高地滞在でやせることは可能か?

サイエンスあれこれ

今回は神無久さんのブログ『サイエンスあれこれ』からご寄稿いただきました。

高地滞在でやせることは可能か?
先日槍ヶ岳に行ってきたことはすでにお話したかと思うのですが、標高2000mを越える場所であれほど長く滞在したことはこれまでなかったので、いろいろと不思議な変化が身体に現れました。そのひとつが、確かにやせたという事実です。もっとも私の場合、通常より運動量は多く、摂取カロリーは低かったので、おそらくそのせいだろうと思うのですが、例えば、高地で特に何もせずただ好きなだけ食べて寝ているだけでやせることは可能なのでしょうか?

なぜなら、高地では、酸素分圧が低下するため、不足する酸素を補おうと心拍数は上昇し、低下する生理機能に対応しようと代謝は活発化すると考えられるからです。

少し前の論文になりますが、これを調べた研究者がいたんですねぇ。ドイツはミュンヘンのLudwig- Maximilians大学病院のFlorian Lippl氏は、運動嫌いの男性肥満患者20名を、ドイツ最高峰、標高2962mのZugspitze(ツークシュピッツ)にある研究施設(標高 2650m)に連れて行き(そこはドイツの最高峰、ケーブルカーなど移動手段は充実しているので、ここまで歩いて来る必要はない)、そこで地上と同じように好きなだけ食べて、生活してもらったそうです。

そして、1週間後彼らの体重を測定したところ、平均105kgだった彼らの体重は、平均1.5kg減少したというのです。同様に血圧も、肥満のマーカーであるレプチン量も低下していました。ただし、食事量自体も下界にいたときより減っており(1日あたり700カロリー減の2000数カロリー)、1.5kgの体重減少のうち1kgはこの食事量の低下によるものだとLippl氏らは考えているようです。これらの結果は、Nature系列の雑誌Obesity2月4日号にて発表*1 されました。

*1:Integrative Physiology『obesity』
Hypobaric Hypoxia Causes Body Weight Reduction in Obese Subjects
http://www.nature.com/oby/journal/v18/n4/abs/oby2009509a.html

確かにこの報告では体重の減少が、食事量の低下によるのか、代謝が活発化したことによるのかが区別できませんが、それでも好きなだけ食べていいよと言われたにも関わらず、自然と食事量が低下したのなら、それはそれで、標高の高さがもたらしたいい影響と言えなくもないと思うのですが……。ただ、山ではほとんどの人が、食欲が低下するそうですが、まれに食欲が増進する人もいるようで、そういう人たちの中には体重が増える人もいるようです。

一方でこういうデータもあります。アメリカ疾病予防管理センターによる最新統計によると、標高の高いコロラド州の住民は、全米で最も肥満が少ないそうです*2 。コロラド州の住民の摂取カロリーも全米で最も低いのかどうか興味あるところですが、ちょっと資料が見つかりませんでした。

*2:米には7割が肥満の州もある『Garbagenews.com』
http://www.garbagenews.net/archives/1466109.html

日本山岳協会が発行している「海外での高所滞在を安全に楽しむための健康上の注意」と題されたパンフレットによれば、人は高所に上るにつれて、その高度に順応すると同時に、完全には順応しきれない部分も増えていくのだそうです。そして標高5500m(1/2気圧)に達すると、順応はほぼ不可能となり、滞在が長引くほど生理機能は衰えていく一方なのだと。世界的に見て、村落の高度限界が4200mというのは、これとよく符合します。ここまで来ると、確かに何もしないでもやせられそうですが、同時に命の危険もありそうです。

う~ん。高地でただダラダラ生活しているだけでやせられるのか、それも安全に。ちょっと結論は難しそうですが、興味ある方はご自分で試してみるのも面白いかもしれません。ただ、山から下りてくるとさすがに非常にお腹がすきます。ここで食べ過ぎると元の木阿弥(もくあみ)ですからお気を付け下さい( ̄ー ̄)

執筆: この記事は神無久さんのブログ『サイエンスあれこれ 』からご寄稿いただきました。

文責: ガジェット通信

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