国民を惑わす、マスコミの「何でも批判」

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【山本洋一・株式会社政策工房 客員研究員】

 政府は14日の閣議で、2015年度予算案を決定した。今朝の新聞各紙は政健全化の遅れを批判しつつ、家計の負担増にも批判的な目を向けている。財政も家計の負担も国民の関心事だが、同時達成が困難なのも事実。安易な批判は国民の「ないものねだり」を助長する可能性がある。

 
 中日新聞が15日付の朝刊で組んだ予算案の特集面。真ん中の折り目を挟んで二つの見出しが左右のページに並んでいる。右面は「赤字縮小 なお遠く」、左面は「負担拡大 支援薄く」。一方で財政再建の遅れを批判しておきながら、もう一方で家計の負担増を批判している。

 
 ここまであからさまな例は珍しいが、多くの新聞は多かれ少なかれ、財政再建の遅れと家計の負担増の両者を批判している。ある日の紙面で財政再建にもっと取り組めと書いておきながら、翌日の紙面では家計の負担増で苦しむ低所得者を「可哀そう」に取り上げることもある。

 
 確かに今回の予算編成で「経済再生、財政健全化の二つを同時に達成」(安倍晋三首相)と言っておきながら、膨張する社会保障給付抑制への取り組みは不十分。介護保険料の値上げや相続税の対象拡大などで家計の負担が増えるのも事実である。

 
 しかし、苦しい財政状況の中で財政再建を重視すれば家計負担は増すし、家計の負担軽減を重視すれば財政再建が遠のくというのは誰でもわかる話。景気が劇的に回復しない限り、ほとんどの家庭で負担が減りながら、財政規律も改善するということはあり得ないのである。

 
 マスコミがこうして安易な批判を続ければ、国民もないものねだりをするようになる。財政再建を進めつつ、家計の負担も減らせというようになる。増税せずに、社会保障を充実せよというようになる。野党も国民受けのいいことばかり言うようになり、マスコミのように「何でも批判」、「何でも反対」になる。こうなると国家にとって負の連鎖でしかない。

 
 国家運営に「この道しかない」ことはない。財政規律を重視する考えもあるだろうし、家計負担の軽減を重視する考えもあるだろう。前者には小さな政府志向の保守層が多いだろうし、後者には大きな政府志向のリベラル層が多い。政党でいえば前者が維新の党、後者が民主党、その中間が自民党と言ったところだろう。

 
 マスコミに求められているのは、政党や国民が議論する際に、材料を提供することだ。日本の財政状況はどうなっており、今回の予算案によってどう変わるのか。今回の予算案によって社会保障サービスや、家計の負担はどう変わるのか。こうした事実を客観的に伝えることだろう。

 
 特定の思想や考えに基づいて断定的に論じるべきではないし、ましてや今回のように相矛盾する論調を並べたりするべきではない。

 
 近年、マスコミによる誤報や偏向報道が批判されるようになったが、今でも国民の新聞への信頼度は高い。新聞通信調査会が2014年に行った調査によると、新聞の信頼度は約70点。ほとんどの国民は特定の一紙しか読んでいないので、自宅で購読する新聞の書いていることを信じているのである。

 
 新聞もテレビも、自分たちの報道の影響の大きさを自覚すべきだ。そして安易な批判ばかりしていないか、特定の考えを読者に押し付けていないか、常に自問自答しながら紙面を作るべきである。 
 

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