ガジェット通信 GetNews

見たことのないものを見に行こう
  • 注目俳優・太賀インタビュー「誰しもが漠然とした不安を抱える10代だった」 映画『ポンチョに夜明けの風はらませて』
  • 大泉洋『探偵はBARにいる』シリーズへの愛を語る「“好きなんだけど映画館には行かない”だと続かない」
  • 『ゴースト・イン・ザ・シェル』のバトーさんを直撃! 原作愛がハンパなくて『イノセンス』制作を懇願するレベル
  • 『ブレードランナー 2049』ハリソン・フォードインタビュー「仕事は好きなんだ。役に立ちたい。チャレンジが好き」
  • 『レディ・プレイヤー1』キャストインタビューで判明!「実際にこの映画をテーマにしたゲームが発売予定だよ」
  • 北原里英が映画主演で後輩に見せる“道”「AKB48が夢の通過点では無くゴールになっているからこそ」
  • 窪塚洋介が明かす未体験への挑戦と驚き 映画『沈黙-サイレンス-』でハリウッドデビューを飾る
  • 『スーサイド・スクワッド』のダイバーシティを担う二人に直撃 「人間関係を構築するのに必要なこと教えよう」
  • 性別や年代によって楽しみ方が変わる映画『妻ふり』 榮倉奈々&安田顕インタビュー
  • 北野武からの出演オファーに「役者やってて良かった」 『アウトレイジ 最終章』池内博之インタビュー
  • 『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』でカイロ・レンはどうなっちゃうの? アダム・ドライヴァーを直撃!
  • 戸次重幸が「理解出来ないほどの悪い役」に挑む実話をベースにした物語『神と人との間』
  • キアヌ・リーヴスに“仕事の流儀”を聞いてきた! 『ジョン・ウィック:チャプター2』が本日公開
  • 俳優・中村倫也インタビュー「女子の周りから固める恋愛作成は逆効果な気がします(笑)」
  • 『パシフィック・リム:アップライジング』監督&ジョン・ボイエガに「ぼくのかんがえたさいきょうのかいじゅう」を見てもらった!
  • 『ミッション:インポッシブル/フォール・アウト』サイモン・ペッグインタビュー「ベンジーがイーサンに唯一勝てる場所」とは?

体験を伝える―『ガジェット通信』の考え方

面白いものを探しにいこう 本物を体験し体感しよう 会いたい人に会いに行こう 見たことのないものを見に行こう そしてそれをやわらかくみんなに伝えよう [→ガジェ通についてもっと詳しく] [→ガジェット通信フロアについて]

豚と話せる!?新米教師の奮闘記〜あさのあつこ『グリーン・グリーン』

豚と話せる!?新米教師の奮闘記〜あさのあつこ『グリーン・グリーン』

 翠川真緑。「ミドリカワミドリ」と読む。主人公の名前だ。彼女については、”豚と話が通じる”というややファンタジー風味の設定があるのだが、個人的にはこの命名の方がよほど驚いた。思い切りがよすぎでは? しかも、真緑の母親は超がつくほど頭が固いタイプときている。マンガ『DEATH NOTE』において、警察官僚でゴリゴリに生真面目なイメージの父親と「おふくろさん」という言葉がしっくりくる地味めの母親から生まれた息子の名前が、「夜神月(ヤガミライト)」だったとき以来の衝撃といっていい。

 …と、揶揄するような書き方をしてしまったが、緑色、とりわけ自然の中にある緑が美しいことについては何の異論もない。本書の舞台は農林高校で、真緑は都会からやって来た新卒の教師。畜産学科に園芸・栽培科そして林業科と、自然には抜群に恵まれた環境である。新米でガチガチに緊張していた真緑の目にも、春の緑はまぶしく映ったことだろう。

 さて、真緑が県立喜多川農林高等学校の教師になったきっかけは、「失恋した直後に食べたご飯が、ものすごく美味しかった」から。…少々補足が必要かも。行きつけの喫茶店で元彼の飯倉芳人から別れを切り出された真緑。一度は店を出たものの、あてもなく歩き回って再びたどり着いたのは同じ喫茶店だった。倒れるように座り込んだ真緑の前に差し出されたのは、海苔が巻かれた握り飯。驚くほど美味しいそのお米は、兎鍋村にあるマスターの実家で作ったものだという。その後実際に村に足を運んだ真緑は、この土地で暮らしたいという結論に至ったのだった。

“魚というものは切り身の状態で海や川を泳いでいると思っていた”子どもの存在が、ニュースで報じられたのは何年前のことだっただろうか。そこまで極端ではなくとも、スーパーで買える食材そのものにしかなじみがないという人が多数派だろう。肉にしろ魚にしろ野菜にしろ、生きたままだったり収穫前だったりといった、加工される前の段階で見る機会がまったくないという都会人も少なくないのではないか。そんな中で農業や畜産を自分の将来の仕事ととらえて、高校から学ぼうと考える若者たちは頼もしい。

 とはいえ、もちろん第一次産業は甘いものではない。喜多川農林の退学者数は、1クラスあたりなんと2.7人。学年主任の豊福有希子教諭(丸顔・丸い体形・丸い目で、渾名は雪ダルマ)は、「生徒たちが一人も、途中でやめたりしない学校」を目指している。不慣れな環境で右往左往しながらも、全力で生徒や教師(や豚)たちにぶつかっていく真緑。本書は、融通が利かず理屈っぽかった彼女が、「本物の教師」となるべく第一歩を踏み出した最初の一年間の物語である。

 あさの氏の名が広く知られるようになったのは、児童文学の不朽の名作『バッテリー』(角川文庫)の著者としてであろう。孤高のピッチャー・巧と思いやりあふれるキャッチャー・豪らのいきいきとした描写は忘れられない。自分が少年や少女だった頃の心持ちを忘れず、作品に生かせる作家は貴重だとしみじみ思う。しかし、それは大人が描けてこそ真に輝く資質ではないだろうか。本書においても、社会人として歩み始めた真緑と、人生の大先輩として生徒たちを見守る豊福や園芸指導の朝日山など、魅力的な大人たちが登場する。子どもと大人、両方の心情を鮮やかに綴る得難い作家である著者には、今後ともさまざまな年代の主人公を描いていっていただきたい。

(松井ゆかり)

■関連記事

中学3年生ヒロシの一年間〜津村記久子『エヴリシング・フロウズ』
バディ界の新星登場!〜阿部智里『黄金の烏』
純文学なんか怖くない!〜柴崎友香『春の庭』

BOOKSTANDの記事一覧をみる
  • 誤字を発見した方はこちらからご連絡ください。
  • ガジェット通信編集部への情報提供はこちらから
  • 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。