今週の永田町(2014.11.11~19)

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【7-9月期GDP速報、2四半期連続でマイナス】

 今週17日、2015年10月から消費税率10%に引き上げるか否かの判断材料のひとつとされている、2014年7-9月期の国内総生産(GDP、季節調整済み)1次速報が発表された。

 

GDP1次速報では、物価変動の影響を除いた実質で前期比0.4%減、年率換算1.6%減と事前の予測を大きく下回り、2四半期連続のマイナス成長となった。

今年4月の消費税率8%への引き上げにより景気が大きく落ち込んだ4-6月期(年率7.3%減)からの回復が遅れたことについて、増税に伴う物価上昇や円安影響に所得増加が追い付かないうえ、夏場の天候不順要因も重なって、GDPの約6割を占める個人消費(前期比0.4%増)が伸び悩んだことにある。

また、好調な企業業績を背景に、けん引役として期待された設備投資(0.2%減)や、住宅投資(6.7%減)などの低調も影響したとみられている。

 

甘利経済再生担当大臣は「景気の好循環は続いている」との認識を示しつつ、「景気後退という言葉で簡単に片付けられない」「消費マインドの萎縮が一番よくない。将来に向けて所得環境が連続して改善していくという安心感が必要だ」と強調した。

菅官房長官も、消費税率8%への引き上げについて「間違いなかった。このことによって財政健全化に大きな役割を果たした」と強調したうえで、「全体的には緩やかな回復基調にあり、アベノミクスによる日本経済再生の流れは底堅い」との見解を示した。

 

 

【経済対策の策定・補正予算の編成を指示】

消費税率引き上げ是非の最終決断にあたって、安倍総理がもう一つの判断材料としているのが、11月4日からスタートさせた政府の消費税率引き上げが日本経済に与える影響などを検証する「今後の経済財政動向等についての点検会合」での有識者ヒアリングだ。5回にわたって開催された点検会合は、18日に終了した。甘利経済財政担当大臣は、ヒアリング結果を安倍総理に報告を行った。

 

点検会合では、意見を述べた識者45人のうち、「一時的なマイナス成長で、決めたことを実行すべき」(西岡アール・ビー・エス証券東京支店チーフエコノミスト)、「再増税に伴う景気下押し圧力には経済対策で対応可能」(平野・全国銀行協会会長)、「少子化対策はここ1~2年が重要で、先送りは致命的」(大日向・恵泉女学園大大学院教授)など、予定通り消費税率引き上げるべきとの意見が6割強となった。また、景気の先行き懸念が強まっていることもあり、消費税率引き上げの前提として、経済対策を求める声も多くあった。

一方、「日銀の支援の下で経済が成長すれば、税収は増える。増税は不要」(宍戸・筑波大名誉教授)、「消費税増税で経済は痛んでおり、税率を8%から5%に戻すべき」(若田部・早大政治経済学術院教授)、「景気回復の実感が得られるまで反対」(吉川・全国消費生活相談員協会理事長)といった反対・慎重論や延長論も出た。

 また、「デフレ脱却を最優先にするべきで、1年半程度延ばす選択肢もある。期限を切り、引き上げ時期を明示して対処するべき」(白石・読売新聞グループ本社社長)、「先送りするとしても時期は明示するべき」(清原・三鷹市長)など、消費税率引き上げ時期を明示すべきだとの意見も出された。

 

1次速報値が予想を大きく下回り、2四半期連続マイナスとなったことで、2014年度全体もマイナス成長になる可能性があり、景気の後退局面に入っているのではないかとも指摘されている。また、消費税率引き上げの延期でその時点での景気の落ち込みは防げたとしても、景気へのプラス効果は限定的に留まる可能性もありうるとの見方も出始めている。

 

こうした景気の失速懸念や先行き不安の強まりに対処するべく、安倍総理は、18日の経済財政諮問会議で、地方経済活性化策などを柱とした新たな経済対策の策定と、それを裏付ける補正予算案の編成を関係閣僚に指示した。

具体的には、低所得者向けの現金給付やガソリン・灯油購入費の助成、地方自治体が配る地域商品券の財源手当て、円安・燃料費高騰の影響を緩和する中小企業・事業者対策、エコポイントの復活も含めた住宅購入促進策などが検討されている。公共事業関係については、災害対策に限定するとみられている。

補正予算案の規模は2兆~3兆円を軸に調整される予定で、財源は好調な企業業績を受けた税収の上ぶれなどを活用し、国債の追加発行は避ける方針だという。

 

 

【安倍総理、衆議院解散・総選挙を表明】

18日、安倍総理は記者会見を行い、消費税率引き上げの実施時期を1年半後(2016年4月)に延期して、重要政策の変更について国民に信を問うとともに、アベノミクス・成長戦略の継続是非を問うべく、衆議院を11月21日に解散して衆議院選挙の断行を表明した。

安倍総理は、消費税率の再引き上げにより「個人消費を押し下げ、デフレ脱却が危うくなる」との認識を示したうえで、経済情勢が悪いときに消費税率引き上げを先送りできると規定した社会保障・税一体改革関連法の景気弾力条項(付則18条)を適用した理由について「デフレを脱却し、経済成長させるアベノミクスを確かなものにするため」と説明した。また、国・地方の基礎的財政収支赤字を2020年度に黒字化する財政健全化目標を堅持する観点から、「18か月後に消費税率引き上げを再び延期することはないとはっきり断言する」とも述べた。

 

政府は、安倍総理の最終判断を踏まえ、来年1月召集の次期通常国会に、社会保障・税一体改革関連法の改正案を提出のうえ、速やかに成立を図る方針でいる。その際、財政健全化に取り組む意思を市場に明示し、金利急騰・国債暴落による混乱を未然に防ぐねらいから、景気弾力条項は撤廃するようだ。

また、消費税率10%への引き上げ時に財源を充てることが前提となっている子ども・子育て支援新制度に関する法律など、社会保障関係法の改正案もあわせて国会に提出する予定だという。

 

衆議院選挙は、12月2日公示、14日投開票の日程で行う方針だ。衆議院選挙後、首相指名選挙が行われる特別国会召集や新内閣の組閣など、年内のスケジュールが立て込んでいる。来年度予算編成や税制改正大綱の策定は越年となる見通しだが、作業の遅れを最小限にとどめるためにも、14日投開票とした。

 消費税率引き上げの延期を理由に衆議院解散・総選挙は大義がないとの批判があることに対し、安倍総理は「税制は国民生活に密接に関わっている」「国民生活にとって重い決断をする以上、速やかに国民に信を問うべきだと決心した」「成長戦略を国民とともに進めていくためには、どうしても国民の声を聞かなければならないと判断した」と、重要政策の変更について国民の信を問うのは「民主主義の王道」であり、「景気回復を実現したうえでの消費税率を引き上げる」ことについて理解を求めた。

 

 安倍総理はじめ与党側は、政権発足直前の成長率や物価上昇率、失業率、有効求人倍率、賃金の伸びなどを示して、民主党政権時代の停滞から飛躍した点をアピールしつつ、デフレ脱却・経済再生を最優先に取り組む「アベノミクス」継続の重要性を掲げて、3分の2超の議席の維持をめざしている。衆議院選挙で自民党・公明党で過半数を維持できなかった場合、安倍総理は、アベノミクスが否定されたとして退陣する意向を示し、強い決意を示した。

 

 

【野党各党、大義なき解散・総選挙と批判】

野党各党は、2四半期連続でマイナス成長となったことについて、「アベノミクスの失敗」と一斉に批判した。また、安倍総理が、衆院議員の任期を2年近く残したまま衆議院解散・総選挙に踏み切ったことに、「大義名分なき解散・総選挙」などと一斉に反発した。

 

増税分を社会保障に充てることを前提に消費税率引き上げを予定通り実施すべきと主張してきた民主党は、(1)消費税率引き上げの先送りはアベノミクスの失敗に原因があること、(2)国会議員の定数削減などの「身を切る改革」が先の通常国会で実現されなかったことや、社会保障の充実・安定が実行されていないことなど、安倍内閣の約束破りで自民党・公明党との3党合意の前提が崩れたとして、消費税率引き上げの延期容認に転じた。これにより、主要政党の足並みは増税凍結でほぼ揃った。消費税率引き上げ延期を争点に国民の信を問うことは「選択肢のない大義なき総選挙」でしかないと、野党側は安倍総理の姿勢に反発している。

また、厳しい経済状況のなかで総選挙を実施して政治空白をつくることへの疑問が呈されているほか、安全保障法制や原発再稼働、沖縄・普天間基地移転問題などの争点隠し、相次ぐ閣僚の「政治とカネ」疑惑の隠蔽ではないかとの批判、野党側の準備や選挙協力が進まないうちに踏み切るほうが有利といった自民党の党利党略だとの指摘などもされている。

 

 

【女性活躍推進法案と派遣法改正案、審議未了・廃案へ】

安倍総理が衆議院解散・総選挙の断行を表明したことを受け、与野党とも公約づくりや選挙準備を急ピッチで進めており、野党間では選挙協力などの模索も続けてられている。解散・選挙モードとなったことで、自民党は、臨時国会中に成立させる法案を絞り込んだ。

 

政府・与党は、地方創生の基本理念などを定め、地方での魅力ある雇用創出や結婚・出産・育児の環境整備などを着実に実施するよう客観的指標を盛り込んだ平成27年度からの5カ年計画「総合戦略」の策定を国・地方自治体に努力義務を課している「まち・ひと・しごと法案」、地域支援をめぐる各省への申請窓口を一元化するとともに活性化に取り組む自治体を支援するための「地域再生法改正案」を、21日までに参議院本会議で採決し、成立させる方針だ。

これに対し、対決姿勢を強める野党は、小笠原諸島周辺海域での中国漁船によるサンゴ密漁問題を受けて、外国人による日本領海内などでの違法操業などに対する罰則強化を図るための外国人漁業規制法改正案や、危険ドラッグの取り締まりを強化する薬事法改正案など、緊急を要する法案などを除いて、国会審議を拒否することで足並みをそろえている。

参議院自民党は、19日に安倍総理出席のもとで質疑を行い、20日に参考人質疑を行ったうえで採決、21日の参議院本会議で採決するシナリオを描いているが、想定通りに進むかは微妙な情勢だ。

 

地方創生関連2法案と並ぶ重点課題に位置付けられてきた、女性の採用・昇進機会を増やす取り組み加速を企業などに促すための「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律案」についても、与党は、臨時国会での成立を事実上断念した。女性活躍推進法案は、12日の衆議院内閣委員会で審議入りとなり、自民党が12日の衆議院内閣委員会理事会14日の採決を提案したが、民主党など野党側が難色をしめしたため、折り合いがつかなかった。その後も、与野党協議のメドは立っていない。このことから、このまま審議未了・廃案となる見通しだ。

 

 派遣労働者の柔軟な働き方を認めるため、企業の派遣受け入れ期間の最長3年という上限規制を撤廃(一部の専門業務を除く)する一方、派遣労働者一人ひとりの派遣期間の上限は原則3年に制限して、派遣会社に3年経過した後に派遣先での直接雇用の依頼や、新たな派遣先の提供などの雇用安定措置を義務づける「労働者派遣法改正案」について、与党は、臨時国会での成立を事実上断念した。

当初、与党は、12日にも衆議院厚生労働委員会で採決する構えだったが、野党の反発により審議が進まなかった。与野党協議の結果、エボラ出血熱への対策を強化する感染症法改正案や、危険ドラッグを規制する薬事法改正案を優先して審議することで折り合った。与党側は、野党の反対を押し切ってまで審議を強行するのは得策ではないと判断した。改正案は、審議未了により廃案となる見通しだ。

 

安倍総理の衆議院解散・総選挙の正式表明を受けて、与野党とも選挙モードに入った。国会の残された審議時間は、極めて限られている。衆議院選挙を意識した与野党の駆け引きが続いているなか、重要法案はじめ各法案のうち、どの法案が成立し、何が審議未了により廃案となるのかについてもみておいたほうがいいだろう。

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霞が関と永田町でつくられる“政策”“法律”“予算”。 その裏側にどのような問題がひそみ、本当の論点とは何なのか―。 高橋洋一会長、原英史社長はじめとする株式会社政策工房スタッフが、 直面する政策課題のポイント、一般メディアが報じない政策の真相、 国会動向などについての解説レポートを配信中!

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