いている。市議会補欠選挙の落下傘候補に焦点を当てた「選挙」(2007)や外来の精神科クリニックを舞台とした「精神」(2008)などは、海外で高く評価されている。

 一般的に、ドキュメンタリーの制作現場では、まず対象についてのリサーチをし、何が撮れる・撮れないかを決め、それから最後のオチまでつけた台本を書くことがよく行われる。アメリカ・ニューヨークで映像を学び、現地でテレビの世界に入った経験を持つ想田氏によると、ドキュメンタリーにおける”台本至上主義”は、日本だけではなく、世界的な現象だという。

 この”台本至上主義”がはびこる原因のひとつには、番組を失敗させたくないテレビ局側の意向がある。しかし想田氏は、ドキュメンタリーの台本について「自分でプランしたことしか撮れない。自分の台本に合うことばかりにカメラを向けて、都合よくつなぎ合わせるわけだから」と評した上で、
 

「ドキュメンタリーを作る時、一番ワクワクするのは、(自分が考えもしなかったような)訳が分からないものが撮れちゃった時。訳の分からない偶然を呼び寄せるためには、台本を捨てることが大事だ」

と語った。さらに、想田氏は「僕もかつて(テレビのドキュメンタリーを作っているころ)『お前は家を建てるのに設計図なしで建てるのか』と怒られたことがある」とした上で、

「だけど、ドキュメンタリーは家じゃない。下手すると失敗するというギリギリのところで作らないと、面白いドキュメンタリーはできないと思う」

と”ドキュメンタリー論”について熱く語った。

■マイケル・ムーアの撮り方は面白くない

映画作家の想田和弘氏

 近年、ドキュメンタリー映画が商業化し、多くの人に見られるようになってきた。そのきっかけとして、「華氏911」「シッコ」などの映画監督マイケル・ムーア氏の存在が挙げられる。番組では視聴者から、「マイケル・ムーアについてどう思うか?」という質問が寄せられた。これに対し想田氏は、「マイケル・ムーアのおかげでドキュメンタリーを映画館で見ることが一般化したし、その意味では恩がある」としながらも、ムーアの作品に対しては厳しい評価を下した。

 想田氏は「ブッシュの再選を阻むために撮られた映画」として、ジョージ・ブッシュ大統領(息子のほう)をテーマにした「華氏911」を例に挙げ、「『ブッシュはひどい大統領だ』ということを、いかに証明するかを考えて台本を書いて、それに合う映像を集めてくる」と、マイケル・ムーア氏の「結論が先にある」手法を説明。その上で、

「それでは作っていて面白くないと思う。だって、ブッシュ大統領に関する彼(=マイケル・ムーア)の意見は、作る前と作った後で変わっていないから。つまり、発見があまりない」

と語り、自身とのスタンスの違いを解説した。さらに想田氏は、もし自分が撮るとしたら

「僕は正直言って、ブッシュ大統領が大嫌いだけど、もしかしたら大好きになっちゃうかもしれないという”転向の可能性”にも自分の体と意識を開きながら撮る。それは中立になるということではなくて、よく見る、よく聞くということ。そこから何か発見したいということ」

と述べ、自身の”ドキュメンタリー論”と絡めながら、マイケル・ムーアの映画は「観察映画とは対極にある」と話していた。

(山下真史)

◇関連サイト
・[ニコニコ生放送] 視聴者の「マイケル・ムーアをどう思うか?」という質問部分から視聴-会員登録が必要
http://live.nicovideo.jp/watch/lv57781423?po=news&ref=news#01:33:14

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