一戸建てにも「修繕積立金」が必要な時代がやってきた

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戸建てにも「修繕積立金」が必要な時代がやってきた

念願のマイホームも長く住み続けて年月が経つと、さまざまな箇所が消耗、劣化、故障といった不具合に見舞われる。では、住み始めてからどのくらいの期間で、どんな不具合が出て、どのくらいの出費が必要なのか? 概算金額をお伝えするとともに、今回は一戸建てでも定期的な点検と予防が重要になってくる、ということについてお伝えしていこう。一戸建て住宅は、新築からどのくらいで、どの部分の補修が必要なのだろうか。家づくりを担う工務店の全国組織、一般財団法人全国工務店協会(JBN)の政策調査委員であり、工務店経営者でもある小林稔政さんと坂下託一さんに話を聞いた。

小林:私たちの会社の場合、新築から、定期的に点検に伺っていますが、10年もたつと、外壁や屋根の塗装が必要になってきます。その時、ざっと100万円単位で費用がかかります。
また、案外早いのが設備機器ですね。使い方と、寒冷地などの地域にもよりますがエアコンの外部基盤なんか、5年で交換なんてこともある。給湯器も早いもので7~8年で交換ということも。

一戸建て住宅のオーナーは、そんな住宅の不具合に対する費用をどこで捻出しているのだろうか。マンションのように、修繕積立金として毎月積み立てて準備しているというオーナーは?

小林:ゼロに近いと思います。

坂下:もちろん、お客様が新築を建てる場合資金計画から、将来のローンの返済、税金、保険を含めて綿密に計画されるわけですが、「修繕積立金」のように前もって積み立てて用意するという考えがないのが普通じゃないですか。

小林:共用部分にかかる修繕積立金がないから、マンションより一戸建て住宅を選ぶという人もいます。これは、我々供給サイドの問題・反省でもありますが、建てた後のメンテナンスの重要性についてこれまで十分にお伝えできていなかった、という側面もあると思います。

生涯のライフプランの中で、マンションの修繕積立金は当然住宅費用の一部に組まれているが、一戸建て住宅購入者の住宅関連費用の中で、目に見える保険や税金とは別に住宅修理費用が、適切に見積もられていることは少ないようだ。不測の費用が、修理費用だったわけだ。

左:築20年の屋根材が劣化後、剥がれて落下 右:雨漏り発生。発生個所を特定するため点検口を開けて確認

左:築20年の屋根材が劣化後、剥がれて落下 右:雨漏り発生。発生個所を特定するため点検口を開けて確認家の中に「雨水」を入れない。そのための屋根・外壁の補修が重要

木造住宅の大敵は、なんといっても雨水の内部への浸入だ。屋根、外壁を通って浸入する雨水は、放っておくとやがて内部腐朽を招き湿気がシロアリを発生させ、住宅の寿命は著しく短くなってしまう。
メンテナンスの最大のポイントもここにある。
多くの外壁で使われているサイディングボードの繋ぎ目に打ち込まれているシーリング材(コーキング)をやり直す。あるいは、塗装を塗り直すことで下地を保護する。屋根のスレート材も同じだ。定期的なコーティングがスレートそのものの劣化を未然に防ぐ意味がある。一般的には外まわりの塗装と言えば、住宅の見た目をよくするという美観の問題ととらえられがちだが、一番の目的はそうではないようだ。

坂下:下地を守る塗料そのものが、太陽の紫外線によって劣化します。塗料メーカーがいう寿命は10年もありません。

小林:それとサイディングの場合、早くて7,8年でシーリング材(コーキング)が劣化します。やがて、裂けてそれが雨漏りの原因になります。コーキングを打ちかえるだけでも有効ですが、足場の設置は費用がかさみますから、作業をまとめないと不経済です。だから、その時塗装と屋根のコーティングも含めて提案しますね。合わせて150万円くらい。

坂下:でもこれをしないで、例えば外壁が明らかに劣化して内部も怪しいとなると、はがして見ることになりますが、そうなるとサイディングも張り替えが必要で、大変な出費になります。

小林:外壁と屋根を合わせて150万円というイメージの場合、サイディングボードの張り替えになると倍以上の値段ですよ。

小林:屋根のスレートも劣化が早いですね。劣化して割れて中の断熱材がやられているとなると、大きな費用がかかるので、早めに7、8年でコーティングすれば長持ちします。もちろん、使用されているスレートのグレードにもよりますが、これに60万円くらいかけてメンテンナスするのに比較して、劣化したスレートをガルバリウム鋼板に張り替えるとなると100万円以上。この差をどう見るか、ですね。

外壁と屋根の塗装を10年に至るまでに繰り返す。その時の費用が100万円超。20年30年それをしないで、明らかに劣化が目に見えてきてから取り替えるとすると、その時の費用はざっと数百万。明らかにメンテナンスの費用合計を上回る。しかも、その時点では内部腐朽といった、外装部だけにとどまらない大きな費用が必要となるリスクを伴うということだ。

坂下:築38年の中古住宅を購入されたお客様なのですが、外部リフォームの見積もりで960万円とお出ししたのですが、怪しいと思って詳しく調査するとやはり躯体の傷みが進んでいて、結局2000 万円かかった例があります。

左:モルタルにリシンという吹付材を吹き付けた仕上げの外壁。塗装面の退色劣化と撥水性の低下により、雨水浸透とクラック(ひび割れ)が見られる 右:ベランダ部分。外壁(サイディング)に雨水が浸透し、冬場凍結してボロボロに。すぐ下のコーキングも劣化し雨水が浸透、常に濡れた状態になったため、苔が発生したものと思われる

左:モルタルにリシンという吹付材を吹き付けた仕上げの外壁。塗装面の退色劣化と撥水性の低下により、雨水浸透とクラック(ひび割れ)が見られる 右:ベランダ部分。外壁(サイディング)に雨水が浸透し、冬場凍結してボロボロに。すぐ下のコーキングも劣化し雨水が浸透、常に濡れた状態になったため、苔が発生したものと思われる月1万円から始める一戸建て住宅の修繕積立金

さて、一戸建て住宅の修繕積立金という話だが、住宅のライフサイクルの中で出てくる補修費をすべて予見し、その総額から修繕積立金を考えるのは難しい。だが、前出のように木造一戸建て住宅のメンテナンスの一番の目的が、「水を内部に入れない」ことだ。住宅の価値を最大に損なうことがないように、これに対応する予防メンテンナス費用を積み立てることをまず考えてみる。前出のお二人の話から、10年で120万円の費用をこれに充てるとする。そうすると、

月々1万円×12カ月×10年=120万円

ここから、始めてみたらどうだろう。もちろん、これとは別に設備機械の不具合が突然起きるかもしれない。ずっと、これで事足りることはないかもしれない。が、分譲マンションの修繕積立金も、毎年の理事会で長期修繕計画による見直しが行われているのと同様、年を経るごとに見直していけばいいと思う。

下記は取材をもとにおもな費用をまとめた概算だが、どんな屋根材、外壁を使っているかによって修繕が必要なタイミング・金額は異なってくる。以下を目安にまずは10年で120万円を目標にしつつ、あらためて自分の家の素材やメンテナンス状態を確認するといいだろう。

【図表】新築から10年ごとに、おもにどんなメンテナンスが必要なのかをまとめたもの(取材をもとにSUUMOジャーナル編集部で作成)

【図表】新築から10年ごとに、おもにどんなメンテナンスが必要なのかをまとめたもの(取材をもとにSUUMOジャーナル編集部で作成)

また、一戸建て住宅のメンテンナス事業はこれからますます参入企業が増えてくる。そうなると、費用に関しても、家計の負担にならないような仕組みも出てくるだろう。そのあたりにも注目しつつ、まずは、ここから始めてみてはいかがだろうか。

今、不動産流通業界でも、中古住宅のインスペクション(専門家による品質評価)を通じて、中古価格にその評価を反映させようとする動きもある。資産評価と住宅の品質が結び付けば、メンテナンスに対するオーナーの意識もさらに高くなるだろう。JBNでは、毎月定額を積み立ておくことで、メンテナンスの負担を少なくする商品の研究をされている。保険商品のような制度になるようだ。一戸建て住宅を検討されておられる方には、ぜひ注目していただきたいトピックスである。●取材協力
・一般財団法人全国工務店協会(JBN)政策調査委員  
 小林稔政さん(株式会社小林創建)  坂下託一さん(株式会社坂下工務店)
元記事URL http://suumo.jp/journal/2015/09/28/97975/

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