軽減税率導入、一筋縄ではいかない現実
軽減税率、消費税10%引き上げ時に導入を目指す
平成26年4月より消費税率が8%に引き上げられました。当初、平成27年10月から消費税率10%への引き上げが予定されてましたが、平成29年4月まで1年半の延期が発表されたところです。
そんな中、何かと話題の消費税軽減税率ですが、平成26年11月に、与党税制協議会で平成29年4月の消費税10%引き上げ時に導入を目指すことが正式に決定され、12月の衆議院総選挙における与党の公約にも盛り込まれました。
対象品目の線引きなど難しい調整が必要
そもそも、なぜ軽減税率が必要なのか、という点ですが、生活必需品について税率引き上げによる低所得者の負担を少しでも和らげるという観点で検討されています。
しかし、安倍総理も、対象品目の線引きなど難しい調整が必要になるという認識を示している通り、「何を軽減するのか」や「線引きをするときに、どちらとも判断のつかないグレーゾーンというべき商品が出ないのか」といった問題があると思われます。
発泡酒とワインを同じ酒と考えるのか?など問題は山積み
食料品を例に平成26年6月の与党税制協議会で以下の案が出されています。
1、すべての飲食料品
2、すべての飲食料品-酒
3、すべての飲食料品-酒-外食
4、すべての飲食料品-酒-外食-菓子類
5、すべての飲食料品-酒-外食-菓子類-飲料
6、すべての飲食料品-酒-外食-菓子類-飲料-その他の加工食品(=生鮮食品)
7、米、みそ、しょうゆ
8、精米
上記の案によると、1の場合は消費税率1%軽減するごとに6,600億円の減収と予測しております。この減収となった部分の財源をどうするのか?国の借金が平成26年9月現在1,000超円を超えていることを考えると、どこかにしわ寄せがくると思われます。
線引きについては、お酒ひとつにとっても発泡酒とワインを同じ酒と考えるのか?サプリメントは食料品に含まれるのか?一箱数万円するおせち料理はどうなるのか?外食産業については店で食事をする場合とテイクアウトにした場合の取扱いは?といった問題があります。
さらに、食料品以外の生活必需品、たとえば電気、水道等の公共料金、医薬品等の非課税はどうするのか?といったことも考えなければなりません。線引きによって軽減税率にならなかった商品を扱う事業者の売上の落ち込みが起きないのか?ということも懸念されます。
軽減税率導入で企業の事務負担も税務調査の予算も増える
消費税の申告については、原則として事業者が、売上で預かった消費税から仕入れその他の経費の支払いで払った消費税を差し引いて納税することになっています。では、商品を販売する企業側や、事業を行う上でさまざまな商品を購入する企業側の事務処理はどうなるのでしょうか?中小企業でもパソコン会計が普及してはいますが、税率の判断をするのはあくまで人間であり、その区別をするのに相応の知識が必要となることから、事業者の事務負担も増えると考えられます。
税務当局の調査についても同様です。職員増員となると、その分、予算も必要になります。消費税軽減税率を導入する前に、どうすれば税率を少しでも上げなくても済むかという点も議論することが重要なのではないでしょうか。
参考:平成26年6月公表 与党税制協議会「消費税の軽減税率の検討について」
(泉田 裕史/税理士)
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