パナソニックが脱・年功序列に踏み切った切迫した事情
パナソニックが一般社員にも「日本型雇用」を原則廃止
パナソニックが9日、約10年ぶりに人事・賃金制度を見直すことを発表しました。長期雇用を重視し処遇にあまり差をつけない「日本型雇用」を原則廃止し、担当する仕事の大きさや役割を給与に反映させる制度を、2016年4月から一般社員にも適用するとのこと。なお、管理職クラスの社員においては、同様の制度が今年の4月より適用されることがすでに決まっています。
創業者である松下幸之助氏の「従業員は家族と同じ、企業は従業員とその家族の面倒を死ぬまで見る」という理念のもと、「年功序列」「終身雇用」という日本型雇用を初めて生み出したともいわれるパナソニック。また、その雇用体系こそが従業員の「愛社精神」を育み、パナソニックという企業を、日本を代表する大企業に成長させる要因ともなりました。
では、日本型雇用の代表選手であるパナソニックが、ついにその重い腰を上げ今回の改革に踏み切ったのには、どのような背景があるのでしょう。
主戦場は海外。より強いグルーバル人材の確保と育成が急務
今やパナソニックは、誰もが認めるグローバル企業です。しかし、今まで最大の武器であった日本型経営が、世界を相手に戦う中では障害となり始めました。パナソニックが2011年、2012年度と7,000億円を超える最終赤字を出し会社経営の岐路に立たされたことは記憶に新しく、その際、パナソニックの津賀一宏社長は「我々はデジタル家電分野の負け組」と述べ、グローバル競争での完敗を認めました。
しかしながらその後、構造改革を押し進め、2013年度には黒字転化を実現しています。さらにパナソニックは19年3月期での「売上高10兆円の達成」を目標に掲げ、さらなる改革を進めており、今回の人事・賃金制度改革もその一つにあたります。
パナソニックの主戦場は、すでに国内ではなく海外です。従来の日本型雇用により、積極的に新しいことにチャレンジしたり、より重い職責を担おうとする人材が減ってきたことで、社長をもって「我々は負け組」と言わしめるまでの辛酸を舐めました。世界のライバルたちと戦い抜くためには、年功序列と決別し、より強いグルーバル人材の確保と育成が急務と判断したのでしょう。
失敗事例と同じ轍を踏まず、「新型日本型雇用」誕生に期待
しかし、この欧米型の成果主義制度、1990年後半以降日本でも多くの企業にもてはやされ導入されたものの、失敗に終わった例も多く、今は大半が従来の日本型賃金体系に戻しているのも事実です。成果主義の導入が失敗に終わった原因として「労働者の生産性やモチベーションを上げるという本来の目的を忘れ、人件費削減の口実に利用されてしまった」「性格が温厚で競争は苦手だけど、組織の潤滑油となり結果的に組織を底上げしているような人たちが正当に評価されなくなった」「社員が個人主義に走り、組織としての連携がとれなくなった」などが挙げられます。
パナソニックが、こういった失敗事例と同じ轍を踏まず、グローバルに戦える優秀な人材を育て、優秀な社員が正当に高い評価を受ける一方、日本的な調和を重んじ、全従業員が安心して幸せに働ける「新型日本型雇用」を新たに生み出してくれることに期待します。
(吉田 崇/社会保険労務士)
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