今週の永田町(2014.9.30~10.7)

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 先週9月30日から10月2日、29日に行われた安倍総理の所信表明演説に対する各党代表質問が衆参両院本会議で行われ、国会論戦がスタートした。また、3日と6日には、衆議院予算委員会で基本的質疑も開催された。

 

*衆参両院の本会議や委員会での審議模様は、以下のページからご覧になれます。

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【民主党がアベノミクス批判を展開】

民主党の海江田代表は、アベノミクスについて「企業がもうけるのが最優先の考え方だ。一時的な成長のために格差の固定化、拡大を容認する政策は国民の暮らしを守るという政府の責務を放棄するものだ」と批判した。また、急激な円安による物価上昇などはアベノミクスの副作用と指摘し、「中小企業の収益悪化や実質賃金低下にどう対処するのか」と迫った。民主党の前原議員も、名目賃金から物価変動の影響を除いた実質賃金が伸びていないことなど、マイナス面の経済指標を取り上げてアベノミクスの成果に疑問を呈した。

 

こうした民主党のアベノミクス批判に対し、安倍総理は、国内総生産(GDP)成長率が政権交代後にプラスに転じたことや、賃上げが過去15年で最高水準となっていることなどを示して「経済の好循環が生まれ始めている」と反論した。そのうえで、「成長戦略の確実な実施で、家計や中小企業にも広げていく」「政労使会議での議論を通じ、経済の好循環拡大に向けた環境整備を図り、賃金が毎年しっかり増えていく状況を実現していく」と述べた。

 

 

【野党が看板政策の問題点を指摘】

安倍総理が看板政策として掲げる地方創生については、民主党や維新の党などが「予算概算要求で、各府省は地方創生関連という特別枠をねらって縦割りの要求を行っており、方針が全く矛盾している」「相変わらずのお上意識で、中央から地方を見下ろす上から目線で地方創生をしようとしている」などと批判し、政府方針「バラマキ型の投資をしない」との整合性を追及した。

 

これに対し、安倍総理は、「従来の延長線上にない政策を実行する。地方に住みたい、子供を産みたいという国民の意欲を実現する」「地方の発意に基づく自主的な取り組みを国が後押しする」と強調し、地方へのバラマキとならないよう、事業を厳しく精査していくことを表明した。

また、地方創生の関連施策を着実に進めていくため、「地方のリーダーと意見交換の場を持つなど、地域の声に耳を傾けていきたい」と、安倍総理や石破地方創生担当大臣が参加して、地方自治体の首長と協議する場を設ける意向を示した。

 

女性の活躍推進については、民主党は「輝きたくても輝けない、生活に追われて苦しんでいる女性に、どのような施策を講じるのか」と、非正規雇用やシングルマザーなどの女性支援・貧困対策に具体策を示すよう要求した。みんなの党の行田女性局長も、社会的地位の高い女性に偏りがちな点を提起した。

 

 

【消費税率引き上げ是非:明確な答弁を回避】

来年10月から予定している消費税率10%に引き上げについて、野党側は、円安や消費低迷といった経済運営のマイナス面に焦点をあて、「消費増税できる状況にない」「アベノミクス失敗の引き金」(維新の党の江田共同代表)、「景気回復が遅れる現下の状況において、税率を上げる判断が正しいとは思えない」(次世代の党の平沼党首)、「景気対策と言うなら、増税凍結をしたらいかがか」(みんなの党の浅尾代表)などと牽制した。また、維新の党の松野議員は、消費税再増税の前提として国会議員定数の大幅削減など「身を切る改革」を先行させるべきとも主張した。民主党を除く野党各党は、消費税率再引き上げに反対で足並みをそろえている。

 

これに対し、安倍総理は「経済状況等を総合的に勘案しながら、本年中に適切に判断」「マクロ経済専門家による議論を早めにスタートしたい」と改めて表明し、12月の最終判断が縛られないようかわす答弁をし続けた。

景気悪化で税収増が見込めない事態に陥ることは絶対に避けなければならない点を強調したうえで、7~9月期の国内総生産(GDP)など経済指標や、燃料価格の高騰などの影響も踏まえるべく、冷静な経済分析を行って慎重に見極めたいとしている。また、今年4月の消費税率8%への引き上げに伴う景気腰折れを防ぐため実施した5.5兆円規模の経済対策について「どういう成果を上げたか分析したい」と、効果を検証する意向を示した。 

 

民主党の海江田代表は、「安倍政権とは異なる選択肢を国民に示す」と社会保障・税一体改革の自公民3党合意の破棄にも含みを持たせつつ、増収分2割相当を社会保障の充実にあてるよう確約を求めた。

安倍総理は、2015年度は1.8兆円強になるとの試算を示しつつ、消費税率引き上げ後も「2割程度を社会保障の充実に充てることとなる」と述べた。「国の信認を維持し、社会保障制度をしっかりと次世代に引き渡すためのもの」と説明し、子ども・子育て支援の充実、年金制度の改善などに振り向ける方針であることを強調した。

 

 公明党の井上幹事長が「予定通り実施できる環境整備を優先すべき」と発言し、生活必需品の税率を低く抑える軽減税率の導入を求めた。また、山口代表も「税率の引き上げ判断に際しては、必要に応じて補正予算の編成も含めた対策を講じる」よう求めた。安倍総理は、これらの点にも具体的な答弁を避けた。

 

 

【経済運営、雇用・労働改革にも言及】

 このほか、急激な円安進行や燃料費高騰などのコスト増が、地方経済や中小企業、消費者への悪影響が懸念されていることについて、安倍総理は「円高が行き過ぎれば、ものづくり企業は海外への移転を決断する。国内への設備投資を行わずに海外への設備投資を行うことになり、根っこから仕事がなくなるという問題もある」との認識を示した。

そのうえで、10月3日に経済産業省が発表した中小企業支援策などを念頭に適切に対応するとともに、「燃料価格の高騰を含め、経済の状況等に慎重に目配りしていく」意向を明らかにした。

 

派遣労働者の期間上限(最長3年)を事実上撤廃して条件付きで無期限派遣を認める労働者派遣法改正案に反対の民主党などが批判を強めている。これに対し、安倍総理は、「派遣労働者の正社員化を含むキャリアアップを支援するもので、非正規雇用を増やすのではない」「さまざまなニーズに応えていくための法律で、派遣労働者を増やすための法律ではない」などと反論した。

 また、労働時間に関係なく、成果に応じて報酬を払う新たな労働時間制度について、「長時間労働を強いられることがあってはならない」「対象となる勤労者の健康確保を前提として制度を構築できるよう関係審議会で議論を進めていく」と、過重労働などの弊害を招かないよう配慮する意向を示した。制度設計にあたって、(1)希望しない労働者には適用しないこと、(2)職務の範囲が明確で、高い職業能力を持つ人材に絞ること、(3)賃金が下がらないようにすることを挙げている。

 

 

【安全保障法制:臨時国会での論戦に応じる意向】

集団的自衛権行使の限定容認に向けた7月の閣議決定を踏まえての安全保障法制について、海江田代表は、安倍総理が所信表明演説で言及しなかった点を指摘して「見事に論議拒否の姿勢を貫いている。国民の理解が進まなくても国会で絶対多数だからかまわないという奢った態度」「国会の議論を先送りするやり方は立憲政治を根底から否定する」などと厳しく批判した。江田共同代表も、集団安全保障に積極的な自民党と、消極的な公明党の説明に齟齬がある点を指摘して、「看過できない」と指摘した。

 

これに対し、安倍総理は「議論拒否の発想は毛頭ない。臨時国会でもそれぞれの立場を国民の前に明らかにし、建設的な議論を行いたい」と反論し、野党との論戦に応じる姿勢を示した。そして、「国家国民のため、建設的な議論を行い、結果を出すことが私たち国会議員の使命だ。それぞれの立場を国民の前に明らかにしながら、建設的な議論を行っていきたい」と述べた。

 

新3要件に照らして武力行使を決める際、特定秘密保護法にもとづき判断の根拠が特定秘密に指定され、恣意的に隠される懸念もあることについて、安倍総理は「防衛出動、武力行使には、国会の事前・事後の承認が必要になる。そういう法律になっていく」と、現行法と同様、国会承認が必要との認識を示した。また、「政府として、ある事態が新3要件を満たすとの判断にいたった場合には、事実を含めた情勢認識などの情報を国会や国民に適切に公開していくことが極めて重要だ」とも述べた。

 

 

【地方創生2法案、9日にも審議入り方針】

政府が9月29日に国会提出した、地方創生の基本理念などを定める「まち・ひと・しごと法案」、および地域支援をめぐる各省への申請窓口を一元化するとともに、活性化に取り組む自治体を支援するための「地域再生法改正案」について、与党は、3日に開かれた衆議院議院運営委員会理事会で、関連2法案を審議する特別委員会の設置を9日の本会議で議決し、趣旨説明と質疑を行うことを提案した。特別委員会委員長には、地方行政に通じる鳩山邦夫衆議院議員(自民党)を充てる方針だ。

これに対し、野党各党は、特別委員会を設置する必要性そのものに疑問を呈している。このため、与野党で結論が出ず、今週中に再協議することとなった。

 

 石破地方創生担当大臣は「具体的に何がどうなるかを論戦で示したい」と述べているが、地方自治体の創意と自主性に委ねるのが政府の基本スタンスで、いまのところ浮上しているのは構想段階のものばかりで、具体的な施策が明らかとなっているわけではない。

政府内では、石破大臣を軸に検討作業がハイペースで進められている。石破大臣自ら地域の特色を生かした事業などに携わる民間企業やNPO関係者らと懇談したり、伊藤大臣補佐官を中心とする基本政策検討チームが、これまでの国の地域活性化策を検証して問題点を検証するべく、自治体や各府省へのヒアリングに着手したりしている。

 このほか、石破大臣は、まち・ひと・しごと創生本部の事務局に地域の経済・金融を専門に担当するチームを設置した。担当チームには、地方銀行などから金融実務に精通した人材を登用する方針だという。

 

このほか、地方創生を進める一環として、政府は3日、創業10年未満の中小企業から商品・サービスの政府調達を促進するため、政府調達での中小企業への配慮を定めた官公需法など3法を一括して改正する「中小企業需要創生法案」を閣議決定し、臨時国会に提出した。中小企業需要創生法案では、新規中小企業者との契約目標を政府が定めることなどを規定している。

 

 

【女性活躍推進:数値目標設定は義務付けへ】

 政府は、女性が働きやすい社会づくりに向けた雇用・職場環境の改善、出産・育児支援の強化など、来春までに実施する政策を集めた「政策パッケージ」を近く決定する予定でいる。また、政府は3日の閣議で、全閣僚で構成し女性活躍施策を検討する司令塔「すべての女性が輝く社会づくり本部」(本部長は安倍総理、副本部長は菅官房長官、有村女性活躍担当大臣)の設置を決めた。今月10日にも本部初会合を開く予定だ。

 

2日、政府は安倍総裁直属「自民党女性活躍推進本部」の初会合で、女性登用に積極的な企業への補助金付与や、専業主婦世帯に有利な税制・社会保障制度の見直しを検討する方向性などについて検討する「すべての女性が輝く政策パッケージ(骨子案)」を提示した。

骨子案では、「2020年までに指導的地位にある女性の比率を30%に高める」との政府目標の達成に向け、出産・育児で退職した女性の正社員採用の支援、切れ目のない妊娠・出産支援、小学生以上の子どもの一時預かり体制の拡充、テレワークの導入促進や妊娠・出産の不利益が起きない職場づくりなどに取り組むとしている。

 

 また、有村大臣は、臨時国会に提出予定の「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律案」の概要を示した。同法案は、国や地方自治体に女性登用の数値目標を課す方針が明示されたほか、従業員301人以上の民間企業に対し採用者の女性比率や勤続年数の男女差、管理職の女用比率などを把握のうえ、女性の登用促進に向けた取り組み内容や実施時期をまとめた行動計画の策定・公表を義務付ける内容となっている。また、施行から10年間の時限立法とする方針も盛り込まれた。

 

 女性登用比率などの数値目標設定を企業に義務付けることをめぐっては、法案に義務規定を設ける方向で調整が進められている。9月30日、厚生労働大臣の諮問機関「労働政策審議会」は、経済界の慎重論に配慮して、数値目標の設定が「望ましい」としつつ「各社の実情に配慮が必要」と義務化に慎重な見解を示した報告書を、塩崎厚生労働大臣に提出した。ただ、政府内から進捗状況の把握や政策効果の検証を行うためにも義務化が必要との意見も踏まえ、各企業が実情に応じて数値や達成時期などを設定できるようにする折衷案でとりまとめていくようだ。

 

 

【法案審議入りをめぐる攻防にも注目を】

先週3日から衆参両院の予算委員会での本格論戦がスタートした。今週7日と8日には、参議院予算委員会で総括質疑が行われる。地方創生関連2法案が、早ければ9日にも衆議院本会議で審議入りとなる見通しだ。

安倍総理との対決色を強める野党は、衆議院予算委員会で、地方創生や消費税率引き上げ是非、安全保障法制、エネルギー政策、雇用政策などで安倍総理はじめ主要閣僚の認識を質すとともに、新閣僚の資質を問うべく、新閣僚に照準を合わせて政府方針とのズレをあぶり出そうと試みている。しかし、いまのところ新閣僚を窮地に追い込むには至っていない。

野党がどのように論戦を挑み、安倍総理や閣僚からどのような言質を引き出すのだろうか。引き続き与野党論戦を見極めつつ、法案の審議入りをめぐる与野党攻防もあわせてみておくことが大切だろう。

 

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霞が関と永田町でつくられる“政策”“法律”“予算”。 その裏側にどのような問題がひそみ、本当の論点とは何なのか―。 高橋洋一会長、原英史社長はじめとする株式会社政策工房スタッフが、 直面する政策課題のポイント、一般メディアが報じない政策の真相、 国会動向などについての解説レポートを配信中!

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