外務省の海外安全情報の読み方ーーリスクを測る・基礎編(付録:ケニア・ガリッサの危険度)(東京大学准教授 池内恵)
しかしそれでも、基本は国ごとに色分けしてあるので、限界があります。
例えば、モロッコは全面が黄色の第1段階「十分注意してください」です。しかし隣国のアルジェリアとの国境を越えると、ちょっと赤っぽい第2段階の「渡航の是非を検討してください」になります(アルジェリア南部では第3段階の「渡航の延期をお勧めします」になります)。

(画像が見られない方は下記URLからご覧ください)
https://px1img.getnews.jp/img/archives/2015/04/chu04.jpg
私はこのモロッコの危険情報が間違っていると言いたいのではないのですが、素人考えでも、国境のこちら側は一体が安全で、国境を越えると突然一面に危険になる、ということがあるのか、疑問が出てきます。
もちろん、原則的には国ごとに分けるべきでしょう。ある場所の危険度は、その国の中央政府がどれだけ国土の隅々まで管理しているか否かにかかっていることが多いですから、中央政府が安定している国は、隅々まで安定していると考えられます。隣国の中央政府が不安定・弱体化していれば、ほんの数キロ離れた国境の向こう側では突然危険度が高くなる、ということもありえます。
しかし、中央政府が安定している国でも、隣国が極めて不安定だと、国境付近や、地理的な要因から中央政府の管轄が及びにくい地域において、部分的に治安が悪化する可能性があります。均質に一つの国の中が安全だとか危険だとか言うことができない状況が生まれてきています。
外務省の海外安全情報でも、可能な限り一国内の危険度にもグラデーションをつけている場合があります。県単位で、あるいは地域単位で塗り分けている場合があります。アルジェリアの北部と南部、さらに国境地帯での、危険度の違いなどです。
チュニジアはもっとも細やかに危険度に差をつけていて、これはかなり精度が高いといえます。ただし、3月18日の事件が首都チュニスで起こったということを除けば。チュニスは事件が起こるまで、危険度1の「十分注意してください」でした。これが事件後に危険度2に引き上げられました。
さて、4月2日に、ケニア東部のガリッサで、大学に武装集団が押し入って銃を乱射し、多くの死傷者を出す事件が発生しました。*3
*3:「Kenya siege over, 147 dead – As it happened」 2015年04月02日 『news24』
http://www.news24.com/Africa/News/LIVE-Masked-gunmen-storm-Kenya-university-20150402
この機会に、ケニアの安全(危険)情報を見てみましょう。ケニアのページを見ると、「危険情報」のところに目立つように文書がリンクされており、クリックすると地図付きで文書が表示されます。地図を拡大して、「周辺国危険情報」もクリックしてみると、このようになります。

(画像が見られない方は下記URLからご覧ください)
https://px1img.getnews.jp/img/archives/2015/04/chu05.jpg
危険情報を読みますと、東部のソマリアとの国境地帯、ダダーブ難民キャンプ、そしてガリッサに、最高レベルの赤色で塗られる、「退避勧告」が出されていることが分かります*4。地図にも明確にこれが示されています。
*4:「ケニアについての渡航情報(危険情報)の発出」 『外務省 海外安全ホームページ』
http://www2.anzen.mofa.go.jp/info/pchazardspecificinfo.asp?id=100&infocode=2015T003#ad-image-0
●ソマリアとの国境地帯、北東地域ダダーブ難民キャンプ周辺地域及び北東地域ガリッサ郡ガリッサ
:「退避を勧告します。渡航を延期してください。」(継続)
また、国境地帯を含む各県には、上から二番目の「渡航の延期をお勧めします」の危険情報が出されています。
●北東地域ワジア郡、ガリッサ郡(ダダーブ難民キャンプ周辺地域及びガリッサを除く)及び沿岸地域ラム郡(ソマリアとの国境地帯を除く)
:「渡航の延期をお勧めします。」(継続)
このように、海外に行くときは、旅程表に含まれる国とその地域にどの程度の危険情報が発せられているか、確認しておくといいでしょう。
2.広域情報を読んでみよう
→必ずしも高いレベルの危険情報が出ていない国でも、地域を横断して突発的に危険が及びうることが予想されている場合は、「広域情報」が提供されていることがあります。
各国のページに、地図には描かれてはいませんが文章で、国を横断して生じてくる可能性のある脅威・危険の所在について特記してあります。例えば、モロッコは全土が黄色の第1段階とされていますが、「広域情報」と「スポット情報」で、潜在的・突発的な脅威の存在が特記されています。ここを読んでおくと、一国ごとの危険度の塗り分けを越えた、流動的な危険の所在が見えてきます。
●【広域情報】 2015年03月19日
「ISILから帰還した戦闘員によるテロの潜在的脅威に関する注意喚起」 『外務省 海外安全ホームページ』
http://www2.anzen.mofa.go.jp/info/pcwideareaspecificinfo.asp?infocode=2015C075
◆【スポット情報】 2015年02月03日
「モロッコ:テロの脅威に関する注意喚起」 『外務省 海外安全ホームページ』
http://www2.anzen.mofa.go.jp/info/pcspotinfo.asp?infocode=2015C028
→ただしこういった情報は、予備知識がないと何のことかわからないかもしれません。