今週の永田町(2015.4.15~23)

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【衆議院議長に大島前予算委員長が就任】

先週20日、体調不良で4月15日から検査入院し、16日と17日の衆議院本会議を欠席していた町村衆議院議長が、川端衆議院副議長に辞表願を提出した。町村氏は、軽い脳梗塞が再発との診断を受けたことを明らかにしたうえで、「議長の責務の重さを考えたとき、いささかなりとも議長の仕事に悪影響が出る恐れがあることは避けなければならない」と辞任理由を説明した。通常国会の後半は、安倍内閣が重視する法案審議が目白押しだ。早期の体調回復が難しく、議長不在により今後の審議への影響・国会運営の停滞は避けるべきと、議長辞任を決断したとみられている。

 

*衆参両院の本会議や委員会での審議模様は、以下のページからご覧になれます。

  衆議院インターネット審議中継参議院インターネット審議中継

 21日、衆議院本会議で町村氏の議長辞職が許可され、新議長に大島理森・前予算委員長(自民党)、新予算委員長に河村建夫・衆議院議員が選出された。大島新議長は「職責の重大さを痛感している。歴代議長の思いを引き継ぎ、公正円満な運営に全力を傾ける」「大いなる議論と結論を出せる国会が国民の期待と信頼に応える姿だ」「少数意見や野党の議論を受け止めながら議論する環境作りが大事で、結論を出すことも立法府の責任だ」などと抱負を述べた。

 

安倍総理や与党は、自民党国対委員長の在任が歴代最長で、公明党や野党に幅ひろく太いパイプを持つ大島氏を新議長に起用することで、通常国会を円滑に乗り切っていきたい考えだ。

大型連休明けの通常国会後半は、集団的自衛権行使の限定容認を含む安全保障関連法案など与野党対決法案の審議入りが控えており、激しい与野党論戦が予想されている。大島氏が昨年5月に安全保障法制整備に関する与党協議会をスタートさせるにあたり、高村座長(自民党副総裁)と北側座長代理(公明党副代表)の間をとりもち、協議を円滑に導いてきた経緯もあるだけに、与党内から大島氏の調整力と安定感に期待する声があるようだ。

大島新議長は「議論することだけが国会の役割ではない」「いかなる法案でも賛成した方、反対した方は有権者への説明責任が大事だ。とりわけ安保法制はそういうことが重要だ」との認識を示した。

 

 また、衆議院議長の諮問機関「衆院選挙制度に関する調査会」(座長:佐々木毅元東京大学長)を軸に、与野党それぞれの主張が異なる1票の格差是正を含む衆議院選挙制度改革のとりまとめも引き継ぐこととなる。大島新議長は「最後は国会で議論し結論を出さなければならない。現実性を踏まえた答申を期待している」と述べた。与野党それぞれが納得のいく改革案を提示できるのか、大島新議長の調整力が問われることとなりそうだ。

 

 

【安全保障法制の与党協議、最終調整へ】

安全保障法制をめぐっては、17日と21日に安全保障法制整備に関する与党協議会(座長:高村・自民党副総裁、座長代理:北側・公明党副代表)を開催して協議を行った。政府は、17日の与党協議で関連法案の概要についてまとめた「安全保障法制の検討状況」を提示した。

 

日本の平和と安全のために活動する他国軍に給油や輸送、弾薬提供などの後方支援するため、現行の周辺事態法を大幅に改正する「重要影響事態安全確保法案」について、政府は、事実上の地理的制約となっている目的規定の「我が国周辺の地域」を削除する一方、「日米安全保障条約の効果的な運用に寄与することを中核とする」と明記することで自衛隊による後方支援目的を絞っていると説明した。適用範囲が無制限にひろがることを懸念して地理的制約を残しておきたい公明党に配慮しつつ、中東・ホルムズ海峡のシーレーン(海上交通路)封鎖により日本への原油輸送が滞る場合などの日本周辺以外の地域の有事も重要影響事態に認定したい政府側の思惑により、「中核」との曖昧な表現になったようだ。

後方支援の対象国として「国連憲章の目的達成に寄与する活動を行う外国の軍隊、その他これに類する組織」を盛り込み、これまで米軍に限定していた支援対象を拡大する。国会関与については、原則として国会の事前承認を要するが、緊急時には事後承認を認めるとしている。 

 

 国際社会の平和と安全のために活動を行う他国軍隊に対する後方支援として自衛隊の海外派遣を随時可能にする恒久法「国際平和支援法案」について、政府は、他国軍との共同活動であることを明確にする意図から、他国軍の後方支援を行うケースを「国際平和共同対処事態」と規定し、その要件を(1)支援対象国が国際連合決議や関連する国連決議にもとづいて活動していること、(2)国会の事前承認を基本とすることと説明した。

 また、国会承認を得る前に政府が閣議決定する基本計画については、「事態の経緯や国際社会の平和と安全に与える影響」「国際社会の取り組みの状況」「日本の対応が必要である理由」について明記することとし、自衛隊派遣の正当性について、政府が説明する枠組みを設けた。基本計画には、活動内容や大まかな活動範囲、部隊の規模・装備、自衛官の安全確保策などについても盛り込まれるという。

 

国際的な平和協力活動については、有志国による人道復興支援や治安維持など国際連合が統括しない活動もできるよう、国連平和維持活動(PKO)協力法を改正して「国際平和協力法案」とする。政府は、PKO以外の自衛隊が行う治安維持や停戦監視活動、人道復興支援などを「国際連携平和安全活動」と規定し、活動内容を「紛争による混乱に伴う切迫した暴力の脅威からの住民の保護」「武力紛争後に行われる民主的な手段による統治組織再建の援助」「武力紛争の再発防止に関する合意の順守の確保」などを挙げている。

PKO以外で自衛隊を派遣する条件について、政府は、国連決議がなくても、欧州連合(EU)や国際司法裁判所、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)、活動する国の要請がある場合は可能との方針を示した。ただ、UNHCRやEU以外の対象機関について明示せず、対象機関を「政令で定める」として先送りになった。

 自衛隊を海外派遣する際の国会承認については、国会閉会中や衆議院解散時に国会での事後承認も認めることについて、公明党は、これまで例外なき事前承認を主張していたが、人道目的であることから緊急時の事後承認を認める方針だという。

 

集団的自衛権行使の限定容認する武力攻撃事態対処法改正案について、政府は、他国に対するあらゆる武力攻撃と区別するねらいから、存立危機事態(日本と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、日本の存立が脅かされ、国民の生命などの権利が根底から覆される明白な危険がある事態)に及ぶ攻撃を新たに「存立危機武力攻撃」と定義すると説明した。

武力行使の新3要件(昨年7月の閣議決定)の第2要件の明記については、当初、「閣議決定したことをあえて法律に書き込む必要はない」と政府・自民党が慎重だったが、他にとりうる手段がないかを探る努力が不可欠と主張する公明党に譲歩して、政府が国会承認を得る際に提出する事態対処の基本方針(武力攻撃事態法第9条)の記載事項に「日本の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がなく、武力の行使が必要である理由」と盛り込まれた。

 

 

【恒久法、国会の事前承認は例外なしで大筋合意】

 21日の与党協議会では、国際平和支援法での国会関与のあり方について、「事前承認に例外は設けない」ことで自民党と公明党が大筋合意した。当初、政府・自民党は、緊急時の迅速な対応派遣を可能にするため、国会閉会中や衆議院解散時は事後承認を認める例外規定を盛り込むよう主張していたが、自衛隊の海外派遣拡大に歯止めをかけるべく、「例外なく事前承認」を求めた公明党に譲歩した。

 

これにより、政府は、自衛隊への派遣命令前に、閣議決定した基本計画を添えて国会承認を得なければならないとし、総理大臣から承認要請があれば、衆参両院は、国会閉会中または衆議院解散時においても国会を直ちに召集するなど所要の手段を尽くし、承認要請から7日以内に派遣可否を議決するよう努めなければならないとの努力義務を規定することとなった。派遣が長期にわたった場合には、(1)原則2年ごとに国会承認を要請、(2)国会閉会中または衆議院解散時は例外として事後承認を認めるとしている。 

 

国連平和維持活動(PKO)協力法改正案をめぐっては、「陸上自衛隊がイラク南部サマワで行った人道復興支援のような活動が可能になるため、特別措置法の新たな制定は不要」とする政府・自民党に対し、公明党は、イラク派遣当時の政府は停戦合意の認定が困難と判断しており、紛争当事者の間で停戦合意や自衛隊の受け入れ同意などの参加5原則を満たしていないとして「改正後も同様の活動はできない」と主張した。このため、自民党と公明党は「特措法が必要か否かは今後の判断」として棚上げする方針で一致したという。

 

 自民党と公明党との間で最大の焦点となっていた国会関与のあり方などについて決着したことで、24日の与党協議会での主要条文に関する最終調整を行う。日米両政府が外務・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会(2プラス2)を27日に米国で開催して安保法制と連動する日米防衛協力の指針(ガイドライン)の再改定で合意、28日に安倍総理が訪米してオバマ大統領との首脳会談に臨む予定であることから、自民党と公明党は、27日にも安全保障関連法案要綱について了承する予定だ。

その後、5月11日の与党協議会に政府が安全保障関連法案の全条文を提示し、与党は具体的な条文で最終確認のうえ正式合意する方向で進める。政府は、5月14日または15日にも関連法案を閣議決定のうえ国会に提出するようだ。

 

 22日、自民党の谷垣幹事長と公明党の井上幹事長ら与党幹部が会談し、関連法案の審議日程について協議し、5月19日または21日の衆議院本会議で審議入りすることをめざすことを確認した。ただ、与党は、すでに国会提出している労働者派遣法改正案・労基法改正案や農協改革関連法案の審議入りを優先させる方針で、21日の審議入りになる公算だ。民主党は「政府案が出てきて党内議論なしで議論しろというのは乱暴だ」(安住国対委員長代理)だとして、性急な審議入りに反対する考えを示していることから、26日以降にずれ込む可能性もあるという。

関連法案の閣議決定・国会提出後、与党は、与野党国対委員長会談を開催し、連日審議することが可能な特別委員会を衆参それぞれに設置することを野党に呼び掛ける方針だ。自民党は、衆議院に設置される特別委員会の委員長に、防衛大臣や衆議院安全保障委員長などを歴任した浜田靖一衆議院議員を充てる人事を内定している。浜田氏は与党協議会のメンバーではないことから、一定の中立性を保つ観点から人選されたようだ。特別委員会は、少なくとも40人規模の委員で構成する大型の委員会になるとみられている。

 

 

【安全保障法制をめぐる動向に注目を】

国会では、法的分離による送配電部門などの中立性確保や小売料金の規制撤廃、電力・ガス・熱の取引の監視を行う電力・ガス取引監視等委員会の設置など柱に、エネルギー分野の一体的なシステム改革を実施するための「電気事業法等改正案」や、独立行政法人改革の総仕上げとして、厚生労働省や国土交通省、文部科学省などが所管する独立行政法人の組織見直しなどを盛り込んだ「独立行政法人制度改革関連法案」などが審議入りしている。

そして、安全保障法制をめぐる与党協議が大詰めを迎えており、来週27日にも自民党と公明党が法案要綱について実質合意する予定でいる。一方、民主党や維新の党でも意見集約を進めており、野党側の検討作業もヤマ場を迎えつつあるようだ。与党協議や野党側の検討状況、各党の政策・主張などを抑えつつ、通常国会後半の主要争点となる安全保障関連法案がどのような内容に仕上がるのかについて見極めておいたほうがいいだろう。

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霞が関と永田町でつくられる“政策”“法律”“予算”。 その裏側にどのような問題がひそみ、本当の論点とは何なのか―。 高橋洋一会長、原英史社長はじめとする株式会社政策工房スタッフが、 直面する政策課題のポイント、一般メディアが報じない政策の真相、 国会動向などについての解説レポートを配信中!

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